地球上に男と女がいる限り、事件は起きる。

それはLINE上やデートのときだけでなく、男女の出会いの場である“お食事会”でも多発しているのだ。

五十嵐ルナ、35歳。

彼女は数々の食事会をセッティングし、男女の縁をつなぎ、夜の社交界での人脈形成も怠らない。

食事会の“手配師”として名を馳せている人物だ。

これまでに、自分より可愛くない子を連れていく女の計算や1軒目で早々に帰っていく女の真相と遭遇した。

そんな彼女が、今週目撃した食事会での事件とは・・・?




「ルナさん、聞いてください...」

それは、とある食事会の1週間後のことだった。

代々木上原の『ブーランジェエリー&カフェ マンマーノ』で、朝食用のパンを購入しようとしていたところ、悲壮感漂う今にも泣きそうな声の奈々から電話がかかってきた。

「奈々ちゃん、どうしたの?」

小松原奈々、27歳。

看護師である彼女と、総合商社に勤める小林直人・34歳が出会ったのは、先週ルナが知人に依頼され、開催した食事会の席だった。

ルナの記憶では、奈々と直人はかなり仲睦まじく、食事会の後にそっと二人で消えていった記憶がある。

「直人さん、既婚者だったんです...結婚指輪もしていなかったし、彼女もいないって言っていたのに...」

「だから言ったじゃないの...彼、既婚者じゃない?大丈夫?って」

直人が既婚者なのは明白だった。しかし奈々は聞く耳を持たなかったのだ。

数日後、奈々は人づてに直人が既婚者だと聞き、問い詰めてみると“彼女はいないけれど妻がいる”、と言われたそうだ。

奈々の涙声に、ルナはふつふつと怒りが湧いてきた。

-これ以上の被害者が出ないために。

ルナは手配師として責任を感じ、“偽り既婚者撲滅運動”を開始した。


既婚者で食事会に参加している男と、被害に遭う独身女たち


結婚指輪を外して食事会へ挑む男


「直人さんが、既婚者だったなんて...もう、ショックで立ち直れません」

それは、1週間前の5月8日(火)。

ルナが知人の高田友則(34歳)に声をかけられ、『ザ タヴァン グリル&ラウンジ』で開催した食事会のことだった。直人は、高田友則の大学時代のゴルフサークルの仲間らしい。




直人は、30分ほど遅れてやってきた。

彼が登場した瞬間に、女性陣の背筋が皆ピンと伸びたのを、ルナは見逃さなかった。

34歳で、端正な顔立ち。身長も185cmくらいあり、長身でスマート、しかも大企業のエリートコースを歩んでいる直人。

家柄も良く、実家は元麻布にあるという。女性からすれば文句のつけどころがない。しかも話し方が、とても優しく心地良いものだった。

「奈々ちゃんは看護師さんなんだぁ。白衣の天使って感じがするよね」

着席して早々、直人は隣に座る奈々を積極的に褒め始めた。

「え〜そうですか?全然、天使じゃないんですけど...」

「でもさ、こんな可愛い子が看護師さんだったら、逆に緊張しちゃうかも。それか、入院延ばしたくなるよね〜」

話しながらも、直人はどんどん奈々に近づいていく。しかしギリギリのスペースは保っており、その距離感がなんとも言えないくらいに絶妙なのだ。

女性ならば、誰もが簡単にコロっとなってしまいそうである。現に、奈々の彼を見つめる目はハートマークになっていた。

「奈々ちゃんって、すっごく可愛いよね。彼氏がいないなんて、信じられないよ」

奈々は益々上機嫌になり、完全に心を鷲掴みにされている。

しかも直人の凄いところは、それだけではなかった。グイグイ押しているのに、決して必死感がないのだ。

あくまでも品良く、爽やかに。女性を嫌味のない程度に褒め讃え、持ち上げる。

「奈々ちゃん、飲んでる?でもあまり無理しなくていいからね。お酒は美味しく楽しく飲めるのが一番だから」

飲み方もスマートで、育ちの良さが分かる綺麗な食べ方だ。こんな良い条件が揃っている男性は、案外少ないものだ。

「直人さんこそ、彼女いないんですか?」
「僕はいないよ〜。奈々ちゃんみたいな子が本当はタイプなんだけどな...」

ちょっと物憂げな顔をする直人。その表情とこの言葉に、ルナの手配師としての“危険レーダー”が鳴った。


既婚者とは一言も言っていない直人。どうして既婚者とバレた?


独身か既婚者か見抜く方法


「奈々ちゃん、ゴルフするの?そしたら今度一緒に回ろうよ」

相変わらず距離の近い奈々と直人を見ながら、ルナは今回の手配を依頼してきた友則に、そっと耳打ちした。

「直人さんって、既婚者かしら?」

しかし、肝心の友則は彼のステータスを知らないようだった。

「それが…男性陣の中で彼だけ初対面で。どうなんだろう?でも独身と言っているから、独身なんじゃない?」

これだから、男はアテにならない。ルナはフゥっと大きくため息をつき、奈々にこっそりとLINEを送った。

-隣の直人さん、既婚者じゃないかしら?大丈夫?

しかしそんなルナの警告も虚しく、結局奈々と直人は3軒目へ移動する前に、二人でどこかへと消えていった。




「ルナさんは、どこで彼が既婚者だと気がついたんですか?」

ルナにとって、直人が既婚者なのは明白だった。

まず直人には独身男にはないゆとりが溢れており、それは、既婚者のみが放てる独特のオーラとも言えるだろう。

食事会に対しちょっと斜に構えた態度で参加しながらも、気に入った子がいたら積極的に攻める。しかし、肝心なところでちょっと引く。

その飴と鞭の使い方が、既婚者は抜群にうまいのだ。

あと、気になったのは、住まいが世田谷の祖師谷大蔵だと言っていたことだ。独身で住んでいる人もいるが、家族で住むことが多いエリアだろう。

「でもどうして、奈々ちゃんは直人さんが既婚者だって分かったの?」

「共通の知り合いをFacebookで見つけて。その周りの人を検索しているうちに、直人さんが既婚者だって分かったんです」

奈々の場合、知人が数年前に直人の結婚式に参加していた写真を見つけたという。

「奈々ちゃん、今回は既婚者独特の魅力にすっかり心を捕まえられちゃったわね...」

決して、既婚者が食事会へ参加するなという意味ではない。食事会は男女の出会いだけでなく、人と人とのつながりの場でもあるからだ。

ただ、結婚しているならば嘘をつかずに“既婚者だ”と言うのが最低限のルールというもの。

既婚者の男性からするとちょっと可愛い女の子と出会え、あわよくば何かあればラッキー程度なのだろうが、独身女性にとってはいい迷惑である。

そうした嘘をつく男に、食事会の参加資格はない。

「奈々ちゃん、大丈夫よ。次はもっといい独身の男性紹介してあげるから」

そう言いながら、ルナは手元にある“手配師手帳”をペラペラとめくり、ブラックリストページに直人の名前を追記した。

それ以来、直人がトップクラスの女性陣が集う食事会の席へ一切呼ばれず、参加できなくなったことは、言うまでもない。

東京は、広そうに見えて実は狭い。

人の噂はすぐに広まるし、誰かを介せば真実にたどりつく。そして嘘をつけば、いつか必ずバレるのだ。

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