探偵による「いじめ」問題の解決が、TVや雑誌など各種マスコミで話題となっています。現役探偵として多くの「いじめ」問題を解決に導いてきた阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんは、自身のメルマガ『伝説の探偵』の最新号で、担当したある「無視いじめ」による「教員社会の限界」を紹介。そして、いじめの主犯格がクラスメイトに送りつけた生々しいLINE画像を公開しています。

無視いじめとその背景、教員がやるべき後始末

概要

小学6年生のA子さんは、新学期早々に突然、周りから無視をされるといういじめにあった。それまで、いじめといういじめがなかっただけに、困惑した。翌日もその次の日も同様のいじめに遭った。堪りかねて親に相談し、保護者経由で学級担任に報告が行き、すぐに学校による調査となったが、学校の調査は大きく2つの方法しかない。

アンケート調査により情報を収集する。個別面談を行い、個別に情報を得る。

1.については全体的に保護者も巻き込むことになり、ほとんど行われない。アンケート調査は、年に1回から2回、生活についてのアンケートの中でいじめについての緩やかな設問がある程度である。

2.については担任教員の独断で行われることがある。この方が機動性が高く、迅速な対応が期待できる。しかし、誰をいつどのような形で呼び出すか、誰から聞くかなど、対応を誤ると、余計にこじれてしまう場合がある。

このケースでは2.の個別面談による情報収集が行われたが、担任教員は情報を得ることができなかった。授業中など普段の様子を観察してはみたが、クラス内は受験組(中学受験をする児童らのグループ)もあり、比較的大人しいため、他の児童が無視をしているような現場は抑えられなかったのだ。

保護者が私に相談してきたのは、保護者から再調査の要請をしたところ、怒って断られてしまったことと、電話に出ないことや訪問を先延ばしにされたことで、モンスターペアレンツ対応をされていると感じたことからであった。

調査

突然起きる無視ケースで最も多いのは、クラスやグループの中心人物が無視を主導するものであり、これには多くのケースで、原因がない。つまり、主犯の気分で突然指名されたターゲットが、遊び感覚で無視される被害にあうことになる。

そのリアクション(無視されて困惑したり泣くなど感情表現)を一定時期楽しみ、次のターゲットに移行するなど、常態化するケースが多い。世界観が狭く感受性が高い小学生高学年から中学生で起きた場合、そのダメージは計り知れず、被害が原因となって、他人との距離感がうまくつかめなくなる被害者も多くいる。

ただし、子供グループはガバナンスと呼べる統制はなく、外部の接触で脆くも崩れやすい。私は被害児童であるA子さんとその保護者からまずはじっくりと話を聞き、クラス内の構造と相関図を作成した。

このクラスの場合、女子は大きく3つのグループに分かれ、グループの統制は強くはない。ただ、A子さんの属するグループは、他のグループより活発で、クラスの代表に選ばれたり、意見が強いと評価できた。

無視に関する調査では、録音は効果が薄く機器を持っているというリスクの方が高い。そのため、クラスの内部構造を紐解き、その中で協力を得やすい人物を辿って証言を積み重ねる地道な調査が最も有効なのだ。

本来はこうした内部構造やクラス内でのヒエラルキーなどは学級担任が腹で理解しているようなもので、観察力と信頼関係構築があれば、十分個別面談で情報を聞きだせるものだ。だが、このクラス担任は、そのような力量はない。教育心理学を盾に保護者に子育て論を語るような教師であるから、こうした調査は実現できなかったのだろう。

調査のテクニックとしても、そもそも無視があったのかは設問化せず、無視があった前提で質問を構成しておくことが重要なのだ。大人の汚い手段かもしれないが、一種の誘導尋問のテクニックを利用するのが答えに近づきやすいのだ。

「〇〇さんが無視されていたのは知っているよね?」ではなく、「どうして無視が起きたのかな?」の方が、質問の展開が早くなる。例えば、「〇〇さんが無視されていたのは知っているよね?」に「知らない」と答えられたらそれで質問は終了になってしまう。

「どうして無視が起きたのかな?」については、「知らない」「わからない」と答えても、無視はあったと推定できることになる。あとは、それぞれの事案に合わせて、被害者から聞いた話を分析しておいて、主観要素を外して客観要素だけで状況を組み立てて、設問や確認事項を整理しておけばよい。

このケースでは、A子さんの属するグループの中心人物(B子)が主導していると予想できたので、A子さんとは同じグループではないが、仲が良いクラスメイトに協力してもらうことにした。また、A子さんの母親が学校行事などを通じてよくランチをする保護者にも協力要請を出してもらい、電話とLINEで情報収集をすることにした。

情報収集の結果、B子は家庭の悩みがある一方、受験組であり、強いストレス状態であるということがわかり、同グループで受験組ではないA子さんを無視しようという流れができたとのことであった。他のグループについてはA子さんに話しかけようとすると、B子に睨まれたり、呼び出されたりするので、いざこざを避けるために距離を置いたということであった。

また、男子グループはそうしたことには無頓着であったが、何か問題が起きているということは感じており、こちらも同様にイザコザに巻き込まれるのは面倒だということから、積極的に話しかけるなどはしなかったそうだ。調査をしている間に他の女子グループの子達から、A子さんに手紙が渡されたりしたことで、(内容は事情を知らずに話しかけてあげられなくてごめんねという内容)A子さんは孤立することはなかったため、別のグループに入ることになったとのことだった。

報告と事件

この件は、とりあえずの報告書兼意見書を保護者と学校長に同時提出して終了としたが、問題はその後におきた。

報告書兼意見書においては、調査との兼ね合いを考慮して報告書運用ができない学校さんが多いので、情報源や一次資料となる個人の特定はマスクをかけた状態となる。多くは学校も把握しているべき情報が記載され、その状態でどのような証言があったかが記載され、このケースにおいてはA子さんについての回復の経緯が記載されることになる。

また、意見書部分では、再発防止策や各フォロー(被害者フォローや加害者のフォローと指導について)、学校独自のいじめについての定期的なアンケート調査の推奨とその設問構成や設問を作る際の根拠や配慮が記載されることになる。

当然にB子は、クラス内で始めた無視遊びが他のクラスメイトが参加しないことから、イライラが募っていたし、反省の要素は皆無であった。

だからこそ、指導は当然必要だが、教員らの配慮とフォローも必要であることは、強く私は要請した。だが、学級担任は自分に打ち明けなかったことに苛立っていたのか、一方的な指導に徹した。その結果、クラスメイトに脅迫的なLINEがB子から送られることになった。

そもそも、学校長には「いじめ対応はクラス担任のみが行うものではなく、学校全体として取り組むべき事案であり、教育上の指導経験が豊富な学校長や副校長、主幹教諭がチームを形成して取り組むことが望ましい」と意見している。

ところが、教員社会では、クラス運営の責任は学級担任にあり、問題解決やクラス内での指導方法は全て担任に委ねられていて、他の担任などは互いに干渉ないという意識が根付いているから、この教員社会の限界を超えられなかったのだろう。学級担任は、クラスを抑えられなかったことで校長から相当に説教をされたようで、そのストレスの矛先がB子個人に向いたのだった。

後始末

B子については、両親が離婚協議中であり、中学受験が済んだら離婚をする予定であることがわかっている。父親はすでに別の場所で暮らしており、専業主婦のB子の母親は就職先をこれから探し、住宅ローンは引き継げないから住まいは変えなければならないなど、家庭不和がその背景にあった。だから、いじめをしていいわけはないが、このまま行けば、B子は被害者になっていく可能性が強い。

これも本来、学級担任を含め学校が行っていくことだが、それを行う力量はないと判断せざるを得ないので、私が後始末をすることにした。

A子さんには、これまでのコミュニケーションでB子を許すことは難しいが、一応に受け入れることはできると言ってもらっていたので、まずは、B子とその母親に事情を説明することにした。B子はA子さんに謝罪をして、それをA子さんが受け入れたことを表明してもらった。

次にB子が脅迫めいたLINEを送った相手(C子)にもA子さんらにも立ち会ってもらい、謝罪をした。私の目の前では、私のイメージからすると少女漫画の何かの落とし所のような融和ムードで、謝罪リレーは終了した。

小学6年生は受験の関係上、前期に修学旅行をする学校が多い。この学校では、5月末に修学旅行が計画されているとのことで、せっかくの修学旅行をよりよくしてもらえたらと思う。お土産を買ってきてくれるそうだが、今回関わってくれたみんなが笑顔で楽しそうにしている写真でもくれたら、それで良い。

編集後記

今回は無視いじめについてでしたが、結局、これは担任がやることだよね? これは学校がやるべきだよね? ということが、全然できない上、このままいけば結果崩壊することは目に見えていたので、「誰もやらないなら俺がやる」精神が働き、全て引き受けてマルッと解消してきました。

担任のメンツ丸つぶれになってしまいましたが、それはそれ、私から見ても経験不足は明らかな教員であったので、頑張って経験を積んでもらえたらと思います(保護者の方々は呆れていましたが、一人前の先生になるように育てる気持ちで支えてあげてくださいとお願いしておきました)。

ただ思うのは、教員の働き方云々で大変なのはわかりますが、それならなぜ、手放せることを手放さないのかと思うのです。特にいじめ調査においての対応は、教育委員会然り第三者委員会然り、調査ばたけの私から見ると、「何やっているんですか?」「オツム大丈夫ですか?」のレベルです。隠蔽の筋も悪く、それって暴けますよね? のレベル…。いじめ調査、手放したらどうでしょう。

そうすれば、無駄に隠蔽することもなくなって、随分と無駄な仕事が減るのではないでしょうか。私からすれば、行政予算があれば、もっとできますし、それ用に人を育てることもできます。

さらに、道徳の教科化も問題だらけですから、そこももっと別の取り組みをすべきだと思います。そもそも評価対象になる教科化は、道徳には不向きですからね(教科書会社さんが儲かって、先生が忙しくなるだけなんじゃないですか?)。ここまで読んでくれてありがとうございます!!

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