カルビーにとって次の収益柱に育ちつつあるフルグラだが、国内での売り上げは踊り場を迎えている(撮影:今井康一)

「大変だった上半期を乗り越えてきたつもりだが、あまり自慢できるような成績が残せなかったことは忸怩(じくじ)たる思いだ」

スナック菓子最大手のカルビーが5月11日に開いた決算会見の席でのこと。会長の松本晃CEOはそう言って、自身最後となる2018年3月期の業績を振り返った。

カルビーが同日発表した2018年3月期の決算は、売上高2515億円(前期比0.3%減)、営業利益268億円(同7%減)で着地した。2011年の上場以来、6期連続で増収増益を達成してきた同社にとって、初めての減収減益となった。

ポテチショックと北米の誤算

まず足を引っ張ったのが「不幸な出来事だった」(松本会長)という「ポテチショック」だ。カルビーの国内売上高のうち、ジャガイモを主原料とする製品の構成比は約6割に達する。

2017年夏前に産地の北海道を襲った台風で、ジャガイモが壊滅的な被害を受け、供給が激減。原材料不足によって2017年4月から2カ月ほど「ポテトチップス」や「ピザポテト」など十数製品が休売や終売を余儀なくされた。

結果、影響を最も受けた2017年4〜6月期(第1四半期)決算は国内事業の売上高が前年同期比10%減という打撃を受けた。販売を再開した7月以降は、休売による反動の需要があったことや「ポテトチップス」の増量キャンペーンが功を奏したことで販売は好調だった。だがそれでも、第1四半期の出遅れを取り戻すには至らなかった。

もう1つ、想定外となったのが、約100億円を売り上げる、北米地域の販売不振だ。北米で販売しているのは「ハーベストスナップス」という、サヤエンドウを原料にしたスナック菓子。「小売店ではスナック菓子売り場ではなく生鮮野菜の売り場に置いている」(カルビー)。健康志向の消費者に、ノンフライである点などを訴求している。

ただ、「主要販路のコストコやホールフーズといった大規模な小売店との商談がうまくいかず、消費者に認知してもらうことができなかった」(菊地耕一・上級常務執行役員)。

こうした小売店では年に数回、商品が割引になるクーポンを配布したり、大規模な陳列を行ったりするなど消費者にアピールする施策を行うが、そうしたキャンペーンを打てなかったことが響いた。北米でのスナック菓子の売り上げのうち半分はそうしたキャンペーンに依存していたという。

こうした販売不振による工場稼働減や廃棄増により、採算が急激に悪化。2018年3月期の北米事業は、営業赤字7.0億円(前期は15億円の黒字)と赤字に沈んだ。今期は、北米事業の営業トップを変更するなど体制を大幅に刷新。本社からも人員を送り込むなどテコ入れを図る計画だ。

今期は反転増で、過去最高の見通し

カルビーが11日に開示した今2019年3月期の業績見通しは、売上高2550億円(前期比1.4%増)、営業利益295億円(同10%増)。業績は復調し、いずれも過去最高を更新する計画を立てる。


立て直しが進みつつある、国内と北米のスナック菓子事業に対し、今期の業績動向のカギを握るのは、収益柱に育ちつつあるシリアルの「フルグラ」事業だ。

フルグラは1991年、「フルーツグラノーラ」として販売を開始。長く雌伏の時期が続いたが、2009年に松本会長が「朝食革命」を標榜し、若い共働き世代の時短につながる朝食としてテコ入れを図ると、販売は急激に増大。2008年に22億円だった売上高は、2017年3月期には国内・海外合わせて291億円まで拡大した。

だが、そのフルグラが踊り場を迎えている。国内の売上高は2018年3月期に231億円(前期比0.6%増)とほぼ横ばいに減速。フルグラが牽引してきたシリアル市場そのものも450億円ほどでの頭打ちが鮮明になっている。

松本会長は「市場自体の低迷は、カルビーが市場を広げるための正しいアクションを起こさなかったことに責任がある。ターゲットにする消費者が誰なのかわからなくなっていた」と吐露する。今後は50歳以上の男女をターゲットに、販売強化を進める方針だ。

一方で、フルグラの成長は海外市場にも懸かっている。特に重要視されるのが中国だ。

中国でもフルグラ人気は高い。カルビーが正式に輸出をしていなかった2017年の時点で、日本で買い付けたフルグラを現地で高値転売する業者が存在していたほどだ。だが同年3月に中国のテレビ番組で「輸入禁止地域から輸入されている」と名指しで批判を受け、中国での消費が激減した経緯がある。

正式に輸出を開始するために、新たに北海道と京都に新工場を設立。「観光地として人気が高い土地を生産地としてアピールするため」(海外特命事項担当の駒田勝・執行役員)だ。2017年8月の北海道工場の稼働と同時期に、アリババが運営する越境EC(ネット通販)サイト「天猫国際(Tmall Global)」での販売を開始。現在北海道工場で製造されたフルグラは全量、中国に輸出されている。

2018年からは現地法人を立ち上げて中国内のECにも本格参入。さらに現地のスーパーなどリアルの店舗でも展開を開始している。

こうした取り組みで、今2018年3月期のフルグラの海外事業売上高は前期比1.4倍の78億円超と急成長を見込んでいる。

試される伊藤社長の手腕

6月の定時株主総会では、9年間会長として経営を主導してきた松本会長が退任し、伊藤秀二社長兼COO(最高執行責任者)との二頭体制が終わる。6月からCEOになる伊藤社長は決算会見の席上で、「これまで2人でやってきた仕事を1人でやるようになるのは大変なこと」と語った。


松本晃氏退任の後、CEOへの昇格が決まった伊藤秀二社長兼COO(記者撮影)

伊藤社長が今後の取り組みの中で強調したのは、国内スナック市場のテコ入れだった。「この5年間、カルビーはシェアを取っていただけでスナック市場自体は伸びていなかった。今後は市場を成長させていかなければいけない」(伊藤社長)。

これまで大容量のスナック菓子を手にとってこなかった単身者や若い女性向けに小容量の個食スナックのラインナップを強化、新しい市場を開拓していくという。海外事業の成長と国内スナック市場拡大を両輪で進めて行きたい考えだ。

松本会長がまいた種を芽吹かせ、国内外ともに成長軌道を維持できるか。フルグラが踊り場にさしかかる今、伊藤社長の正念場が訪れている。