@AUTOCAR

写真拡大 (全6枚)

もくじ

ー 顧客の夢を実現する手助け
ー 幅広いスキル
ー ショールームを改装
ー メーカーとも親密に
クルマの達人は注意を怠らない

顧客の夢を実現する手助け

売ればいいという話ではない。もはやまったく違う。ロンドンのベントレー・ディーラーであるジャック・バークレー(全国に15店あるHRオーウェンのラグジュアリー・カー・ディーラー網の旗艦店だ)のCEOケン・チューと1、2時間も話せば、昔からの口説き落としなどプレステージカーの販売にはもはや必要ないということがすぐにわかる。

チューも彼の部下たちもそんなやり方は望まない。今日、ラグジュアリーカーを購入するような顧客は、店に来る前にネットでリサーチを済ませて、何が欲しいかはっきりわかっている。そして、扱われ方にもはっきりした意見を持っているのだ。

チューたちはこのことをよくわきまえている。ディーラーは顧客の夢を実現する手伝いをするのが役目である。客が望まないことを強要することなど決してあってはならない。

「わたしたちはお客様に付きまとったりしません」とチューはいう。「そうでななく、お客様が参加したいと思うようなイベントを企画したり機会を設けるんです。先日のジュネーブ・モーターショーでは500人の来客がありました。皆さん、素晴らしかったと仰います。このようなことがお客様を知り、お客様の好みを理解する良い機会になるのです。今日ではこのビジネスは信頼と信用で成り立っています。いや、そうあるべきです。長いお付き合いの商売なんですよ。売ればいいというものではありません」

幅広いスキル

そうすると大きな疑問が生まれる。チューは有名なジャック・バークレーのショールームをかなりの費用をかけて改装した。86年間にわたりロンドンのランドマークだったところだ。もしセールスセンターが必要ないとすると、なぜそんなことをしたのだろう。「ショールームは世界の窓なんです」とチューは説明する。

「ひとと面会したり、トレンドを理解して倣ったり、そしてもちろん、最新のクルマを展示するための場所です。もしお客様からご希望があれば、クルマをお渡しするのもここで行います。歴史のある場所なので、多くのお客様がそうされます」

45歳になるチューは、オーストラリアで会計を学んだ静かな話しぶりのマレーシア人である。昨年の初めにバークレー広場に来るまで、彼はラグジュアリーカーのビジネスにはほとんど知識がなかったが、新鮮な目で見ればビジネスを新たな方向に進めることができると信じている。

12年前、彼の財務のスキルがマレーシアの億万長者ビンセント・タンの目に留まった。カーディフシティ・フットボールクラブのオーナーといえばお判りだろう。タンは多方面のビジネスを手掛けているベルジャヤ・コーポレーション(彼の会社だ)で、チューに今まで以上に困難な課題を与え続けた。

その後、彼を英国に連れてきてベルジャヤ・ホテル・グループの積極的な運営を担当させた。2014年、チューはカーディフ・シティのジェネラル・マネージャーになり、ほどなくして今の会長兼CEOのポジションに上り詰めた。そして昨年、彼はHRオーウェン・グループのCEO職も引き受けた。誰が見ても、彼の役職とスキルは数多く多岐にわたっている。

ショールームを改装

タンとベルジャヤは2013年からHRオーウェンの企業支配権を所有している(タンはロールス・ロイスを購入した際に「改善の余地のある」顧客サービスを経験したため、この企業を買収したのだ)。チューのミッションはものごとの改善だった。「ちょうどジャック・バークレーを改装するかどうかの重要な決断をするところでした」と彼は説明する。

「まず最初に、残す必要のある歴史を理解するため調査を行いました。自動車メーカーから将来計画を聞き出す必要もありました。特にベントレーからです。顧客を増やすには投資が必要だということがわかりましたが、メーカーに自信を持っていると感じる必要があることもわかりました」

その結果、ショールームは新しくなったが(3月に正式オープンした)、現代的なスペースを好む顧客と、オリジナルのメタルドア、タイルのフローリング、ウッドの壁面、創始者ジャック・バークレーのファイルキャビネットやボードルームのテーブルなど、悠久のモノたちを好む顧客の両方を満足させるべく、細心の注意が払われている。

隣の英国唯一のブガッティのショールームに通じる目立たないドアが設けられ、反対側にあるロールス・ロイス・モーター・カー・ロンドンとも密接に関連している。チューの指揮下、このロールスのディーラーは親会社による評価のすべての項目で完璧なスコアをたたき出した。販売、サービスなど、すべての点においてである。

メーカーとも親密に

1年ちょっとで、チューはラグジュアリーカー・メーカーと親密な関係を築き上げた。メーカーは彼が北半球でもっとも力のある超高級ディーラーグループのトップだということをよく知っており、最近、彼の野心的な拡大計画を聞いたところだ。

チューはフェラーリのモデル・ラインアップは広く訴求する力を持っていると考えており、アストン マーティンの社長アンディ・パーマーをマーケティングの視点から「もっとも革新的な男」だと評価している。また、ロールス・ロイスの「非常に尊敬すべき」経営陣との取引を好ましく思っている(そして発売が予定されているSUVカリナンの販売に強気の見通しを持っている)。

彼は、ベントレーの実績ある新社長エードリアン・ホールマークとのより良い関係を期待しており、ランボルギーニのステファノ・ドメニカリには、右ハンドルのSUVウルスをもっと供給するように強く働きかけている。いくつかのエリアでは、HRオーウェンは30から40%もの新顧客を獲得しており、昔からの顧客は依然として重要であるものの、顧客の平均年齢も若返っている。

ウルスやカリナンのようなニューモデルは、ラグジュアリーカー・ビジネスに従来とは異なる客層を呼び込むが、この傾向は今後も続くとチューはいう。「モデル計画とモデル・サイクルを理解して良好な供給を受けることは、わたしの最重要課題です」と彼は説明した。

「われわれからしかクルマの購入を希望されないお客様もかなりいらっしゃいます」と彼は静かに事実を述べる。自慢ではない。「われわれのナンバープレートは財産だと見なされるんです。われわれのナンバープレートが手に入らないのなら、クルマなんていらないとおっしゃるんですよ」

クルマの達人は注意を怠らない

ケン・チューは、彼がCEOとして指揮するまったく違うビジネスの間に対立や矛盾はないという。HRオーウェン・ラグジュアリーカー・グループとカーディフシティ・フットボールクラブのことだ。それどころか、ふたつの仕事は互いに役に立つという。クルマの顧客のために「体験」を創造するという彼のポリシーに基づき、クルマのオーナーたちを試合に呼んだこともある。「FAカップでのマンチェスター・シティとの試合に、HRオーウェンのお客様を12名ほどディレクター・ボックスにご招待し、大いに楽しんでいただきました」

ロンドン・カーディフ間の混雑した240kmの距離さえ問題ではない。チューは普段フェラーリ812を選ぶ。彼の妻は最新のルッソがお好みだ。彼の好みに反して、カーディフの駐車場ではアストンが大人気だという。「アストンはとても評判がいいんです」とチューはいう。「すべてのクルマを収容するために、ダイレクター駐車場の最前列すべてを封鎖しなくてはならないほどです」