Googleアシスタントがヘアサロンの予約を行うデモの後、満面の笑顔をみせたサンダー・ピチャイCEO(写真:グーグル)

グーグルは米国時間5月8〜10日、本社キャンパスの向かいの敷地にある屋外シアター、シューライン・アンフィシアターで開発者会議「Google I/O 2018」を開催した。

初日の基調講演ではグーグルのサンダー・ピチャイCEOがグーグルの最新の取り組みを紹介したが、その多く時間は、人工知能や機械学習がわれわれの生活やアプリにどのような進化を与えるかを紹介するために割かれた。

鳥肌が立つ人工知能の進化

グーグルの人工知能アシスタントである「Googleアシスタント」は、アマゾンの「Alexa」、マイクロソフトの「Cortana」、アップルの「Siri」と競合している。アップルのSiriは2011年にiPhoneに搭載されたが、進化の速度は遅く後れを取っている。

今回の開発者会議の基調講演で行われたGoogleアシスタントのデモには非常に驚かされた。

GoogleアシスタントはAndroidスマートフォンや、スマートスピーカーGoogle Homeで利用できるほか、自動車の車載器に内蔵されるなど広がりを見せている。Googleアカウントとひも付いたGoogleアシスタントは、自分の情報を時間や場所、気象や交通の状況などを勘案しながら、人々の問いかけに答えてくれる仕組みだ。

今回披露された進化は、連続的で自然な会話と複数の質問への回答を実現する仕組みだ。音声アシスタントの起動には「Alexa, 」「Hey Siri,」といった呼びかけが必要だった。Googleアシスタントにも「OK Google,」「Hey Google,」といった呼びかけをきっかけに1つの命令が始まっていた。

しかし今回披露されたデモでは、1度会話を始めると、そのまま会話の受け答えを続けることができ、呼びかけ直さなくても複数の、バラバラのテーマに関する質問や命令をきちんと分離して理解し、答えてくれる。まるで人と話しているかのようだ。

そして、筆者が文字どおり鳥肌が立ったデモは、Googleアシスタントが電話を掛けるというものだった。

本映像の冒頭から36分のところで行われるAIとヘアサロン、AIとレストランとのやりとりのデモを聞くと、鳥肌が立つはずだ(映像:グーグル)

ウェブによる予約システムを持っていないヘアサロンやレストランであっても、Googleアシスタントが電話を掛けて、予約を取ったり混雑状況を聞くことができるというデモだ。ぜひユーチューブに上がっている動画をみてほしい。


レストラン従業員の要領を得ない対応にも的確に対応してみせるデモを披露した(写真:グーグル)

ヘアサロンの予約、レストランの予約についてのデモだったが、電話に出た相手が返す、要領を得ない回答に対しても、会話をする中で見事に予約を済ませてしまう様子には、言葉を失った。

たとえば電車や車で移動していて自分で通話するのがはばかられる中で、友人との待ち合わせ場所の近辺で夕食の店を予約する際、Googleアシスタントからお店の状況や予約を電話で聞いてもらう、といった使い方ができるようになる。

もうひとつのすごい使い道が、言葉の通じない国でのやり取りだ。その国の言葉がしゃべれなくても、レストランやホテルの予約をできるようになるだろうし、アクセシビリティ機能としての活用も期待できる。この衝撃は巨大だ。

AIアシスタントは音声だけじゃない

グーグルはアマゾンと違い、ディスプレーとカメラが備わるスマートフォンのプラットフォームAndroidを擁している。また、Gmail、Googleマップ、Googleフォトなど、すでに多くのユーザーに使われているアプリも存在している。これらにGoogleアシスタントが融合していく未来を見せてくれた。

Googleレンズは、スマートフォンのカメラでかざしたものを読み取る仕組みだ。文字であればテキストとして認識し、実世界の看板などからコピー&ペーストも可能になる。また街角を写し出せば、そこにある店の名前とメニューや料理の写真、評価がわかる。花や動物の名前もすぐにわかる。これで、音声では言い表せないものでも、それが何かを知ることができ、情報の深掘りが可能になる。

またGoogleマップとアシスタントとの連携機能は秀逸だ。歩行のナビ中にカメラを起動すると、その道をどちらに曲がれば良いか、矢印を表示してくれるのだ。地下鉄がある都市で頻発するのは、出口を出てからどちらに歩けば良いのかわからなくなること。その問題をカメラで解決してくれる。

Googleフォトのアシスタント機能は、すでに写真を自動的にアルバムにまとめたり、写っているものを認識して検索可能にする仕組みを実装している。これにGoogleレンズ機能が加わり、被写体を認識してWikipediaなどの情報を参照できるようになった。

アップルはApple MusicやApple Newsなどのコンテンツサービスに対して「For You」タブを用意し、その人に合ったコンテンツをおすすめする仕組みを用意した。グーグルも、GoogleマップやバージョンアップするGoogleニュースアプリで「For You」というキーワードを使う。

人工知能がコンテンツを自動的におすすめする仕組みとして、各プラットフォームやアプリに広がりを見せる「For You」は、その精度と的確さの競争となっているようだ。ただ、このキーワードは単にコンテンツのレコメンドに限らない。

「Android P」に組み込まれたスマホ中毒対策

グーグルはAndroidの新バージョンとなる「Android P」を発表し、シンプル化されたデザインとインターフェースなどを紹介しているが、最も印象的だったのは「Digital Wellbeing」、つまりデジタルがある健康的な暮らしづくりのための機能に踏み込んだ点だ。

「アップルが子どものスマホ中毒に対して対処すべき」という株主からの要求があったことは東洋経済オンラインでもご紹介した(「iPhone中毒」対策は、アップルの責任なのか)。しかし子どもに限らず、大人もスマートフォンを手放せず、目が離せない生活を送っている。


基調講演を行うサンダー・ピチャイCEO(写真:REUTERS/ Stephen Lam)

グーグルは新バージョンのAndroid Pで、自分がスマートフォンやアプリをどのような頻度やパターンで利用しているのかを集計するダッシュボードを用意し、アプリごとに日々のアプリ使用時間の上限を設定し、通知する仕組みを備えた。たとえばユーチューブは1日2時間まで、と決めたら、1時間に近づいたら通知してくれる。

また夜になって就寝する前のスマホについても、就寝時間になると自動的に画面をモノクロ化するWind Down機能を用意する。グーグルによると、テクノロジー使用のバランスを取りたいと考えている人は7割に上り、Android PでOSとして、スマホ利用状況の改善に取り組む機能を備えることになった。

スマホ使用パターンによるアプリや、アプリの機能の提案もホーム画面で行ってくれるようになる。グーグルはテクノロジーを「あなたのため」に進化させるというメッセージを色濃く製品に反映させた。息を飲む技術と柔和な身近さのコントラストは、テクノロジーの未来への期待感をあおるには十分なプレゼンテーションだった。