『半分、青い。』ヒロインの永野芽郁

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「これがあれば大丈夫という“ヒットの法則”を、全部外して書いています」

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 と笑うのは、現在放送されている朝ドラ『半分、青い。』の脚本を担当している北川悦吏子。

タイトルが5文字だとヒット?

 岐阜の小さな街から、少女漫画家を目指してバブル期に上京するも挫折。結婚や出産、離婚を経て、故郷に戻り、家電の分野で発明を成し遂げるヒロイン・楡野鈴愛の半生を描く作品。第1週の平均視聴率は20・1%で、好調な滑り出しを見せた。

 そこで気になるのが、冒頭の北川の言葉。誰が言い出したのかわからないが、朝ドラには、これさえ外さなければ大丈夫という“ヒットの法則”がある。例えば、タイトルが5文字。タイトルが“ん”で終わる、など。

 確かに、平均視聴率52・6%という、テレビドラマの最高視聴率の記録を叩き出した『おしん』。また最近では『あまちゃん』『ごちそうさん』など、タイトルの最後に“ん”がついている。

 『あさが来た』『花子とアン』など、5文字の作品も多い。一体、この法則はいつから言われ始めたのか。『みんなの朝ドラ』の著者・木俣冬氏は、

「朝ドラが、幅広い世代から支持されるヒットコンテンツだと認知されてから、後付けで法則化されたものもあります。“ん”の法則などは典型例。オカルト的なものだと思います」 

 しかしヒットする作品には、ある種の法則は存在すると『「朝ドラ」一人勝ちの法則』を上梓した「指南役」の代表を務める草場滋氏は語る。

「最も顕著な要素は、ストーリーに戦争や天災といった国家的大事件に主人公が遭遇し、それを乗り越える姿です。個人の力では抗えない、国民的トピックに巻き込まれることで人間ドラマとしての面白味が増していくのです」

『ゲゲゲの女房』『カーネーション』『ごちそうさん』などでは戦争、『あまちゃん』では東日本大震災にヒロインが翻弄されながらも、立ち上がる姿を描いた。

「毎日放送するドラマだからこそ視聴者は安心感を求めている。感情移入しやすい作品ほど“朝ドラあるある”ではないけど、いい意味でのマンネリがあります。

 『水戸黄門』しかり、安定した人気を誇る長寿ドラマって、視聴者が求めていることを分かっているんです」(木俣さん)

 どれだけ今が幸せでも、やがて訪れる大きなうねりに主人公が巻き込まれ、そして困難を跳ね返す……。その姿に視聴者は引き込まれていくというわけだ。

 そんなヒロイン力を発揮して問題を解決してしまう、朝ドラ特有の展開もお約束。朝から小難しい物語を見たい人なんていないだろう。

「朝ドラらしさをキープするために、元気で明るいヒロインというのも、ヒットの法則のひとつ。主人公には、生まれたての子犬のようなピュアさが必要なんです」

 と木俣さんが話すように、視聴者が親目線で見ることができるような女優、すなわちイメージが定着していない新人女優が起用されるのも納得の人選なのだ。

「朝ドラが抜群の安定感を誇るのは、習慣視聴によって支えられているからです。歴代の朝ドラが、冬季五輪で話題となった日本の女子団体パシュートのように一糸乱れぬ隊列を組んできたからこそ、視聴者は次回作も見てしまう。

 逆に言えば、その法則を乱すことは習慣視聴が減少することを意味し、次回作の序盤の視聴率にまで影響を与えてしまうんです」(草場氏)

脚本家の私情が入ると危険信号

 朝ドラには、“逆ヒットの法則”と呼べる禁断の果実があるという。

「ひとつは脚本家が私情を挟むこと。過去、『おしん』で大成功を収めた橋田壽賀子さんが、『春よ、来い』で自らの半生を描き失敗に終わりました。

 また、『ふたりっ子』で向田邦子賞を受賞した大石静さんも、その後に自身をモデルにした『オードリー』でしっぺ返しを食らっています。私情を物語に散りばめると、名脚本家ですら朝ドラでは失敗するんです」(草場氏)

 今回、永野芽郁演じる『半分、青い。』の主人公・鈴愛は、左耳が聞こえないというハンデを乗り越えて成長していく。実はこれ、北川悦吏子氏が突発性難聴によって左耳が聞こえなくなった自身の経験に基づいているという。

 さらに、高度経済成長末期〜'90年代を舞台とし、鈴愛は北川氏の故郷・岐阜から上京するだけに、自伝的朝ドラの要素がかなり濃い。

「正直、不安です(苦笑)。私情を挟めば挟むほど、視聴者は感情移入ができなくなる。さらに、ヒットの法則に大きく関与する国家的大事件もない。

 連ドラと違い、朝ドラは半年間見続ける耐性が求められます。何が起こるか分からない展開を、半年間も続けることはリスキーでしょう」(草場氏)

イケメンが救世主なるか

 その一方、オープニングの明るい主題歌や、ヒロインが故郷から離れること。昭和的ノスタルジックな舞台装置といった、ヒットの法則に必要な、いくつかの要素は満たしている、と草場さんが口にするように、朝ドラらしさを踏襲している部分もある。

「ヒロインの夫役を演じた、『ふたりっ子』の内野聖陽さんや、『あぐり』の野村萬斎さん。『オードリー』の佐々木蔵之介さんのように、女性をキュンとさせる男性がいるかどうかもポイントでしょう。

 幼馴染役の佐藤健さん、そして鈴愛の師匠的存在となる豊川悦司さんが、どれだけ女性のハートを掴めるかで、ヒットにつながってくると思います」(木俣氏)

 朝からモヤっとしてしまうような展開は望んでいない。過去には、『君の名は』のようにメロドラマに挑戦して辛酸をなめた例もある。カラッとさわやかに元気よく、それこそが視聴者の見たい朝ドラ像だ。

「数年に一度、朝ドラは意欲作を発表します。そういった挑戦が可能なのは、ヒットの法則に基づいて、みんなが望む朝ドラを作ろうと思えば、いつでも作れるという自信もあるからだと思います。実際、次回作の『まんぷく』は“ザ・朝ドラ”というべき王道です」(草場氏)

「『まんぷく』のヒロインは、実績のある安藤さくらさんですが、 長谷川博己さんという素敵な旦那さんとバディな感じで、物語が展開されるのかなって。『ゲゲゲの女房』的な感じになるのかな!? などなど、想像できるところに連綿と続いてきた朝ドラのいいところがあります」(木俣氏)

 法則は絶対ではない。だけど、50年以上も続いてきたドラマだからこそ視聴者が求めている願望がある。

「朝ドラは温故知新の集大成です。無理に新しいことをする必要はない。過去の作品をリスペクトし、ほんの少しだけ新しいエッセンスを入れて換骨奪胎すれば、みんなが見たい朝ドラになる。

 夢中にさせるフォーマットがあるだけでもすごいこと。朝ドラ成功の鍵は、視聴者の期待にどれだけ応えることができるかだと思いますね」(草場氏)

〈取材・文/我妻アヅ子〉