北海道のローカル線問題から整備新幹線まで石破茂氏が持論を力説した(撮影:尾形文繁)

政界きっての論客は鉄道通でもある。元地方創生担当相で衆議院議員の石破茂氏。メディアでは「鉄オタ」ぶりを披露することは多いが、この国の鉄道事業について正面から語ることは少なかった。しかし、その「鉄道論」は実に示唆に富んでいる。

──今回は本格的な鉄道論を語ってもらいたいのです。

そんな……。趣味の領域から出ないよ。高度な話を期待されても全然ダメだからね、ハハハハ。まあ、どうぞ。

──今後、人口減少の影響で存続が危ぶまれる路線が増えるかもしれません。

同じ公共インフラでいえば、自動車の場合はインフラは税金で整備をしていく。事業者は車やバスを走らせていればよいと。道路まで含めて「きちんと採算を取れ」などという発想はないよね。儲からないから高速道路を廃止するという話は聞いたことがない。

それなのに、なぜ鉄道の場合は、「儲からないとやめる」になっちゃうのかな。同じ公共交通インフラで均衡を失してはいませんか?

そういう根源的な問題がまず存在する。上下分離でインフラの部分は全部税金でみて、その上の部分、つまり運行する部分だけを民間事業者でみればよいのではないか。こういう発想はこの国にはなかった。

モーダルシフトの議論が深化していない

では赤字でも存続してよいのかという議論だけれど、その鉄道単体が赤字か黒字かという話よりも、それを使った場合、そこの沿線の地域が全体で黒なのかい、赤なのかい?という見方が大事でしょう。そういう指標があんまりないよね。

飛行機には飛行機の特性があり、船には船、車なら車の特性があるが、どの部分にどの輸送手段が適切なのかという議論が突き詰めて行われることはない。新幹線も高速道路も船も飛行機もあるっていうのは無理でしょう。どこにどれが最もふさわしいのか、いわゆるモーダルシフトの議論がこの国では深化していない。

──北海道では鉄道の存続に向けた話し合いが進みつつあります。

北海道に行くと、「鉄道どうするの?」「宗谷本線を廃止するなんてとんでもない」っていう話がある。国鉄からJR北海道に移行したときに基金を積んだので、それを運用して赤字を補塡しなさいということだったんだけど、今は金利水準がほぼゼロになった。運用益が出ないのに「JR北海道、頑張りなさい」っていうのは、それはちょっと酷です。その部分は国がみるべきだと私は今も思っています。でも、国民の税金で補塡をするとなると、「誰も乗らない鉄道に国民の税金を使うのか」という話が必ず出る。

では、どうやって北海道の鉄道を維持するか。いろいろなやり方がある。たとえばドイツのルフトハンザ航空は「ルフトハンザエクスプレス」という名前で、鉄道も運行している。空港を出たら、そこからルフトハンザが運行する快適な列車に乗るという商売があるわけです。JALもANAもそんな商売はやってない。つまり、JR北海道に財政的な余力がないなら、他の事業者がJR北海道の線路を使って商売するというやり方は、私はあるはずだと思う。

今の新千歳空港駅はホーム1面、線路2本しかないので、札幌とのシャトル便でダイヤは目いっぱいです。そうすると飛行機で新千歳空港に着いて、そこから釧路や網走に行きたい人は南千歳まで1駅行かなきゃいけない。冬の北海道の寒風吹きすさぶ中で荷物を持って待ってないといけない。だったら新千歳空港駅にもう1本ホームを造って線路を2本付けて空港を降りたお客様がそのまま北海道を走る特急列車に乗れるようにすればいい。

集客のネタは日本中にある

こういう利用客を増やす知恵を総動員しないで、「国になんとかしてほしい」ではどうにもならない。いすみ鉄道の鳥塚亮社長は「乗って残そう、何とか線、なんぞもってのほかだ」と話している。「そんなことを言って残った鉄道なんか一つもない。用もないのに誰が乗るのか。乗りたくなる鉄道、乗りに来たくなる地域を作るのが地元の仕事だ」とね。私もそう思う。


鉄道ファンとしての知識だけでなく、その鉄道論は示唆に富む(撮影:尾形文繁)

えちぜん鉄道は切符の自動販売機やバリアフリーの車両を買うカネがない。それで、女性のアテンダントが車内で切符を売ったり、高齢者やハンディキャップのある人のお世話をしたりする。そのアテンダントさんは観光案内もしていますよ。それでリピーターが増える。

JR九州の「ななつ星 in 九州」は、それ自体はたぶん赤字でしょ。でも、宣伝効果たるやすごい。唐池(恒二)さんの執念を感じる。世界一の列車、サービス、九州一おいしい米、肉、魚……。ダイヤが許すかぎりゆっくり走って、大村湾の夕日を見るとかね。「今だけ、ここだけ、あなただけ」っていうサービスを目いっぱい詰め込んでいるじゃない。こういうネタは日本国中にあるんだよ。

――北海道にも観光列車を造ろうという声がありますが、ひとつのやり方として有効ですか。

私は高校生のときに初めて北海道に行ったが、本州以南とは景色がまったく違う。その感動は今も忘れない。四季、自然、食べ物……、人の感性を震わせる要素は北海道がいちばん持っている気がします。北斗星もカシオペアも廃止になりましたが、どのルートを走らせ、どのようなサービスを提供すれば人が喜んでくれるかを徹底的に考えれば、北海道の鉄道にはまだまだ余力がある。

でもね、JR北海道はかなり厳しいところからスタートしているわけで、かわいそうなところが多い。そのJR北海道に「君たち、のびのびとした発想で自由に考えてごらん」と言っても、毎日の列車を走らせるのが精いっぱい。ですから、JALやANAのようなまったく違う事業者が入ってくることで違う商売のやり方があるんでしょう。

──新幹線建設については各地で期待があるようです。

私は山陰新幹線の立場。山陰の日本海側って、新幹線もつながっていないし、高速道路もつながっていない。昨年の衆議院選挙の応援演説は、まず新潟1区、次の日が秋田1区っていう日程だったんだけれど、どうみても、1回東京に戻るほうが早いんだ。間に山形を挟むだけなのに……。

私の鳥取1区から竹下(亘)さんの島根2区に行くのは、隣の県なのに、どう考えても1回羽田空港に出たほうが早い。上越新幹線と北陸新幹線はうまくつながってないし、在来線も減っている。やっぱり青森から下関までつなぐ新幹線って必要なんだよね。

低コストで新幹線を建設する方法を考えよう


新幹線網の充実についても持論を展開(撮影:尾形文繁)

とは言っても、四国や山陰にフルスペックの新幹線を入れたくても財政的に無理に決まっている。どうすればコストを下げられるかということを先に考えないで、気宇壮大なことを言っても仕方がない。

山形新幹線や秋田新幹線を造るのに大変な努力があったことも知っているが、やっぱり在来線軌道を走る新幹線には限界がある。かといって1時間に何本も走る線ではないと思う。単線の新幹線っていうのは考えられるのかな。それだと建設費はいくら下がるのか。架線が不要な燃料電池による新幹線は可能なのか。フルスペックの新幹線は財政的に無理でも、うまくコストが下がる方策があればいい。

――ということは、コストが下げられるなら新幹線は全国に増えてもよい?

そう思いますね。やはり、つながってなんぼ。鉄道の特性である定時性、環境に対する負荷の少なさ、大量輸送能力というのは、日本人があまねく享受すべきものです。一生懸命に努力して頑張ろうと思っても、交通インフラがあまりに脆弱だと、力を最大限引き出せない。

中央一極集中にはそれなりの意味があった。中央において極限まで生産性を上げて、公共事業と企業誘致で地方に雇用と所得をもたらすという形で国家は運営されていた。「地方はそんな頑張らなくてもいいよ」っていう。

でも、昭和40年代や50年代と同じように公共事業をやる財政余力はない。地方の工場が同じものを大量生産するというビジネスモデルはもうありえない。地方のポテンシャルを最大限に引き出すためには、交通インフラが必要で、それってどんな形がいいんだろうなといつも考えている。

──都市と地方だけでなく、地方同士をつなぐ高速交通があってもいいのでしょうか。

いいでしょうね。何でもかんでも東京や大阪に向かわなければならないというものではない。昔は米子発名古屋行きという、とんでもない路線を走るディーゼル急行があった。インバウンドの人たちも有名な観光地は見飽きちゃうでしょ。本当の日本のすばらしさ、原風景は地方にこそ、あるんだよ。

私が地方創生大臣になって、「あっ」と思ったんだけど、ほとんどの道府県庁、市町村役場には経済職がない。役所が経済分析をしてどの部分のどの生産性を上げれば雇用と所得が増すのかという、経済分析に基づく自治体運営をやっているのを見たことがない。だから、つねに東京とつなぐのではなく、どこに販路を広げればうちの経済はよくなるんだというのは、意外や意外というのがあってね、鉄道に限りませんが、地域間の交通には可能性がまだあるような気がするんです。

鉄道はもっと市場調査を


石破茂(いしば しげる)/1957年生まれ。1986年衆議院議員初当選。防衛相、農林水産相歴任。2014年に初代の地方創生担当相に就任(撮影:尾形文繁)

川越の観光客が増えたのは横浜と鉄道でつながったからだけじゃない。市街地を全部メッシュで切って、どの地域に、何時に、何歳ぐらいの、男性・女性が来ているのかというのをすべて分析して観光客を増やした。今は日帰り客がすごく増えていて、どうやったら宿泊客が増えるのかを考えると、早朝か夜にイベントをやればいい。ではそのときに鉄道のダイヤをどうするか。

北海道だって、十勝バスは徹底的に市場調査を行って乗客を増やした。鉄道だって同じことができる。何時にどの列車を走らせてどの駅に止めれば客が乗ってくれるのか。口で言うほど簡単な話でないことは承知していますが、「誰がカネを出すんだ」みたいな話だけでは、ちょっとね。

――交通手段としての鉄道の強みはどこにあるのでしょうか。

定時性だと思います。あとは大量輸送性。これはバスよりもはるかに強い。少ないコストで多くのものを運べる。

昔は地方出張したときに夜行列車で帰るのが楽しみだった。特に秋田から寝台特急「あけぼの」に乗って、上野へ帰ってくるっていうのが大好きだったけど、今は夜行バスに取って代わられた。でもバスの場合は道路は税金で造ってくれるので、道路の建設費もバス会社が出すということになったらあの料金では走れない。それを否定はしませんが、少なくともオール・オア・ナッシングではなくて、輸送手段それぞれの特性をうまく生かすことができたらと思います。

(聞き手・本誌:大坂直樹、小佐野景寿、堀川美行)