国籍も仕事もまったく違う3人は、日本で働くことをどう感じている?(撮影:尾形文繁)

昨今、さまざまな企業で外国人が働いているのを見掛けるようになりましたが、日本や日本の会社は「働く」という視点で見たときに、どれだけ魅力的な場所なのでしょうか。

そこで、今回は出身国や日本の滞在歴、職種も異なる3人に集まってもらい、日本での仕事のやり方や働き方、上司とのコミュニケーションなどについて語ってもらいました。今後、国境を超えた人材争奪戦が激しくなるとも言われる中、日本により有能な人材を集めるのにはどうしたらいいのか、ヒントを探せるかもしれません。

オンラインで日本の会社の面接を受けた

今回参加していただいたのは、この3人です。

カルロス・ドンデリス氏
スペイン出身、日本在住歴7年。クラウド名刺管理サービスのSansanでシステムエンジニアとして働いている。
イブラギモブ・ショハルフベック氏
ウズベキスタン出身、日本在住歴12年。通称ショーン。ヤンマーに入社8年目。マーケティング部の市場調査や競合他社分析の仕事している。
マニッシュ・プラブネ氏
インド出身、日本在住歴20年。アドビシステムズで、ビジネス開発のコンサルティング責任者を務めている。

――日本で働くようになったきっかけは?

ドンデリス:子どもの頃からアニメ、空手など日本の文化に興味があって、観光で東京や京都を見て、日本で仕事したいと。エンジニアがたくさんいる日本で、日本人ではなくスペイン人の僕が選ばれるよう1年ぐらい準備して、オンラインで面接を受けました。

日本語はマドリッドで1年ぐらい勉強しましたけど、東京に着いたら何もわからなかったですよ。日本に来てから、学校に通ったりしました。最初は大変だった。でも、少しずつ慣れました。

ショハルフベック:高校時代、ソニーのプレイステーションが大好きで、英語はできるけれど、アメリカやヨーロッパよりも、日本に行ったほうが将来的に魅力的じゃないかと思ったんです。日本語はまったく知らなかったんですけど、当時はTOEFLを受けて、学校の論文を書いて立命館アジア太平洋大学に入学できた。

日本語はほぼゼロで来たので、大学で1日だいたい5時間のレッスン。そのあと寮に帰ってまた5時間勉強。涙が出るくらい苦労して日本語を学んだので、ぜひプロとして何か経験したいと思った。

よく言う言葉ですけど、「懸け橋になりたい」という思いが強かったんですね。2010年に就職活動で20社くらい受けたんですが、最終的には、将来ウズベキスタンに帰ったときに何か持ち帰れるよう、ヤンマーに入社しました。

職場で使っているのは日本語?英語?

プラブネ:私の場合、日本が戦後たった20年でなぜそんなに復活できたのか驚いたことが1つのきっかけです。インドもイギリスから独立したけれど、あまりにも多様性がありすぎて意見がまとまらない。日本は一体感のある国ですから、早いペースで経済成長に至ったのかなと思います。そういう世界が見たかった。

――みなさん職場では日本語ばかりですか?

ショハルフベック:日本語8、英語が2。


日本に来てからしばらくは、新潟にある金型会社で働いていたというプラブネ氏(撮影:尾形文繁)

プラブネ:私は外資系なので社内は英語も多い。でも取引先の経営層にプレゼンするときは、高齢の方が多いのでカタカナを極力減らすようにしています。「デジタルトランスフォーメーション? 何それ?」という話になってしまうので。

ドンデリス:Sansanの場合は、会話は日本語、でもエンジニアですから、指示などは英語です。

――言語の壁で歯がゆい思いをしたことは。

プラブネ:言語の壁よりも文化の壁。日本の文化を理解したうえで発信しているかどうか。たぶんその努力がいちばん必要と思いますね。文化を理解していないと、日本語を話してもあまりピンとこない。

ショハルフベック:確かにそうですね。僕の経験では、やはり「空気を読め」という文化が日本である。最近は薄れてきているけれども。要は「行間を読みなさい」ということ。

就職した当初、初めて配属されたところで「ショーン、Aをやって」と言われてAを持っていったら、「あれ、Bは? Aと言ったらBもやる。当然じゃない?」と言われました。当時、日本語は話せても、マニッシュ(・プラブネ)さんが言ったように文化をまだ理解していなかった。

私はそこでキレずに、「僕は外国人です。僕に言いたいことを、できれば1、2、3と細かく言ってください。そのうちわかっていくと思いますが、最初は教えてください」とお願いしたんですね。そこは日本人的に一歩引いて、自分を下にした。それでだいぶ変わった。

スペイン式で話したら職場がシーンと…

ドンデリス:スペイン文化と日本文化もだいぶ違う。スペインではみんな考えていることそのまま言ってディスカッションする。職場もいつも熱いカンバセーションです。


スペインでは会議で「出席者が一斉に話すのが当たり前」というドンデリス氏(撮影:尾形文繁)

日本に来て、スペイン人スタイルで、「これは違う。これは間違っている」と、考えたことをそのまま伝えたら、みんなシーンとなった。日本の場合は「言語プラスアルファ」。空気読まないといけない。少しずつそれに気づいて、しゃべり方や仕事の仕方が変わってきた。

ショハルフベック:そう。日本は「和」が大事ですね。要はその相手の気持ちを嫌にさせない。反対意見も「なるほど。面白いですね」と言いながら、「でも僕はこう思います」と言わないと。

――働き方や働く環境について日本独特だと思うことはありますか。

ショハルフベック:メリットもデメリットもありますね。メリットは社員一人ひとりに対する投資が大きく、細かい研修もあって大事にされているように見える。その一方で、キャリアアップ感があまり見えない。

ショハルフベック:僕の個人的な意見ですが、日本では経営者か労働者しかいなくて、その間のプロフェッショナル人材があまりいない。ヤンマーでは、今年から「自分のキャリアを自分でプランしなさい」という方針になり、上司と相談しながら自分の役割、目標を決める。企業として変わろうとしているように思います。

ドンデリス:働き方でいえば、日本は確認文化ですよね。チームで連携して、責任者に確認しながら進んでいく。スペインの場合は勝手に進めて、結果的に上司の意図と違うものが出来上がって「なぜこんなふうに作った?」ということが結構あるんですね。日本ではそういうことがない代わりに時間がかかる。

2時間でできることが4時間に…

ショハルフベック:日本人は完璧主義でもあるしね。全部、100%やって確認。資料作成でもいろいろな視点から確認しながらするから、2時間でできることが4時間になっちゃう。


新入社員としてヤンマーに入社したショハルフベック氏は、仕事のやり方でわからないことは積極的に上司に聞いたという(撮影:尾形文繁)

でも今は残業したら、逆に「マイナス評価」だと言われるでしょう。「えー、でもこの仕事の量は、残業しないとできないよ」と言っても、「それはあなたのやり方が間違ってるんじゃないの? もっと効率よく」と言われる。僕から見ると、やり方が間違っているなら、もっといいやり方を提示する必要があると思うんです。

ドンデリス:今は「必ず7時に帰ってください」と電気も消されますね。僕の会社ではOKR(Objective and Key Result=目標と主要な結果)があって、たとえばこのチームはこの結果を達成できたら給料を上げるという仕組みになっている。だから、あまり遅くまで仕事をする必要はありません。

プラブネ:インドのバンガロールというIT企業が集まっているシリコンバレーのような都市には、徹夜している人たちがいっぱいいる。だから、よく言われるように、日本人だけが働きすぎ、とは思わないですね。

ただ、日本は「皆さんがいるところに自分もいなきゃ」「そこに自分がいなかったら、何かビッグなことが起こるのでは?」という精神があるように思う。前の会社では、何にも仕事はないのに、「課長と部長がまだいるから」とただ座って残っている人がいましたよ。

――仕事の後のお付き合いは?

プラブネ:まったくしないですね。ゴルフもしませんし、飲み会も行かない。それこそまさに先ほど言った「fear of missing out」、「皆さんがいるところに自分もいないと、何かビッグなことが起きたらどうしよう」ということでしょう? 

実際は何も起こらない。それよりも勤務時間にきちっと働いて結果を出せばいい。それが認められなかったら、別の会社に行けばいい。私はマイペースが幸せのカギだと思っているので、家族の時間を大事にしています。別に仕事に支障はないです。

マイノリティへの理解や環境整備が重要に

ショハルフベック:すごく共感します。僕も幼い娘がいるので、ほぼ定時で帰って、自分も楽になりました。以前より仕事の効率を上げようという意識も強くなりました。僕は宗教上、お酒は飲めない。

新人の頃、飲み会の幹事を頼まれて、上司に説明しました。そこで理解してくれたから、今もこの会社にいるのだと思う。もし理解してくれなかったら、辞めていたと思います。

マイノリティへの理解は大事。そういう意味では、日本の多くの企業はまだまだ宗教や文化的マイノリティに対応できておらず、外国人をウエルカムする環境が整えられていないと思う。


「外国人」といっても、出身国や文化、滞在期間、目的は人それぞれ。企業には「外国人」としてひとくくりにせず、個別のニーズをすくい上げる柔軟性が求められる(撮影:尾形文繁)

ドンデリス:僕は飲み会好きです。

プラブネ:それはそれで大丈夫よ(笑)。

ドンデリス:頻繁に行くわけではないけど、飲み会でしか見えないことはちょこちょこあるので面白い。それと、Sansanは、会社の中に乗馬クラブやロッククライミングクラブなどのクラブもあります。それもたまに参加しています。