「できないことがあると知って、楽になった」竹内結子が考える、働く女性の力の抜き方

黒のノースリーブドレスに黒のハイヒール。大人の女性らしい身のこなしで、爽やかに現れた竹内結子。ドラマ『ミス・シャーロック』で演じた、ずば抜けた頭脳と知識を武器に事件を解決していく一方、感情を抑え、素直に心を開くことのない“頭でっかち”な探偵とはまるで真逆の印象だ。シャーロックについて、ときに笑いを交えながら、やさしい表情で「しょうがない人」と語る姿には愛が満ちている。人気、実力ともに日本を代表する女優の竹内に、作品の話はもちろん、働く女性の先輩として、仕事とプライベートの切り替え方などのアドバイスを聞いた。

撮影/アライテツヤ 取材・文/八波志保(Playce)

目指したのは「シャーロックという変な生きもの」

日本をはじめ世界19ヶ国で、4月27日より配信・放送中のHulu×HBO Asia共同製作ドラマ『ミス・シャーロック/Miss Sherlock』。現代の東京で起こるさまざまな難事件を、シャーロック役の竹内さんとその相棒、橘 和都役の貫地谷しほりさんの“迷”バディが解決していく物語です。役作りをするうえで、シャーロックとは正反対の、感情をむき出しにする和都の存在がヒントになったそうですね。
和都を通すと、シャーロックはとても孤独で、寂しがりな面が見えてくる。最初は、ひとりで完結している人というか、ほかの誰かに自分を委ねたりすることはまずない人だと思っていたんです。でも、じつは心をゆるせる誰かをものすごく欲しているのだなと感じて。
そんなところが、かわいく見えたりもしますよね。
なんだかね、小さい子どもみたいって。誰も必要としていなくて、必要があるとすればお兄さん(双葉健人/演:小澤征悦)。お兄ちゃんさえいればこの世の中は成立する、くらいの気分でいる人ですね。
シャーロックを演じるにあたって、過去の作品を参考にしたりしましたか?
影響を受けてしまうと思ったので、台本を受け取る頃には既存の「シャーロック・ホームズ」作品を視界に入れないようにしました。企画を頂いたときは原作を読み直したんですけど、これ以上読み進めると生い立ちに触れてしまうかもしれないと思ったところでやめました。
今回は初の探偵役ですが、そもそも探偵ものはお好きですか?
好きですね。探偵と聞くと、私は横溝正史さんの『犬神家の一族』とかをイメージします。読書も、作者名の「あ」から読み始めたり。赤川次郎、アガサ・クリスティー…って感じで、ミステリーをよく読んでいました。順番に読んでいくと、やはり男性が主人公のものが多いんですよね。
たしかに、探偵ものはとくにそうですよね。
今回は女性が主人公なので、そうだなぁ、探偵というよりは「シャーロックという変な生きもの」になれたらいいなって思いましたね。事件や謎を解決するときって、必ずあるのは正義感や目的だったりするんでしょうけど、シャーロックはそういったものがない人なんですよね。ただただ、目の前で起こることへの好奇心というか。そこを重視しようと思いました。
演じていて難しかったところは?
シャーロックは何かを解明したり説明を始めるときは、とにかく早口で人を追い立てるように話すんですよ。そういうときの台詞には化学式や専門用語なども多くて、ついていくのが大変でしたね。彼女は自身の頭の中で、すべて理解して話しているけど、私にはとにかく難しかった(笑)。
シャーロックを理解するというのは、なかなか大変なことだと思います。
どちらかというと、私も和都目線なので(笑)。台本を読んでいると、シャーロックはなんでこうなんだろう、と思ってしまって。でも、それも演じていくうちに、ちょっとした快感になってきました。シャーロックのように、他人を気にせず自分勝手にふるまえたら、こんなに自由なのかと。ただ彼女がひとりになってしまうのも、こういうところからくるのかなと思いましたね。

重ねたくはない。でも、自分にシャーロックの要素はあるかも

世界中で知られているシャーロック・ホームズですが、オファーを受けたときはどう思いましたか?
まず純粋に、面白そうだなと思いました。時代は現代に、主人公も女性に置き換えられたら目線も変わってくるだろうし。舞台も日本なので、日本らしさがどう描かれるのか楽しみでした!
女性同士のバディドラマはめずらしいですが、竹内さんも女性の共演者からの刺激を受けたりすることも?
ありますね。今回共演した伊藤 蘭(波多野君枝 役)さんは姿勢が美しくて。その佇まいからくる、凛とした空気というのでしょうか。なんて素敵なんだろうって。貫地谷さんは、一言でいえば「ミス・パーフェクト」。何が起きても変わっても、決してブレないところ。いつだって完璧な和都を演じられるところがすごいと思います。
シャーロックが魅力的だと思ったところはどこでしょう?
一番魅力的だなと思うのは、ひどい物言いはするんですけど、どこか憎めないところ。冷たいし思いやりもなくて、ものすごい変な人だとは思うんですが、和都を通すと、寂しがりやな一面が見えてきたりするんです。それが人間らしくて、本当は誰かを欲してる小さい子どものようで可愛らしいなと。そういうシャーロックでありたいなと思いました。
シャーロックと竹内さんが重なるところは?
重ねたくないのが正直なところなんですけどね(笑)。理解しがたいものはあるんですけど、彼女を理解しようとするうちに、自分にもそういう要素があるのかなと気づいて。好きなことに対しては、熱く語るところとか。集中していると、人の話を聞いてないとか(笑)。
どうしても、台本の中から読み解くにはまだまだ謎の多い人で、演じているときも、自分のものであるけど自分のものでないような…そういう感覚が最後までありましたね。でも、その掴みきれないところも魅力なのかなと思いました。
今回の演技を通して、竹内さん自身が気づいたこと、学んだことはありますか?
人を振り回すって大変だなって気づきましたね。今まではどちらかというと、お芝居を受け取ってリアクションを返す役柄のほうが多かったので、自分から発信するとなると、どうしたらいいかなっていう戸惑いが最初の頃にあったんです。
だんだん感覚を掴んでいった感じでしょうか?
そうですね。それこそ、貫地谷さんが和都として「なぜそういう言い方しかできないの」ってリアクションを返してくれることで、「私はけっこう、ひどいことを言ってるんだな。……このセリフってこういうことかな、なるほど」と気づくことで役が見えてきたり。台本から目を上げて人と関わること、現場の空気を体感しないと掴めないものが多かったなあ。
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