決してアメリカ人好みのクルマを作っているわけではない

 日本でスバルといえば、インプレッサやレヴォーグの名前を思い起こす人が多い。90年代から2000年代には一世を風靡したレガシィの姿を、街で見かけることは少なくなった。また、日産といえば、セレナやXトレイル、そしてリーフやe-POWER搭載のノートのイメージが優先され、その昔には“技術の日産”の代名詞だったスカイラインの販売数は今や少ない。

 ところが、こうした状況はアメリカでは大きく変わる。とくに、インフィニティQ50と呼ばれるアメリカ版スカイラインは、日本人では理解できないほど人気が高いのだ。その原因について考えるために、時計の針を2002年に戻してみたい。

 2002年といえば、日本ではV35型スカイラインの時代。だが、自動車雑誌はこぞって、V35について「これは、もはやスカイラインではない」といった厳しいコメントを掲載した。

 ところが、海を渡りインフィニティG35と名前を変えた途端、スカイラインはアメリカ人の心をわしづかみにした。当時、インフィニティG35が売れる理由を北米日産本部やディーラーで取材したが、「日産のレーシングスピリッツを反映した、あのフェアレディZと同じFRプラットフォーム」というマーケティング戦略が見事に当たった。

 アメリカの自動車メディア大手はごぞって「BMW3シリーズの対抗馬」という高い評価をしたことで、インフィニティG35の売り上げが一気に伸びた。

 その後、G35からG37、そしてQ50へとモデル進化を続けていったスカイラインだが、日本製の高品質なGT系セダンという商品イメージが脈々と受け継がれている。

 インフィニティQ50やレガシィが根強い人気を誇るアメリカ市場だが、ここ1〜2年で市場の変化が見えてきた。それが、アメリカ乗用車市場でもっとも販売量が大きいC・Dセグメント(中小型クラス)のセダンからSUVへのシフトである。具体的には、Cセグメントではカローラとシビック、Dセグメントはカムリとアコードから、CR-VやRAV4への買い替え需要が増えているのだ。

 そうしたなかで、高級セダン市場は堅調であり、日系プレミアム御三家のインフィニティ・レクサス・アキュラ、そしてジャーマン3と呼ばれるダイムラー・BMW・VWグループなどは、インフィニティQ50を筆頭に安定した売り上げを達成している。

 一方、日本ではミニバンと軽自動車が市場の中核である状況に変わりはなく、日系高級セダン市場が一気に回復する気配はない。スカイラインレガシィが日本よりアメリカでより多く売れる理由は、メーカーがアメリカ人好みのクルマを作っている訳ではなく、あくまでも社会背景の違いによるところが大きいと思う。