クルマに乗せられているのではなく乗っている感があった昔

「昔はよかった」なんて、懐古主義のおじさんのような言葉だけは発したくなかったが、クルマに関しては、たしかに昔はよかった面がある……。改めて振り返ってみよう。

1)昔のクルマは軽かった

 クルマは慣性の法則に支配されて動いているので、車重が軽いほど運動性能はいい。1980年代までは、1トンを切るライトウエイトなスポーツカーがたくさんあって、FC3S(マツダRX-7)でも1.2トンぐらいだった。軽いクルマは、「走る、止まる、曲がる」といった基本性能が全方面で有利なので、パワーはなくても楽しく走れたし、年数が経っても走りの“艶”がなくならない。

2)昔のスポーツカーは安かった

 古いスポーツカーは、大衆車のシャシーにちょっと元気のいいエンジンを積んだだけというクルマが多かったので、車両価格が安価でタマ数が多かった。代表的なのが、トヨタ・カローラにDOHCエンジンを積んだ、レビン・トレノ。今は高値のAE86(ハチロク)だって、新車で160万円クラスからだった。日産180SXだって、FRのターボで180万円〜だったし、マツダ・ユーノスロードスター(NA型)も200万円を切る値段。トヨタ・スターレットなども安かったし、中古車なら50万円以下で選べるスポーツカーが山ほどあった。

3)FRが当たり前だった

 小型車にFFが普及してきたのは、80年代後半から。それまではFRが当たり前だったので、大衆車ベースのスポーツカーは、みんなFR。ランタボ(ランサーターボ)、スターレット、レビン・トレノ、セリカなど。シビック、シティなど、ホンダ勢が少数派のFFだった。

4)車高やボンネットが低く、カッコよかった

 スタイルやデザインは主観の問題だが、昔のクルマのほうがノーズや車高が低く、見るからにスポーティなクルマが多かった。厳しい、「歩行者保護規定」が課せられている最近のクルマは、どうしてもボンネットやフェンダーまわりを薄くできない……。ピラーも細いし、リトラクタブルライトも珍しくなかったし。

 安全は確かに大事だし空力も重要なのだが、単純なカッコよさの追及&自由度は、昔のほうが上だったような気がする。

5)自分でイジる楽しさがあった

 昔のクルマの構造はシンプルで、ボンネットを開けるとエンジンルームは割とスカスカ。メカにちょっと強い人なら、自分でメンテナンスしたり修理できる要素も多かった。それに比べ最近のクルマはボンネットを開けても、見えるのはエンジンカバーぐらい……。メカニカルな要素での楽しみは、かなり減少してしまったのではないだろうか。

6)電子制御の影響が小さい

 ABSは別格として、電子制御の姿勢制御技術が当たり前になってくると、クルマとドライバーのダイレクトな関係が薄れてくるという問題も……。もちろん、電子制御のメリットも大きいので味付け次第なのだろうが、昔のクルマはもっとシンプルに楽しめた。

7)「幸せコストパフォーマンス」が大きい

 昔のクルマでよかったのは、技術の進歩に対し、素直にワクワクできたこと。わかりやすいのはエンジンパワー。130馬力(L型)のC210日産スカイラインから、150馬力のDOHCのFJ20エンジンを積んだR30スカイラインが出たときは「おお〜」となったし、ターボ化されて190馬力、205馬力になったときはニュースになった。

 NAだって、ホンダ・インテグラが1.6リッターで160馬力=リッター100馬力を達成したのも話題になったし、ガゼールターボが60タイヤを履いた、R32GT-Rで50タイヤ解禁、ファミリアがフルタイム4WDターボで速いなど、技術革新が日本中のクルマ好きをワクワクさせた。しかもそれらの最先端のクルマが、若者でも手を伸ばせば買えたのが大きい。

 平成元年(1989年)の大卒の初任給平均は160,900円。2017年は212,873円。それで、S13シルビアのターボが、当時新車で210万円。今ではハチロク・BRZで300万円クラス……。280馬力自主規制の上限=GT-R、NSX、Z、スープラ、RX-7あたりまでは、300馬力前後でとってもワクワクできたのだが、400馬力、500馬力、600馬力になったとしても、あのワクワクは……。

 もちろん今のクルマは非常に進歩しているし、安全で、細部までよくできている。しかし、その分、車重が重いし、価格も高い。その価格を、ワクワク感で割った「幸せコストパフォーマンス」で考えると、昔のクルマにかなり及ばないというのが現状なのではないだろうか?