管理職の残業漬けは「妻の命令」だった

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なぜ管理職世代の中高年男性は、会社からさっさと帰ろうとしないのか。日本総研の調査によれば、そうした「働き詰め」の大きな原因は、「妻の意向」だったことがわかった。多くの妻たちは、家事を手伝わないのであれば仕事をしていてくれ、と考えているようなのだ。中高年男性が「働き方改革」で幸せを手に入れる方法とは――。

■「働き方改革」はイクメンや女性だけのものじゃない

働き方改革」に取り組む企業が増えていますが、それにより誰が恩恵を受けるのでしょうか。例えば、「仕事と家庭の両立の問題を抱えている女性」あるいは「共働きで家事参画を望む若手男性」などがイメージできますが、それだけではありません。

働き方改革が進むことで、長年にわたり、「旧来型の働き方をしてきた中高年男性」にとってもメリットがあるのです。

本稿では、筆者が3月に上梓した『女性発の働き方改革で男性も変わる、企業も変わる』(経営書院)の内容を土台にしながら、中高年男性にとっての働き方改革の意義を考えます。

【1:中高年男性が定年後も「今の会社に勤めたい」と考える理由】

日本総合研究所では2017年に「中高年男性社員の意識調査」(以下、調査)を行いました。調査対象は1987年から1992年に初めて就職をし、現在、従業員数1000人を超える企業の東京の事業所に勤務する男性516人です。その結果、中高年男性の約6割が「今の職場で雇用機会がある限りは転職をしたくない」と考えていることがわかりました。

なぜそう考えているのか。大きな理由として挙げられたのが「妻の意向」でした。

この調査では、中高年男性に対して、「配偶者(妻)が自分のキャリアプランに対してどのような要望を持っているか」について聞いています。その結果、「現在の勤務先に勤め続けてほしい」という回答が半数を超えて最も多くなりました。

また「現在の勤務先でなくてよいが、長く働いてほしい」が16.2%、「現在の勤務先でなくてよいが、現在の水準以上の給与待遇で働いてほしい」が14.0%で、この3つを合わせると、妻の約8割が夫の継続的な就業を望んでいることがわかりました(図表1)。

さらに、「妻からは勤め続けてほしいと言われている」と回答した中高年男性に対して、「妻がそのように要望する理由はなにか」と尋ねると、「生活費を稼ぐこと」が最も多く約8割、それに続いて、「老後のための貯蓄をする」が約5割でした。妻の本音は、現在と老後の「糧」を得るためにお金を稼いでください、というものだといえます。

管理職を含む中高年男性の働き方に対しては以前から「長時間労働の働き方を変えない」「休暇を取得しない」などとしばしば非難されてきました。上司がなかなか帰宅せずに夜遅くまで会社に居残っているので、部下は帰りづらい。有給休暇を使わないから、部下も堂々と使いづらい――。

そうした働き方を続ける理由はハッキリしませんでしたが、今回の調査結果から、夫は妻から発せられる「できるだけ長く働き続けてほしい」という意向に応えようと必死で仕事をしていることがわかりました。家族に対する経済的責任や妻の意向が影響しているとすれば、中高年男性が働き方を変えるには、「長く働き続けてほしい」と考える妻とのコミュニケーションを見直す必要があります。

■「家事を手伝わないのであれば仕事をしてほしい」

【2:家事参画で夫婦の円満化と妻の就業を支援】

調査では、中高年男性が担う家事分担の割合と、妻が夫に望むキャリアプランとの関係についても聞いています。その結果、家事分担の割合が低い男性(全体の20%未満)の場合、「配偶者(妻)は自分(夫)に働き続けてほしいと考えている」という人より、「配偶者(妻)は自分(夫)に好きなことをやれば良いと考えている」という人のほうが少なかったのです。

つまり、妻は「家事をほとんどしない夫」に対しては、「家事をしないなら、せめて働いて稼いでほしい」と思っているのかもしれません。なぜなら、家事分担の割合が高い男性は、その割合が逆転しているからです。家事分担の割合が「全体の40%以上60%未満」、「全体の80%以上」という「家事を手伝ってくれる夫」に対して、「配偶者(夫)は好きなことをやれば良い」と考える妻のほうが多いのです。

こうした結果は、中高年男性の長時間労働をあらためるうえで、貴重な示唆になります。つまり夫が自由な時間を増やすためには、仕事偏重の生活を改め、自主的に家事サポートをすることが重要だと考えられるからです。

中高年男性は自ら望んで長時間労働をしていない

【3:年齢を経ても副業・兼業で新たなチャンスを獲得】

調査では、中高年男性の「労働価値観」についても聞きました。何のために働くことが重要か、という点を尋ねたのです。その際、現在の労働価値観だけでなく、過去の就職活動時点での価値観を想起してもらい、比較できるようにしました。

その結果、「出世昇進のために働くことが重要だ」という設問では、約30年前の就職活動時点で「強くそう思う」「そう思う」と回答した人は全体の約3割でしたが、アンケート回答時点(2017年)では約2割まで減っていました。

その一方、「自分の能力やスキルを活かすために働くことが重要だ」「自己成長のために働くことが重要だ」という設問では、「強くそう思う」「そう思う」との回答が過去と現在のいずれも約5割で、年齢の上昇やライフイベントの変化があっても、仕事に対してやりがいを求める気持ちは変わらないことがわかりました。

ところが、企業はその意欲やスキルを必ずしも生かせているとは言えません。再雇用の場合には、仕事の内容や裁量を限定的とする企業が多いようです。

また、「給与と働く時間が調整できる場合、どれくらいの時間を割きたいと思っていますか」と尋ねたところ、「業務時間を減らして(週3日以内)副業・兼業をしたい」と回答した中高年男性は約4割でした。さらに「休日や退社後の時間まで副業・兼業をしたい」という回答を含めると、副業・兼業に挑戦をしたい中高年男性は約6割に上ります。給料が減っても、副業・兼業に挑戦したいと考える中高年男性は少なくないのです。

こうした中高年男性の意欲を生かすためには、副業・兼業の解禁を進めることが重要です。副業・兼業は、起業や転職に比べると経済的なリスクが低く、今までの経験やスキルを社外で活かせる可能性が広がります。

▼「働き方改革」は子育て世代や女性のためだけのものではない

いつまでも会社から帰ろうとしない中高年男性は、「働き方改革」の抵抗勢力として見られることが多かったのではないでしょうか。ところが、中高年男性は自ら望んで長時間労働をしているわけではありません。「働き方改革」はそうした働き方を変える契機になるはずです。

働き方改革」は子育て世代や女性のためだけのものではありません。中高年男性にとっては、本当に自分が望む働き方、家族(夫婦など)との関係、私生活のあり方を考え、人生設計を必要に応じて組み立て直せることに、働き方改革の意義があると考えます。

(日本総合研究所 創発戦略センター ESGアナリスト 小島 明子 写真=iStock.com)