「ランチ食べ放題」で最後はデザートもガッツリ…。得したはずが、ほとんどの場合お客はかえって損をしている。なぜだろうか(写真:EL CONDOR PASA / PIXTA)

食事をしたり、サービスを受けたりした時、誰もが心の中に「もったいない」とか「元を取りたい」という気持ちを持っています。例えばランチブッフェ(ここでは「立食」よりも「食べ放題」の意味で使います)が典型例です。

もし注文したら「同じおカネを払ったのだから少しでもたくさん食べなきゃ損だ」と考えるのは自然なことです。ところがランチブッフェではまずほとんどの場合、元を取ることはできません。その理由はどうしてなのでしょうか。

「食べ放題」が好まれる3つの理由とは?

ランチブッフェというのは、多くの人に人気があります。その理由は(1)決まった料金で好きなだけ食べられるからお得感がある、(2)好きな物が好きなだけ食べられる、(3)いろいろ種類がたくさんあるので楽しめる、といったところにあるのでしょう。

確かに目の前にごちそうが並んでいると、あれもこれも食べたくなるという気持ちはよくわかります。例えば料金が2000円だったら、絶対2000円以上食べて元をとってやろうという気持ちにもなりがちです。その結果、お腹が一杯なのについ無理して食べ過ぎてしまうということは、よくあることです。

ところが、相手も商売です。当然、自分のところが儲からないような価格設定にはしていないはずです。例えば最もシンプルでわかりやすいのは「ドリンクバー」です。通常、ファミリーレストランなどではドリンクバーはだいたい200〜300円ぐらいの価格ですが、原価はせいぜい5円〜15円程度だと言われています。

これで元を取ろうと思ったら20杯も30杯も飲まなければならないわけで、これはどう考えても無理です。ランチブッフェの場合は、これに加えていくら大食いの人がたくさん食べても絶対に元は取れない構造になっているのです。

そもそも飲食店のコスト構造は、固定費と変動費から成り立っています。店を開けたことで、お客さんが1人もこなくてもかかるのが固定費(家賃や光熱費等)、来た人数分に比例してかかるのが変動費(食材費等)です。したがってお客が1人も来なければ固定費分がまるまる赤字です。お客が1人来れば(1人当たりの料金-変動費)だけ赤字が減ります。したがってたくさん来れば来るほど、儲けは多くなります。

例えば、あるレストランで普通の定食の値段が1000円だとします。変動費を300円だとすると、このお店では1人のお客が来るたびに700円の利益(固定費含まず)が出るわけです。もしこのお店の固定費が10万円だとすると、150人以上お客が来れば700円×150人=10万5000円ですから、固定費を入れても利益が出ることになります。

一方、このお店がランチブッフェを設定し、値段が2000円で食べ放題とすればどうなるでしょう。仮に来たお客が3人前食べたとしても変動費は300円×3=900円ですから、このお客から上がる利益は1100円となり、むしろ400円増えます。つまりお客は「3人分食べてやったぞ、どんなもんだ!」と思っていても、店も普通の定食以上にがっちり儲かっているのです。

また、別のコスト要因も考えてみましょう。料理というものは1人前作ろうが、100人前作ろうが、投入する食材の量が増えるだけで手間が100倍かかるわけではありません。それに料理を盛り付けて、一人一人の客席まで運ばなくてもいいわけですから、調理や接客にかかる人件費は減ります。さらに、どれぐらい注文が入るのかわからない一品メニューに比べたら、ブッフェスタイルの場合は、店側で用意していればいいわけですから、食材自体の仕入れコストも安くすることができるでしょう。

これらはコーヒーチェーン店のS・M・L・LLのサイズでも同じことが言えます。よく大きいサイズの方が分量当たりの価格が安いからお得だと言って大きなサイズを注文する人がいますが、これもさきほどのコスト構造と同じでサイズが大きい方が店の利益も大きくなります。むしろ飲めなくて残すぐらいなら、最初から小さいサイズを選ぶのが賢明なのです。

「元を取りたい」という気持ちがさらに「大きな損」に

食べ盛りの中学生や高校生ならともかく、ある程度の年齢の大人であれば食べ過ぎるということは何も体に良いことがありません。食べ過ぎてその日1日気分が悪かったり、場合によっては次の日まで胃がもたれてしまったりします。あげくは翌日に体重計に乗るとさらに大きなショックが待ち受けているということになりかねません。

このように「元を取りたい」という気持ちが往々にしてさらに大きな損を呼び込んでしまうということには注意しなければなりません。経済学ではこのようにすでに使ってしまっていて、戻ってこないおカネのことを埋没費用(=サンクコスト)と言い、この場合のランチブッフェの料金がそれにあたります。サンクコストにこだわり過ぎると損をしてしまうということになりがちです。本来、サンクコストはもう戻ってこないおカネですから、考えてもしょうがないのです。

もちろん、ランチブッフェが悪いということではありませんし、損得だけで考える必要もありません。自分の食べたいものが満足の行くように食べられるのであればそれで何も問題はありません。ただ、何とか元を取りたいと思って無理する必要はないということです。大切なことは、すでに使ってしまったおカネのことはできるだけ考えないようにすることです。常にゼロクリアで考え、「ここからどういう判断と行動をすれば、最も得になるのか」ということを考えるべきでしょう。