新名神高速道路の新規開通区間に設けられた最新鋭のサービスエリア(SA)である宝塚北SA(筆者撮影)

大型連休も後半に突入した。高速道路を使って帰省したり、旅行や行楽に出掛けたりしている人も少なくないだろう。

ハイウェイドライブに欠かせない休憩施設

高速道路を長時間運転すればハンドルを握る人も同乗者も疲れるし、トイレにも行きたくなる。こうした当然の欲求を満たすために高速道路に配置されているのがサービスエリア(SA)、パーキングエリア(PA)である。


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SAはおおむね50キロ(北海道では80キロ)ごとに設置され、レストランやガソリンスタンドなどの施設が併設、それを補完するためにおおむね15キロ(北海道では25キロ)ごとに設置されているのがPAで、トイレと自動販売機しかない最小限の施設から、SAに引けを取らない飲食・販売コーナーを設け、工夫を凝らしてご当地の味を提供しているところもある。

SAとPAの境界が以前よりはあいまいになっているのが昨今の特徴であろう。

かつては、SA・PAといえば、全体に殺風景でトイレは清潔とはお世辞にも言えず、レストランもカレーにラーメン、親子丼といった代わり映えしない品揃えがほとんどで、「やむなく立ち寄る」という施設ばかりだった。最近、高速道路を利用されていない方の中には、こうした印象を刷り込まれたまま今に至っている人もいよう。

しかし、日本道路公団が民営化され、SA・PAの運営の自由度が増したことをきっかけに、休憩施設のサービスも大きく変わり始めた。一般の道路に「道の駅」が整備され、地場産品の販売やご当地の味を売り物にするレストランが併設されるなど、“ライバル”の充実も変化の大きなきっかけになっている。

「最低限の休憩施設」からわざわざ立ち寄りたい施設へ

私が日常よく利用するのは、東京・練馬と新潟・長岡を結ぶ関越自動車道だが、この途中に一風変わったパーキングエリアがある。寄居星の王子さまPA(愛称、正式名称は寄居PA)である。


寄居星の王子さまPA(筆者撮影)

上下一か所ずつあるPAのうち上り側だけではあるが、その名の通り、施設の外観も中で売っている商品やレストランのメニューも、フランス人の作家・飛行家であるサン・テグジュペリの小説として世界中に根強いファンを持つ「星の王子さま」の世界そのものである。無関係の商品は基本的に置いていないので、埼玉県のお土産を買おうと思っても空振りに終わってしまうほどそのコンセプトは一貫している。

また、一つ東京寄りの嵐山PA(上り)は、“ブラック”パーキングエリア。といっても、何も労働条件が悪いわけではなく、扱っている商品やメニューが、「ブラックカレー」(竹炭パウダー入り)、「ブラックソフトクリーム」(濃縮エスプレッソ入り)、「まっくろ黒ごまもち」など、黒いものばかり。近年のSA・PAのトレンドは、こうしたここで「しか」手に入らない、あるいは味わえないラインアップを揃えるタイプと、ラーメンの名店が入ったり(今年3月、東名・足柄SA上りの「らぁ麺MORIZUMI」、今年4月、九州道古賀SA下り線の「ラーメン一蘭」など)、話題の立ち食いステーキ店が入ったり(九州道・宮原SAの「いきなり!ステーキ」など)、行列店、人気店のメニューや商品が高速道路「でも」味わえる・手に入るタイプの、「しか」「でも」戦略が目立つ。

ほかにも、書店・CD店が入るSA(新東名・駿河湾沼津SA上り線)もあるし、今年3月には、100種類もの缶詰を販売する缶詰専門店が米子道蒜山SA下り線にオープンした。東名・海老名SAのメロンパンが全国的に有名になってからすでに10年以上が経つが、個性を競う時代の波は高速道路にも押し寄せてきている。


刈谷ハイウェイオアシスは地域のランドマークに(筆者撮影)

また、高速道路の利用者だけでなく、一般道の利用者も施設に入れるよう、両者の接点に「ハイウェイオアシス」の名で登場した大型の休憩・レジャー施設もすっかり定着。その代表例、成功例として知られる伊勢湾岸道の刈谷ハイウェイオアシスは、年間利用者数900万人あまりと、高速道路の休憩施設の枠には収まらない地域のランドマークとして根付いている。立派な観光施設、集客施設となったのである。

グルメの殿堂、そして総合テーマパークへ

前回紹介した新名神高速道路の新規開通区間(川西IC〜神戸ジャンクション)には、道路の開通そのものと同じくらい話題となり、関西の情報番組でも繰り返し取り上げられた最新鋭のサービスエリアである宝塚北SA(上り下りが一つに集約されたスタイル)がある。

私もこの大型連休初日の朝に立ち寄ってみたが、自動販売機から照明、商品のラインアップはもちろんのこと、タカラジェンヌの衣装の展示まである「ヅカ」感満載の外観や内装もさることながら、何よりも驚いたのはトイレである。


宝塚北SAのシャワー付き洗面室(筆者撮影)

2か所あるうちのメインの男性トイレは、なんと小便器18台に対して個室が20室もあり、しかも6室は乳児連れで利用できるイクメン対応。しかも小便器はすべて「手洗器一体型小便器」、つまり用を終えてそのまま手が洗える、NEXCO西日本とTOTOが共同開発した仕様に揃えられている。洗面台が少なくて済む分、個室の洗面台も2部屋あって、シャワーで頭を洗えるようになっているのは、夜を徹して走るドライバーには重宝されるに違いない。


シャワー付き洗面室のピクトグラム(筆者撮影)

私はもちろん入れないが、女性トイレでは男性トイレの2倍以上ある広々とした空間にシャンデリアが輝き、パウダールームや着替えの部屋まで設けて、百貨店や劇場のトイレを上回るゴージャス感を醸し出しているとのこと。

そのほかにも、宝塚歌劇のブルーレイディスクが販売されていたり、イベント広場では月に一度、宝塚OGによるレビューショーが上演されたりするなど、まるで“第二” (東京にも宝塚劇場はあるので、実際には“第三”?)宝塚劇場にいるかのような錯覚を覚える施設であった。

ちなみにこの日は一般道からの利用者も多く、SAの近くに設けられた臨時駐車場とSAの間にシャトルバスが運行されていた。高速道路の休憩施設に向かうのにシャトルバスを利用するというケースは、ほとんど例がないのでは?というほどの人気ぶりである。

今後のSA・PAの役割

また、設備や商品ではなくソフト面を見ても、例えばNEXCO東日本と関東経済産業局は、関東・信州に広がる絹産業の遺産とSA・PAを包括したスタンプラリーを一昨年から共同で実施しており、高速道路の利用及び立ち寄りの促進と地味な産業遺産への見学客誘致を合体させたユニークな施策として注目されるなど、ここ数年、SA・PAのサービス戦略の進化は著しい。

鉄道、特にJRが進める改札内のショッピングエリア充実戦略、いわゆる“エキナカ”の進化もあって、交通手段全般がサービス合戦の様相を呈していることによる活性化が高速道路にも波及していると考えてよいだろう。

現在、世界各国では自動運転の実用化に向けた開発競争が熾烈を極めているが、自動運転が実現すると、運転で疲れるということがなくなるので、休憩施設の必要性は低下する懸念がある一方、運転そのものを楽しむことができなくなると、SA・PAに立ち寄ることは、高速道路最大の、というより唯一の楽しみ(今でもそういう人は多いと思われるが)になる可能性もある。

平成の後半に一気に進化したSA・PAは新元号を迎える2019年以降、さらにどんな新機軸を打ち出してドライバーや同乗者、あるいはバスの乗客を集めるのか、まだまだ進化が続きそうである。