アラサーの神戸嬢を語るには欠かせないある“時代”が、神戸にはあった。

2000年代初期、今なお語り継がれる関西の「読者モデル全盛期」だ。

それは甲南女子大学・神戸女学院大学・松蔭女子学院のいずれかに在籍する、容姿端麗な神戸嬢たちが作り上げた黄金時代である。

しかし時を経て読モブームは下火となり、“神戸嬢”という言葉も、もはや死語となった。

そして2018年現在。神戸嬢の歴史的時代を生き抜いた“元神戸嬢”たちは、それぞれの道を歩んでいる。

彼女たちの、リアルな“今”とは?




「亜由香、おめでとー!」

今日は亜由香のブランドの、期間限定ポップアップショップのオープン初日だった。

寛子たちは、圭子たち「神戸会」のメンバーと、かつてのアルバイト仲間たちなど、10名ほどで亜由香のお祝いに駆けつけた。

亜由香のお店の一番目立つところに、今日お祝いに駆けつけたグループで贈った祝い花が飾られている。

今日のメンバーのうち、2/3程が何かしら自分のブランドを立ち上げているのではないだろうか。

その内容は多岐にわたり、亜由香のように買い付けたアイテムを販売するセレクトショップ、自身でデザインするオリジナルのアパレルブランド、アクセサリーブランド、バッグブランドなどである。

“元カリスマ読モの神戸嬢”というだけで、今でもそれがブランド力になるのだ。

残りの1/3となる数名は、専業主婦や子育てに専念している。会社員として働いているのは、寛子だけかもしれない。

亜由香のお店は、開店と同時に賑わい、瞬く間に店内に入店する為の待ち列が出来始めた。

亜由香のセレクトは、華やかさの中に上品さもある、まさに神戸らしいスタイル且つお手頃なプライスで人気を得ていた。


神戸ではレアキャラ?“元神戸嬢“の会社員・寛子の現在は・・・?


ポップアップストアには、洋服を買うという目的だけでなく「亜由香」自身に会いに来る客もいた。

亜由香の前には、亜由香と写真を取りたい客の写真待ちの列が出来上がっている。

そして、亜由香のお店にお祝いに駆け付けたはずの圭子たちもまた、写真をねだられている。

寛子のことなど覚えている人は少ないだろう。今では当時まめに更新していたブログも辞めてしまっていたし、Instagramも友人限定の公開にしかしていない。

1人手持ち無沙汰な寛子は店内を物色しながら、ワンピースを1着手に取り鏡の中の自分に合わせてみる。




―可愛いけど、会社には着て行かれへんなあ。

ふわっとしたAラインのシルエット。柔らかなベビーピンクカラー。大学生の寛子なら、迷わず購入していた大好きなテイストだ。

今では、全くピンと来ない。

「あの…。寛子ちゃんですか?」

寛子は自分に声を掛けられているのだと気付くのに一瞬時間がかかってしまった。それ程に、久しぶりの出来事であったのだ。

寛子は、慌てて鏡でワンピースを合わせていた姿勢から向き直り、そうですと返事をする。

「やっぱり寛子ちゃんですよね!そうかなと思ったんですけど、なんか全然あの時と印象が違うから……」

派手な服、お揃いのブランド物。“あの時”は普通だったものからは、もうずいぶん遠ざかっていた。

「私、大学生の時の寛子ちゃんの大ファンでした!雑誌もずっと見てたのに、今全然寛子ちゃん出て来なくなっちゃったから。」

改めて鏡の中の自分と目が合った。その顔を見て寛子は驚く。華やかな亜由香たちと比べ、そこには一気に何歳か老けたような気がする程疲れ顔の自分がいた。

当時を知っている誰かに“全然違う”と言われると、なんだか今の自分が間違いなような錯覚に陥った。


“元神戸嬢“の女子会は、あの頃と変わらない。


「亜由香の店、めっちゃ凄かったな。」

亜由香の店を後にし、お店に駆けつけたメンバーでグランフロント大阪の南館9Fにある、『THE COSMOPOLITAN GRILL』で、ランチを楽しんでいた。

喧騒の梅田の中では、ここが大阪であることを忘れさせるような雰囲気が、“元神戸嬢”たちのお気に入りだ。

運ばれて来た料理を前に、ほとんど全員が手を付けない。インスタグラム用の写真を撮ることに夢中なのだ。




女子ばかり大人数で集まると、なんと賑やかだろう。皆思い思いに話しだす。

「食費を月5万で抑えてるっていう主婦がテレビに出てたんやけど、尊敬するわ。うち、10万超えるもん。みんなどうなん?」

「服買う時、いちいち旦那に買っていいか確認せなあかん人がいるらしいねんけど、考えられへんくない?」

「こないだ旦那と喧嘩して、ごめんなさいのバーキン買わしたわ。そのバーキン、去年のやつ?」

「どこのスクール入れたん?うち、あそこのスクールにしてん。」

既婚者たちの話の中心は、結婚生活についてや子どものスクールについて。

「最近コンパでちょっといいなって思った人に出会ったんやけど、サラリーマンやから微妙やねん。」

独身たちの会話は、恋愛状況の進捗が主だ。

テンポの早い会話に必死に相槌を打ちながら、寛子はあの頃を思い出す。

大学4年間行われて来た“神戸嬢“の女子会だ。

今日はまるで、あの頃のデジャブに思えた。

「うちのブランドも、ポップアップショップのお誘い来てるねん。最近圭子のブランドはどうなん?」

「夏穂ちゃんも最近ブランドやり始めたらしいけど、なんか微妙そうやんな。どう思う?」

全ての会話には、お互いのさり気ない探り合いが見受けられる。

今日のメンバーは、何個かの女子会グループが混ざったメンバー構成になっていた。お互い存在を知ってはいるけれど、特別に仲が言い訳ではないメンバーも勿論居る。

―帰りに亜由香の店の前通ってんけど、もうガラガラやった(笑)。人来てたの最初だけで全然あかんやん。

―正直、亜由香の店の服で欲しいもんないよな。亜由香の店のやからと思って買ったけど。

―サラリーマンやから微妙って言ってたけど、もうそんなこと言ってる場合じゃなくない?だから、結婚できへんねん。

今日は幼稚園のお迎え組もいたので、早めの解散となった。話し足りなかったのか、帰ってからもLINEは鳴りやまなかった。

女子会の後のLINEグループでのやり取りは、メールからLINEになっただけで、あの頃と何も変わらない。

―大人になっても変わらんな…。

寛子はそのLINEを見ながら、思わず苦笑してしまうのであった。

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神戸嬢戦争最終話!“元神戸嬢”、彼女たちは今幸せか。