「下積み仕事」は残業規制でどうなるか。(時事通信フォト=写真)

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■「例外の例外」がなくなる

働き方改革の柱である残業時間の上限規制。2017年3月に労使間協議が決着して、悪名高い時間外労働協定「36協定」にメスが入った。

労働者は原則的に、法定労働時間を超えて働くことはできない。具体的には1日8時間、週40時間が上限だ。ただし、労使の合意で協定を結べば、例外として法定労働時間を超えて働くことが可能。この協定は労働基準法36条に規定があるため、俗に「36協定」という。

とはいえ、36協定も残業無制限ではない。36協定で延長できる労働時間は原則的に月45時間、年360時間だ。しかし、ややこしいことにこの例外にも例外がある。繁忙期などを想定した「特別条項」をつければ、残業は事実上、無制限。特別条項という“例外中の例外”が抜け道になり、過労死の温床となっていたのだ。

働き方改革で、この特別条項にも上限が設けられる見込みだ。上限は年720時間以内で、単月100時間未満(休日労働含む)。特例の適用は年6回までで、2〜6カ月の各平均でいずれも月80時間以内(休日労働含む)という上限も設けられる見込みだ。

上限が決まれば、これまでそれを超えて従業員が働いていた企業は、労使で協議をして36協定を結び直す必要がある。これを機に従業員は残業が適切な範囲に収まるよう、経営側としっかり協議すべきだ。

■修業・下積みが、難しくなる可能性

協議にあたっては、労働時間を短くすることが最善なのか、事前に従業員間で話し合いたい。職種や業界によっては、残業削減を望まない従業員もいるからだ。特定社会保険労務士の大槻智之氏が例に挙げるのは、板前や美容師など、下積み期間がある技術系専門職。

「板前は仕事前に下ごしらえをして、美容師は仕事後にカットの練習をします。それを労働時間にカウントすれば、新しい上限規制に抵触するおそれがあります。ただ、技術系専門職は、労働を提供するかわりにスキルを学習させてもらっている面がある。その実態を無視して規制すると、5年で1人前になっていたところが10年になり、志望者が減って業界の衰退につながりかねない」

また、独立資金づくりなど明確な目的があって短期間に集中して働こうとしている人や、歩合給のウエートが大きい営業職でも、残業規制はむしろ邪魔という人もいる。

「規制を回避する方法として、裁量労働制や業務請負、管理職にするといったやり方が考えられます。しかし、実態が伴っていないと、脱法的と判断されるおそれがあります」

残業時間の上限規制は、一律に適用することが相応しくない職場もある。規制にどのように柔軟性を持たせるのかが今後の課題だ。

(ジャーナリスト 村上 敬 答えていただいた人=特定社会保険労務士 大槻智之 写真=時事通信フォト)