地球上に男と女がいる限り、事件は起きる。

それはLINE上やデートのときだけでなく、男女の出会いの場である“お食事会”でも多発しているのだ。

五十嵐ルナ、35歳。

彼女は数々の食事会をセッティングし、男女の縁をつなぎ、夜の社交界での人脈形成も怠らない。

食事会の“手配師”として名を馳せている人物だ。

前回は、他己紹介で女を蹴落とす事件や、1グループ内で複数同時に連絡する男に遭遇した。

そんな彼女が、今週目撃した食事会での事件とは・・・?




ルナは先日開催された食事会を振り返りながら、大きくため息をついた。

愛犬・ジョンの散歩のために代々木公園を歩きながら、ルナは一人で考える。何でこんなことになってしまったのだろうか、と。

そもそもことの発端は、今回招集をかけた時に絵美里が発した一言だった。

「ルナさん、私の友達で“すごく可愛い子”がいるので、連れて行ってもいいですか?性格も良いし、気遣いもできるから男性陣も喜ぶと思うので」

そう言われて、断る理由はない。

しかし、ルナは絵美里のこの“可愛い”発言を聞いたときから、何となく嫌な予感はしていた。

-女は、本気で自分より可愛いと思っている子を連れていくのか?

今回食事会に参加したのは、田中絵美里(28歳)と春日井希美子(27歳)、そして健康食品グループ会社の経営者である中居慎太郎(33歳)だった。

果たして、女の可愛いは嘘か誠か、どちらだったのだろうか・・・?


自分より可愛い子を女は連れて来るのか?食事会事件の検証


今回の食事会は、先週、西麻布の『アズール エ マサウエキ』の個室で開催されたものだった。




この日の参加者はルナを含め女性3名、そして男性2名の計5名だった。 (ルナは既婚者で且つ手配師のため、ただの傍観者である)

「私の学生時代からの友人、希美子です。可愛いでしょ?私の自慢は、友達は可愛い子しかいないってことなんです♡」

そう嬉しそうに語る絵美里だが、ルナの経験上、こういう発言をする女性は危険レーダーが鳴る確率が高い。

ルナは改めて、紹介された希美子を見つめ直した。

たしかに、可愛らしい女性ではある。

しかし2人を比較すると、希美子が絵美里の引き立て役として配置されたことは明らかだった。

「絵美里ちゃんと希美子ちゃんは、対照的な感じがするよね」

慎太郎が気を利かせて二人に交互に話を振っている。しかし、慎太郎の顔つきや笑顔を見ていると、絵美里を狙っていることは明白だった。

「最近周りの友人が続々と結婚しちゃって...食事会へ一緒に行ける友人も減ってきたので、希美子は貴重な存在なんです。それに、希美子ってお料理も上手で。すごく家庭的なんですよ♡」

決して、他己紹介で蹴落としているわけではない。

むしろ絵美里は希美子を褒め、持ち上げている。

「希美子は学生時代から女友達も多くて、とにかく性格がいいんです〜」

絵美里の発言の魂胆が中々見えてこず、ルナは運ばれてきたお料理と絵美里の顔を交互に見つめた。

-これは、何か裏がありそうね...

しかし食事会が進むにつれ、ルナは絵美里の作戦がだんだんと見えてきたのだ。

「希美子ちゃんは料理が上手そうだよね。絵美里ちゃんは、料理しないの?」
「私ですか?希美子ほどではないですが、一般的なものなら作れます♡」

隣で話している慎太郎と絵美里の会話を、ルナは黙って聞いてみる。明らかに、慎太郎は絵美里に狙いを定めたようだ。

「そうなんだ!意外だなぁ。絵美里ちゃんはすごく華やかだから、料理とか苦手そうなのに。そのギャップに、男は弱いだろうね〜」

「えぇ〜そんなそんな♡でもあくまでも、希美子の方がお料理に“関して”は上ですよ」

絵美里が今回の食事会で仕込んでいた布石。

それは、自分より可愛くない子を連れて行くだけでなく、友達を使って“謙虚で性格まで良い私♡”を演じていたのだ。

-この女、恐るべし...。希美子ちゃん、可哀想に。

ルナが静かにワイングラスを回していると、ふと希美子と目があった。

しかし実は希美子の方が更に計算高かったなんて、この時のルナは思ってもいなかった。


引き立て役とされていた、女の逆襲。希美子の魂胆とは!?


引き立て役の女の逆襲


「ルナさん、ちょっといいですか?」

慎太郎から電話があったのは、その食事会の数日後だった。

「どうしたの?絵美里ちゃんにフラれたのかしら?」

あの日、慎太郎は絵美里にぞっこんで、食事へ行く約束もしていた。どうせ振られたのだろうと勝手に決め込んでいると、慎太郎の口から驚くべき一言が飛び出して来たのだ。

「いえ、絵美里ちゃんではなく、希美子ちゃんのことでご相談がありまして...」

-希美子ちゃん!?

そこから、希美子の本当の狙いが見えてきたのだった。




「あら、慎太郎さんからお話が行きましたか?」

慌てて希美子をペニンシュラ東京の『ザ・ロビー』へ呼び出すと、希美子は不気味な笑みを浮かべていた。

「絵美里ちゃんからは、よく食事会へ誘ってもらっています。でも、絵美里ちゃんが毎回私を食事会へ連れて行く理由は、自分でも分かっています。

-絵美里ちゃんの引き立て役。

それが、彼女が私に求めている役割なので」

絵美里が希美子を引き立て役として使うのは、昔からだったらしい。

「学生時代から、彼女は気に入った人がいる会や、ここ一番の勝負の食事会は私を連れて行きました。きっと、自分が一層綺麗に見えるからでしょうね」

一見大人しそうに見える希美子だが、その言葉には力強さを感じた。

しかし、問題はここからだった。慎太郎は食事会の翌日、希美子から保険に入らないか、と誘われたそうだ。

「食事会で出会いを探そうなんて思っていません。ただ仕事的に有利になるような誰かと繋がれたらいいな、と思っているくらいです」

希美子は現在、保険の営業を行っている。彼女の仕事の営業成績は、人脈が全てと言っても過言ではない。

「絵美里ちゃんのお陰で、私の方の人脈もかなり広がりました。私の場合、食事会で恋愛対象になる男性を探しには行っていません。お金になるクライアント、つまりは黄金の“打ち出の小槌”を探しに行っているんです」

実際に希美子の営業成績はうなぎのぼりで、彼女自身の年収は想像以上だとか。

「食事会に恋愛だけを求めに行っているなんて、私には理解できません。それよりもっと甘い蜜は転がっているのに」

つまるところ、絵美里は希美子を引き立て役として使う一方で、希美子は絵美里の人脈を利用していたのだ。

「食事会に一緒に行く女友達なんて、所詮はビジネスフレンドでしょ?」

女の計算は、男が想像するよりもはるかに怖い。

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食事会は大盛り上がり。しかし2軒目に行かずに解散になってしまった理由とは