4月最終週のブンデスリーガで、ケルンの2部降格とフォルトゥナ・デュッセルドルフの1部昇格が決まった。バイエルンの優勝こそ早々に決まったが、下位チームにはシビア残留争いが残っている。

 それはハンブルガーSVが生き生きしてくる時期でもある。あまりの不調に、今季こそクラブ史上初めての2部降格は免れないのではないかと見られていたが、第27節に今季3人目の監督となるクリスチャン・ティッツを迎えてからは3勝1分2敗と、上昇気流に乗っている。しかも第31節はフライブルク、第32節はヴォルフスブルクと、残留争いのライバルを直接下しての勝利だった。


ヴォルフスブルク戦に先発、チームの勝利に貢献した伊藤達哉(ハンブルガーSV)

 そもそもハンブルガーSVは決して資金力のないチームではなく、それなりの戦力も保持している。各国の代表クラスとまではいかないが、マインツやブレーメンあたりに比べれば十分に戦える選手が揃っている。

 だが、ここ数年は残留争いの常連で、シーズンを通してファンをやきもきさせ、注意を引きつけて、最終的には何とか残留にこぎつけるのがお決まりのパターンになっている。その意味では残留争いはお手のものなのだが、毎年ここまでもつれるのは”自業自得”でもあるのだ。

 ヴォルフスブルクを1-3で下した試合後、酒井高徳は「こういうシチュエーションに慣れているっていうか……このタイミングで、アウェーでこれだけダイナミックにサッカーができるのは大事だと思う。欲を言えば、これが最初からできていれば……」と苦笑いした。

 酒井に言わせれば、ティッツは「僕たちにサッカーの楽しさを取り戻させてくれた」監督で、この6試合は、結果だけでなく内容的にも手応えを得ているようだ。そしてこの新監督のもと、最も生き生きと躍動しているのが伊藤達哉である。

 伊藤はマルクス・ギズドル監督時代の第6節にデビューを果たし、出場機会を重ねたが、監督がベルント・ホラーバッハに交代すると出場機会を失った。だが、ティッツが監督に就任してからはチーム戦術の中心的役割を担うようになり、6試合連続でスタメンを飾っている。

 指揮官はこの20歳を、いつも勇気づけてピッチに送り出すという。

「常に僕に毎日自信をつけさせてくれる監督で、今日も試合前に『ブンデスで一番のドリブラーはお前だから』って。監督の期待に応えたいという気持ちで、それがピッチで表現できたのがよかったです」

 伊藤は小柄でドリブルが得意な攻撃的MF。この日のヴォルフスブルク戦でも、前半終了間際の43分に、先制点獲得のきっかけとなるPKを得ている。だが、ボビー・ウッドのPK自体は直視できなかった。顔を埋めて結果を待つ姿が、失礼ながら可愛らしい。

「僕、よくPKをもらうんですけど、見てられないです。PKを蹴れないんで、蹴る選手のプレッシャーもわかるし。だから今日は決めてくれたボビーにありがとうと言いたいですね」

 続く45分には、左サイドでの仕掛けからクロスを入れると、これをニアでルイス・ホルトビーが頭で合わせて追加点を挙げる。伊藤は事実上、2点をアシストしたことになる。

 勝利の立役者であるが、本人は後半の戦いぶりを反省した。

「もう自分たちの状況とかを考えないでプレーできたので、前半の最後のほうとかは何も考えず2得点に絡めたんですけど、ハーフタイムにちょっと落ち着いたときに、自分の中で2-0で勝っているというのが、逆に体を重くしちゃった部分がある。追われる立場になったという試合の中での状況が、自分をちょっと萎縮させてしまったので、それは学ばないといけないと思う」

 それはよく言われる「2-0は怖いスコア」などという意味ではない。

「今のチームの状況について、チームの歴史(過去に1度も降格がない)とかも、一応、僕は頭には入れているつもりなので、たぶん、そんな生半可なプレッシャーじゃないと思っている。一回そうやってプレッシャーがかかったときに。いかに後半、立て直すかというのは課題だなって、今日はずっと考えていました」

 伊藤はしっかりと言葉を吟味しながら、試合を振り返った。

 地元紙の記事を含めて、日本代表入りについても取りざたされているが、それについては「今はとりあえずチームの状況がこんな感じなので、W杯のこととか、僕もニュースにしてもらっているというのはなんとなく聞いたんですけど、全然気にしていない」そうだ。

 酒井はそんな後輩についてこう話す。

「頼もしいですね。うちのチームの武器かな、と思う。自信を持ってプレーしている。若いからまだまだ時間あるし。(ハーフタイムに)2点に絡んですごく褒めたけど、こういうときこそ『でも、お前が上のレベルにいくならこれからだぞ』と言いました。

『ここでお前がどれだけ守備できるかとか、もっと攻撃で脅威になり続けられるかとか、後半に何もなくなったら、前半の2得点も何の意味もなくなっちゃうからな』と。実際に後半も頼もしいプレーを見せてくれて、チームとして嬉しい人材だな、と思いますね」

 今やクラブの宝とも言える存在になった伊藤だが、早い時期の移籍も含めて、ステップアップしていくべき人材でもある。チームの残留争いと同じくらい、その去就も注目される。

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