海自厚木マーカスの佐々木蓮【写真:平野貴也】

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「余裕と思っていたら想像よりレベルが高い」…自衛隊サッカー日本一決定戦とは

 自衛官だらけのサッカー大会が今年も行われた。第52回全国自衛隊サッカー大会は28日に味の素フィールド西が丘で最終日を迎え、海上自衛隊厚木航空基地マーカスの2年連続最多19回目の優勝で幕を閉じた(以下、陸上自衛隊=陸自、海上自衛隊=海自、航空自衛隊=空自)。大会は、全国各地にある自衛隊の基地、駐屯地で活動しているサッカーチームの日本一決定戦。第9回大会までは日本サッカー協会が主催していた歴史のある大会だ。現在では、大会運営を自衛隊の幹部(防衛大学校サッカー部OB)が行っている。審判は、東京都サッカー協会に協力を仰いでいるが、資格を有する自衛官も多く参加。選手、審判、記録員、会場アナウンス(最終日のみ)がすべて自衛官という独特の大会だ。

 1996年から2007年まで12連覇を果たした海自厚木マーカスは、自衛隊最強チームとして名を馳せており、この大会ではすべてのチームから標的とされている。決勝で2得点を挙げたMF佐々木蓮は「優勝しなければ、何もない。勝って当たり前と思われる中で試合をするのは、プロのようだし、滅多に経験できない。これを勝てると(所属している神奈川県1部)リーグでも良い結果が出てくる」とプレッシャーからの解放感を表現した。

 チームは、主に勤務の休憩時間や余暇に活動しており、優勝した海自厚木マーカスだけでなく、準優勝の空自第3補給処(以下、空自3補)は埼玉県2部、ベスト8に入った海自大村は長崎県1部と地域のリーグに参加しているチームもある。選手の多くは経験者で、神村学園高出身のMF大楠恭平(海自厚木マーカス)や米子北高出身のFW真木基希(空自3補)など全国高校選手権で活躍した選手もいる。強豪の高校や大学でプレー経験があって初めて参加する若い選手は「余裕だろうと思っていたら、想像よりレベルが高かった」と感想を漏らすことが多い。仕事の訓練でも体を動かす陸自のチームは屈強な体格の選手が多く、30代半ばから40代の選手が高いフィジカル能力を発揮することも珍しくない。

陸・海・空の垣根を超えた戦いが職務にもたらすもの

 また、転勤による移籍が多いのも大会の特徴だ。前回大会で3位になった空自入間・横田で選手兼監督を務めた河崎健太郎(※43歳で主力として活躍して大会優秀選手に選出された鉄人選手)が、今大会は空自浜松で参加。大会参加者の多くは、転勤先にも知っている顔がいることになる。基地や部隊、階級を問わずに知り合うことで、仕事のコミュニケーション向上に役立つ面もあるという。陸・海・空の垣根を超えた人脈が育まれる環境は、仕事だけでは生まれにくく、3位となった海自厚木なかよし(※優勝した海自厚木マーカスのOBチーム)の日里和樹監督は「海外派遣に行った際に、大会で知り合った空自の選手と出会ったときは、コミュニケーションが取りやすかった」と話していた。

 大会は、過去に2回、東日本大震災(2011年)と熊本地震(2015年)で中止となっている。8日間で最大5試合というタフな日程でも喜んでプレーできるのは、有事に際しては緊張感の高い仕事をする彼らにとってサッカーがリフレッシュの場となっているからだ。大会は、表彰式に参加した選手全員が敬礼を行う独特の閉会式で幕を閉じた。また来年という思いが、参加者にとって仕事とサッカーの両立をするモチベーションとなり、大会は続く。(平野貴也 / Takaya Hirano)