日本代表前監督のヴァイッド・ハリルホジッチ氏【写真:Getty Images】

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選手との関係。ハリル「問題ない」。田嶋会長は…

 ハリルホジッチ氏が記者会見をした。ほとんどが不可解な解任への反論だったが、そこで見えたものがある。それは日本サッカー協会の田嶋幸三会長とハリルホジッチ氏のプロ意識の違いだ。 (取材・文:植田路生)

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 時折聞こえた「レレレ…」はいつもどおりだった。これは日本語で言えば「えーと、えーと」というニュアンスなのだという。とにかく自分の主張は延々と話し、記者からの質問にも微妙に噛み合わないのも変わらず。ヴァイッド・ハリルホジッチは、最後までハリル流を貫いた。

 4月27日、都内で記者会見に応じたハリルホジッチ前日本代表監督。9日に解任が発表され、それへの反論という形だが、これをもって日本代表に関するハリルホジッチ氏の公式な記者会見は最後だろう。

 解任した日本サッカー協会(JFA)とハリルホジッチ氏の見解は180度異なるものだった。特に解任の大きな要因となった「選手との信頼関係、コミュニケーションの問題」については、両者のプロ意識の違いが如実にあらわれていた。

 ハリルホジッチ氏は「3年前から誰とも問題はなく、特に選手との問題はありません」と語るなど、選手と監督の間に問題がないことを強調した。15人の選手からメッセージをもらったことを明かすなど、選手から支持されていたと感じさせるようなことも語った。

 一方、JFAの田嶋幸三会長はどうだったのか。解任発表の記者会見ならびにその後のメディアで語った内容は非常にぼんやりとしていたが、「選手との信頼関係が薄らいだ」ことは何度も繰り返し主張した。

 人間関係は心象的な問題で、どちらが正しいのか判断するのは難しい。人の感じ方はそれぞれだからだ。それが解任理由になっていることは理解に苦しむが、同時に問われるべきはその白黒つけにくい問題について「どちらが正しい姿勢だったか」である。結論から言えば田嶋会長の打った手は最悪だ。

生贄になった選手たち。なぜプロとして取り繕うことすらしないのか

 記者会見とはオフィシャルな場だ。多くのメディアが集まり、発言は公式見解とされる。その発言がどのような受け取られ方をするか、今後どのような影響が考えられるか考えなくてはならない。

 田嶋会長は「選手」と言ってしまった。これでは「造反した選手がいるのではないか」という邪推が生まれてしまう。実際、SNS上では「一体どの選手が…」と疑心暗鬼になっているファンもいる。いわゆる「犯人探し」だ。

 ハリルホジッチ氏は逆だった。それが真実かどうかはともかく、選手と問題がないことをことさらに強調した。これは批判の矛先が選手に向かないようにするためだ。ハリルホジッチ氏はこれまでも、良くない試合内容だったときには必ず「責任は私にある」「私を批判してくれ」と言って選手を守っていた。

 今後何が考えられるのか。ハリルホジッチ氏が「フォロー」したことで、JFAへの批判へと多少は方向性が変わるだろう。だが、選手がこの騒動に巻き込まれることは避けられない。これからロシアワールドカップに向かう大事な時期に、本大会とは関係ない事案を追及される。

「ワールドカップで勝つ可能性を上げるために」と田嶋会長は語った。だったらなぜ、もっと「適切な理由」を掲げなかったのか。ハリルホジッチ氏も選手との関係性に問題があることをまったく認識していなかったわけではない。彼にとっては良くある摩擦で「解決できる問題」だったのだ。だから、JFA批判に終始し、選手たちがワールドカップを戦う上で無用な混乱になることを避けようとしたのだ。

 そももそ、そのような不明瞭な理由で解任することは適切ではない。解任するのであれば適切な理由付けが必要であることは言うまでもないが、それがないのであれば、せめて取り繕うことはできなかったのか。メディアと対峙するプロフェッショナルな姿勢で、両者には大きなレベル差があった。

 選手たちはワールドカップという大事な大会を前に、余計な雑音が入り、集中力が乱される。このような状態が正しいわけがないのにそうなってしまった。そう、田嶋会長は選手たちを生贄にしたのである。気に入らない外国人監督をクビにするのを正当化するために。

(取材・文:植田路生)

text by 植田路生