4月27日に発表された新ゾゾスーツ。100万件以上の予約が入っており、すでに注文した人には7月中旬までに配送を完了する予定だ。(写真:スタートトゥデイ)

「会社が20周年を迎える大事なタイミングに、プライベートな情報が出てしまいまして、お騒がせしてしまったことをお詫び申し上げます。謝るのもちょっと変ですけど、公私共々充実しているということで見過ごしていただければ」――。

4月27日に都内で開かれた、ファッションEC(ネット通販)サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するスタートトゥデイの決算説明会。黒地に白の水玉模様のボディスーツに身を包み出席した前澤友作社長のあいさつは、女性芸能人との交際報道に対する謝罪から始まった。

「最初のゾゾスーツは失敗だった」

前澤社長が着ていたスーツは、スタートトゥデイが昨年11月に予約受付を始めた採寸用ボディスーツ「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」の刷新版。同社は配送が大幅に遅れていたゾゾスーツを改良したと同日発表した。すでに100万件超の予約が入っており、これまで予約していた人には7月中旬までに配送する計画という。


昨年11月に発表した旧ゾゾスーツ。発表当初は大きな話題を呼んだが、大量生産を実現できなかった(写真:スタートトゥデイ)

当初発表していたゾゾスーツは伸縮センサーが内蔵されたものだった。着用した状態でスマートフォンと通信接続すると、体のあらゆる箇所が瞬時に採寸され、近未来的な仕様と斬新なアイデアで世間の大きな関心を集めた。

ただ、細かい技術が必要となる電子部品を扱う難しさもあり、迅速な出荷や精度の向上に向けて研究を進める過程で、生産を断念する結果に。仕様変更に伴い、2018年3月期決算で14億円の減損損失と2億6300万円のたな卸資産評価損を計上した。「『失敗』と言っていい。われわれも、(共同開発した)ニュージーランドのストレッチセンス社も、電子部品を作る、大量生産するという意味ではド素人だった」(前澤社長)。


改良版ゾゾスーツを基に採寸されたデータは、即時にスマホで確認することができる(写真:スタートトゥデイ)

新しいゾゾスーツでは、スーツの随所に施された水玉模様の「ドットマーカー」をスマホで読み取り、体型を計測する仕組みを採用。同梱されたスタンドにスマートフォンを立てかけ、2メートルほど離れた地点で音声案内に従いながら360度回転すると自動で撮影される。所要時間は約3分、スマホ上では採寸データや全身の3Dモデルを確認することができる。

スタートトゥデイはゾゾスーツを今期中に600万〜1000万枚配る目標を掲げる。1枚目は無料で配布する方針だが、ゾゾスーツの原価は1枚1000円。600万枚では60億円のコストとなり、広告宣伝費として処理する。

7月から世界72カ国で発売

ここまでゾゾスーツを拡散して狙うのは、今年1月に発売を始めたPB(プライベートブランド)「ZOZO」の拡大だ。4月27日に発表された同社の中期経営計画では、2021年3月期に売上高3930億円(2018年3月期実績は984億円)、営業利益900億円(同326億円)という高い目標をぶち上げた。そのうちPB事業の売上高で2000億円を見込む。

PBはゾゾスーツで採寸したデータに沿ってオーダーに近いかたちで生産し、ベーシック商品を基本とする。現在発売しているのはTシャツ(1200円)とジーンズ(3800円)の2種類。6月にはカジュアルシャツやスキニージーンズなど3型を追加で投入し、今期中に10〜20型に増やす計画で、7月からは世界72カ国で発売するという。

PBを強化する背景には、ゾゾタウン事業ほぼ一本足の収益構造に対する危機感もある。ゾゾタウンは値引きクーポンや「ツケ払い」など話題性の高いプロモーション施策や、有名ブランドの新規出店で顧客を獲得してきた。


ただ、すでに出店ブランドは6400を超え、漸減傾向にある国内アパレル市場でのさらなる成長余地には限りもある。また、売り上げの約3割とされる手数料や、激化するクーポン値引き合戦に頭を悩ますアパレル企業の中には、ゾゾタウン依存からの脱却を模索する動きも出始めている。

10年以内に時価総額5兆円目指す

個々の体型に合ったサイズの商品を世界中でネット販売するという、これまでになかった試みとはいえ、売上高2000億円の目標達成へのハードルは高い。国内の衣料品市場におけるECの比率は現状約1割。ファッションECとしての集客力は他社を圧倒するものの、実店舗を中心に購入する消費者や、海外在住者に対する認知度向上が欠かせない。


前澤友作社長は旧ゾゾスーツが失敗したことについて、「新しいゾゾスーツは洗濯が可能で、電池切れの心配もない。前向きに考えましょう」と語った(写真:スタートトゥデイ)

ベーシック衣料はユニクロや無印良品など大手の競合も多く、品質や機能性の面での差別化も課題となる。採寸データに基づいたフィット感がウリではあるが、業界関係者の間では「ゆったりとした服が好まれるトレンドもあり、体型にピッタリの服を求める人がどこまでいるか」と首をかしげる声も上がる。

時価総額は昨年8月に1兆円を突破したが、4月27日時点では9847億円に落ち込んでいる。世界トップクラスのアパレル企業に近づくことを目指し、10年以内に時価総額を5兆円に伸ばすことを前澤社長は宣言した。

1月に実施した東洋経済オンラインのインタビューで、前澤社長は「ファッション業界は昔ながらの重鎮の方たちが世界を牽引しているが、新しい世代で新しいマーケットに変えたいという責任感がある。ゾゾスーツがそのきっかけになるのではないか」と語っていた。生まれ変わったゾゾスーツを武器に、PBとゾゾタウンの2本柱でさらなる成長を実現できるか。