人は、“麻布十番”という街にどんなイメージを持つだろうか?

港区民が住まうセレブタウン。都内屈指の名店が集まるグルメの街。それとも、庶民的で気取らない、下町風情を残した居心地の良さ?

訪れる人によって、十人十色の景色を見せるこの街。

これは、麻布十番在住の少々奇抜な男女の生態記録である。

先週は犬を溺愛する美人妻を紹介したが、今週は...?




<今週の麻布十番住人>

名前:譲治
年齢:39歳
出身:両国
職業:色々やってる
ステータス:既婚(結婚8年目)
趣味:サーフィン



「こんばんは」

柔らかな笑みを浮かべて『カラペティバトゥバ!』にやってきた譲治は、この店の洒落た雰囲気にぴったりの、品の良い大人の色気を醸し出す男だった。

少し浅黒い肌に、同じく日焼けでやや色素の薄くなった髪。おそらくノーブランドと思われるシンプルなTシャツとハーフパンツを着てもファッショナブルに見えるのは、細くとも筋肉で引き締まった肉体のせいだろう。

「それほど運動してるわけじゃないですけどね。でも、週に1度は千葉か鎌倉にサーフィンに行きますから。それが中年太り防止になってるのかもしれません」

スマートな外見とは裏腹に、譲治は少々おどけたように微笑む。

「カジュアルなフレンチを家の近くで楽しめるっていうのは、20代の綺麗な女性と付き合うより幸せなことですね。...いや、それは言い過ぎかな(笑)」

そんな冗談を口にしながら白ワインを啜る彼には、年齢に似合わなぬ茶目っ気がある。

そして、派手ではなくともハンサムと言える醤油顔には、都心である程度の地位を確立した男の自信と、他者へのサービス精神を欠かさない余裕が見てとれた。

―麻布十番が板についた、大人の男―

そんな第一印象を持たずにはいられない譲治。

だが話を聞くうち、この上質な男には不釣り合いな、ちょっぴり切ない悩みを抱えていることが判明したのだった。


自らを社長と言わず「フリー」と名乗る怪しいおじさん。その理由は?


「自分は大したことない」と言うのは、ちょっぴり面倒なおじさん?


「仕事ですか?......まぁ僕は、そんな大したことしてませんから。フリーでやっているようなものです」

明らかに稼いでいるに違いない男に限ってハッキリと職業を口にしないのは、もはや港区のルールのようなものだろうか。

あるいは、それは富裕層なりの謙遜と言えるかも知れないが、これ以上突っ込むべきか否か、判断を悩むところである。

もう少し食い下がって聞いてみると、譲治はもともと大手戦略系コンサルティングファーム勤めのエリートであったが、紆余曲折を経て独立し、今では不動産投資を主とした会社を経営していると教えてくれた。

「あはは、すみませんね。別に隠すワケでも、突っ込んで欲しいワケでもないんですが、何となく真面目な話が苦手なんです。実際、僕の奥さんすら、僕が何しているのか詳しく知らないと思いますよ」

だが、譲治は自らを「フリーでやっているようなもの」と呼べるほど自由な日々を過ごしているのも事実のようだ。

有能な社員が数名いれば社長はほとんど用無しだと、彼は茶目っ気たっぷりに微笑んだ。






財力からして、麻布十番に限らず、都内の高級住宅地を選び放題だろう譲治。敢えてこの街を選んだ理由は何だろうか。

「新婚の頃は六本木に住んでたんです。若いときは賑やかな街を好みますからね。でも、当時多忙なサラリーマンだった僕は、あの昼も夜も常にON状態な環境に疲れちゃって。

妻は毎晩のように誰かと飲み歩いてるし(笑) 本当はいっそ代々木上原なんかに引っ越したかったんですけど、妻に嫌がられて、六本木からちょっとズレた麻布十番にやって来ました」

妻と夫の妥協案で決めた新居だが、麻布十番は想像以上に居心地が良かった。

都心にも関わらず、下町情緒のある商店街は親しみやすい長閑さがあるが、港区独特の上品さも絶妙に共存している。譲治はそんな雰囲気をこよなく愛しているという。

「僕は元々、両国の出身なんです。だから澄ました感じの街より、十番の親しみやすさが、心地よかったんですよね」

そして何よりも、麻布十番はB級グルメから日本を代表する高級レストランも豊富な美食の街。

そこでオススメの店を聞いてみると、譲治は今日一番の笑顔で答えてくれた。

「とにかく十番は旨い店が多いんですよ。この歳になるともっぱら和食を好みますが、『あそこ』や『六角』みたいな高級居酒屋はとにかく使い勝手がいいし、会員制の『桂浜』、『しの田』、『世良田』なんかは、ビジネスの会食やデートにも使えます。あとは焼肉屋も...」

意気揚々とグルメを語り続ける譲治だが、ここで聞き捨てならないのは、「デート」というワードであった。


ちょい悪オヤジ風の十番おじさんに、やはりF倫は付きものか...?!


ちょい悪オヤジの、意外な“天敵”


「いやぁ、弱ったな。そんな怖い顔しないでください。“デート”って言っても、時々食事に行くくらいですよ」

譲治は眉をハの字に下げ、少し困ったように声を上擦らせる。

「別に変なことはしません。もちろん相手の女性だって、僕のことをただの“おじさん”としか見てみませんから」




だが、その相手というのは、よくよく聞いてみると20代の若い女たちだという。話を聞く限り、いわゆる“港区女子”に違いない。

彼女たちとは特段出会いを求めた訳ではなく、友人同士の飲みの場でたまたま合流して少し仲良くなっただけだというが、本当に下心はないのだろうか。

譲治の外見やステータス、そしてコミュニケーション力の高さを持ってすれば、女性を口説くのはさほど難しくないように思える。

「女性を口説きたいとか、もう思わないんです。男もアラフォーになると、綺麗な若い女性をあの手この手でどうこうしようなんてエネルギーもなくなっちゃいますから」

譲治いわく、その港区女子たちとは、特に後ろめたさもない気軽な関係だという。美味しいものを食べ、彼女たちの仕事の相談や彼氏の悩みを聞く。

特に、頭の回転が早く仕事への意識も高い女性であれば、譲治も刺激をもらえるし、会話もさらに楽しいそうだ。

「そういう意味で言ったら、本物のデートは奥さんとしますよ。僕はフレンチとかあまり得意な方ではないですけど、彼女とは『エクアトゥール』に定期的に通ってますし...」

そう語る譲治だが、しかし奥様は、若い女とデートをする夫に不快感は持たないのだろうか。

「それがね...。妻は、僕の行動にまるで興味がないんですよ。“他のもの”に関心がありすぎて。まぁ、僕も“おじさん”とはいえ男なので、あまりに行動制限とかされても困るんですけど...」

その苦笑いの裏には、彼の若き頃の誤算エピソードがあった。




「何というか...別に妻とは不仲って訳では決してないんですけど...ただ、5年前くらいかな。当時僕は激務のサラリーマンで、専業主婦だった妻があまりに暇そうだったんで、犬を買ってあげたんです」

デタ。十番名物の犬。

そう。お気づきの方も多いと思うが、この譲治は先週登場した桃子の夫である。

「僕も犬を飼ってみたい願望が強かったので、うちは子どももいないし、二人で育てられたらいいなぁ...なんて思ってね。そしたらビックリですよ。犬に妻の愛情を全部持って行かれちゃったんです」

相変わらず温和な笑顔を浮かべているが、心なしか、譲治の酒のペースは少々早まっているように思える。

「まぁ...妻を盗られた敵ではありますが、僕も犬は可愛いし、若干老夫婦みたいですが、それほど不満はないですけど...」

譲治は自虐的に少し言い淀んだのち、グラスのワインをクイっと飲み干すと、衝撃の言葉を口にした。

「でも......実は、ここだけの話。少しツンケンしてる綺麗な若い女の子と話してると、昔の妻を思い出して、懐かしくなるんです」

現役港区女子に、“元”港区女子の妻の幻影を見る夫。

頰を赤く染めた譲治が最後に見せてくれたのは、これまでの“ちょい悪オヤジ”風の余裕とは異なる、ちょっぴり切なくも可愛らしい愛妻家の顔だった。

▶NEXT:5月5日 土曜更新予定
十番在住は“モテ”の代名詞。イケイケの若手“チャラリーマン”登場!