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企業に限らず組織にはリーダーが必要です。そして規模の大小にかかわらず、リーダーによって組織は変わる可能性を秘めています。これまで2000社超の赤字企業を再生させてきた長谷川和廣氏は「リーダーの仕事とは働く人のモチベーションを上げることだ」と強調します。その方法とは――。

※本稿は、長谷川和廣『2000社の赤字会社を黒字にした社長のノート』の一部を再編集したものです。

■昇進させるべき人は「部下に花を持たせる」ことができる人

今回はリーダーについて、私の考えを述べてみたいと思います。

私が昇進させたいと思う人の条件は部下の能力を120%引き出せる人材です。そして以下の7つのチェック項目に照らし合わせて最終的に判断します。

1.部下に「自分は成長している」と思わせる能力
2.小手先の知識でなく、原理や理念に沿った、実践的な行動を教える能力
3.情熱を持って、部下と接することができる能力
4.指導に迷いがない人
5.思いやりと厳しさを持って接することができる能力
6.部下の長所と欠点を把握する能力
7.部下に、花を持たせることができる人

特に7は大切です。7をできる人の部署が、いちばん業績の良いケースが多いからです。

■真のリーダーが心がけるべき4つの行動

組織のリーダーという立場になったとき、真っ先に考えてほしいのは次の2つです。会社が生きていくために社内外の変化を敏感に察知して、状況に応じて「会社の力」を駆使すること。そして会社を取り巻く環境の変化に勝ち抜くために組織力を磨き、強化することです。

そのためにあなたがまず心がけなくてはいけないのが次の4つの行動です。

1.良いこととは気づいているが、自分がそれをやっていないことに気づこう
2.過去のしがらみを捨てる勇気を持とう
3.組織の壁、垣根を取り払おう
4.縦割りの責任のなすり合いをなくそう

激変する現代において、組織は臨機応変に状況の変化に対応できなくてはなりません。これら4つのことはすべて、部下という立場のときは望んでいたのに、いざ上の立場になるとなかなか実行できないことでもあります。

■リーダーは「絶対に黒字にする!」という執念を持て!

リーダーになった以上、持ち続けなければならないのが、以下に記す3つの執念です。

1.「絶対に利益を生み出すんだ」という覚悟と執念
2.熱意と、粘り強い努力を続ける執念
3.目標を達成するためのチーム作りを続ける執念

一見、当たり前のように思えるかもしれませんが、この3つを持ち続けることは、存外難しいのです。

1は、「市場が縮小しているから仕方がない」と思ったが最後、その執念は消えてしまいます。なんでも外部環境のせいにしてしまえるからです。2は、少し業績が上がると、すぐ忘れがちになる題目。3は、いつの間にか「仲良しグループ」になり、リーダーにとっても部下にとっても、組織というものが居心地の良い形態に落ち着いてしまうと、大ナタを振るう勇気が失せていくのです。

1〜3を実行に移すことは意外に簡単に見えて、実は真の「執念」がないと実現できないことなのです。

■リーダーに求められる「理論武装」とは?

衰退していく会社を見ていると、社員の多くは思考停止しています。何をしたらいいかわからず、ただ1日が過ぎればいいという集団でしかない企業もあります。

組織の長になったとき、「やる気を忘れる」部下、「責任感を感じない」部下、「慣れに安住する」部下、「無気力が気にならない」部下、そういう部下たちを目覚めさせるのはあなたの役目です。

だからといって部下のミスを、これは良い機会だとばかりに、「いったい何年、仕事をしてるんだ!」という言い方でしっ責するのは、必ずしも有効ではありません。

私はかねがね「リーダーには知的腕力が必要」と強調してきました。頭ごなしに部下を屈服させるだけでは部下を成長に導くことはできません。自分の実力を誇示しながら部下をやる気にさせるためには、ひと工夫が必要です。

叱る場合は、「できる/できない」を問題にせず、「やる/やらない」を基準に叱るのです。「何年、仕事してるんだ」と言うより「どうしてすぐに、○○に電話しなかったんだ」と具体的に指示することが大切なのです。

■部下を叱ったら必ずその倍、ほめなさい!

ミスをした部下はきちんと叱るべきです。私は「長谷川さんに叱られたときはホントに命が縮むくらい怖かった」と言われるくらい、感情むき出しで叱ります。

叱られれば当然、部下は傷つきます。自信もなくすでしょう。だからこそ私は思い切り叱ったら、その倍の時間と労力をかけてほめました。相手が傷つけば、その傷を癒(いや)すのも叱った者の義務だと思うからです。

では、具体的にどうするか?

私はミスをした経緯をたどっていくことにしています。ミスが顕在化する原因は1つか2つの小さな失敗のことがほとんどです。ですから、ミスの原因はここだと指摘し、叱ったあとはそれ以外のミスに直接関係ない部分をほめるのです。

「あの部分は君の明確な失敗だが、ミスのあとのフォローは迅速だったので、被害は少なくてすんだし、お客様にもご理解いただけた。これからも期待しているから、この調子で頼むよ」といったように。このように評価してあげることが、1つの失敗をモチベーションに変えるキッカケにもなるのです。

■リーダーの能力とは働く人たちのモチベーションを上げること

リーダーの最大の仕事は、ともに働く人たちのモチベーションを上げることです。ただこれは、私自身の体験からして、かなり難しいことです。特に業績の落ち込んだ赤字の会社ほど、リーダーは「この人と一緒なら頑張りたい、努力したい」と周囲に強く思わせなくてはなりません。そのために私は、働く人たちのプライドを取り戻すための工夫をいくつも試みます。

たとえば、社員一人ひとりの業績を細かくチェックして、その実績が多少劣っていても、何かと名目をつけて表彰してきました。実際、数字で功績を表すことのできない部署の人たち、そんな縁の下の力持ちにスポットを当てることが、会社全体のやる気を引き出す導線となることが多いからです。

それは、会社の再生というのは結局のところ、社員のモチベーションが最も重要だからです。先に述べた表彰制度などを例にとっても、モチベーションを高めることに大きなコストはかかりません。現有戦力を最大に生かすためにすべき一番の仕事は、部下たちを情熱のある人間に育て上げることなのです。

■部下のやる気スイッチを入れる4つの「ほめるとき」とは?

部下を動かすコツの1つに「ほめる技術」があります。ただし、ほめ言葉というものは決して万能薬ではなく、何でもかんでもほめればいいというものではありませ。相手の状態に合わせてほめ方・叱り方を変えないと、かえって部下のモチベーションを低下させてしまいます。

そこで重要なことは、部下の心理を見極めて、次の4つの状態にあるときにほめてあげるのです。

1.今成長期にあり、さらに高いパフォーマンスを発揮するために努力を続けているとき。
2.自己満足に陥り、それ以上の努力をしなくなってしまったとき。
3.スランプから脱したいという意欲はあるが、何をやってもうまくいかず、自信を喪失しているとき。
4.無気力な心理状態にあり、何かを変えようという意欲さえ湧いてこないとき。

特に部下が2や4のような状態のときには叱りたい気にもなりますが、逆にほめることで部下の“やる気スイッチ”が入るのです。

■良い指示にはメモがいらない

知人の会社の話です。「ライバル社のシェアを奪え」と命じたところ、第1営業部と第2営業部の2人の部長がまったく違ったアプローチで、部下にハッパをかけたそうです。

第1営業部長は、数々のデータをもとにしてたっぷり30分、戦略を説明しました。一方、第2営業部長の訓辞はたったの1分程度。「今回はオセロ作戦でいきましょう! とにかく担当エリアでライバルに奪われたシェアをひっくり返してください。頼みましたよ」と、メモも不要なほどのコメントだけだったとか。2カ月後、シェアを取り戻したのは第2営業部。シンプルなメッセージほど、よく伝わるという好例でしょう。

長い説明はかえって焦点をぼやけさせてしまいます。伝達事項はせいぜい3分以内。優秀な人は難しい話をやさしい言葉で伝えられる人です。

あなたもぜひ、そんな能力とセンスを磨いてください。

■お客様は神様……。でも、ときと場合によっては部下をかばう

量販店を担当している営業部員が、激昂して帰社してきたことがあります。聞いてみると取引先が契約をたてに、彼に店の販売員のようなことをさせているのだとか。

こんなとき、あなたが上司だったらどうしますか?

「お客様は神様! 理不尽だと思っても会社のために我慢してくれ」と諭すようならリーダー失格です。たとえ大事なお客様でも、取引先の労働力として扱われるいわれはありません。きちんと取引先に異議を申し立て、部下を守ってこそのリーダーです。

私は実際にこのようなケースに遭遇し、2回ほど取引をやめたケースがあります。「当社はお客様と同じくらい社員を大事に考えております。ご理解いただけなければ、おつき合いしていただかなくてけっこうです」と。

果たして、売り上げは落ちたでしょうか?

いいえ、社員たちは誇りを持って働いてくれて、業績回復の大きな力となったのです。

■売り上げに悩んだときにリーダーが自問すべき言葉

企業は社会環境に合わせて、対応を刻々と変化させていかなくてはなりません。荒海の中では帆を下げ、凪なら潮の流れを探し、利益という目的地を目指す存在です。ですから、初めて部下を持ったときは、「自社が、そしてこの自分の仕事が、今どんな状況にあるか」に常に敏感でした。以下は私が役職者として、毎日のようにつぶやいてきた呪文。

つまり、この会社や商品は――

・力が弱いのか強いのか、弱体化しているのか?
・可能性があるのか、ないのか?
・拡大するのか、縮小するのか?
・伸びるのか、伸びないのか?
・高いのか、安いのか?
・やる気があるのか、ないのか?
・じゃあ、それがどうしたんだ!

――です。

実は上の6つ目までは、自分たちの組織の立ち位置をチェックするための言葉です。これだけでは単なる分析にしかすぎません。そして最後の「じゃあ、それがどうしたんだ!」こそが分析に息吹を与えます。つまり、6つのチェックでどのようなはマイナス要因が出てこようとも、それにとらわれずに、頭をポジティブに切り替えるための「スイッチ言葉」なのです。

(会社力研究所代表 長谷川 和廣 写真=iStock.com)