多くの優れた選手を世に輩出し、下部チームも結果を出している。にもかかわらず、トップチームにその恩恵がどれほどもたらされているかというと……。写真はUEFAユースリーグ優勝後。 (C) Getty Images

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 欧州サッカーシーズンは佳境に入っているが、先日はバルセロナのユースチームが、UEFAユースリーグで決勝に進出した。
 
 これは、チャンピオンズ・リーグに出場しているクラブのユースチームによるコンペティションで、文字通り欧州のユース年代における覇権争いを意味する。トッププロになるための登竜門とも言えるだろう。
 ユースリーグ準決勝、バルサはマンチェスター・シティを5-4という派手なスコアで下し、改めて地力を見せた。シティはスピードやパワーに優れた選手が多く、体格で明らかに優勢だったが、バルサは技巧をコンビネーション化し、ボールを完全に支配して撃ち合いを制した。
 
 シティも、トップチームを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督の号令によってボールプレーの質は格段に上がっているものの、バルサはそれをものともしなかった。スペクタクルなプレーを追求してきた彼らの面目躍如だったと言える。
 
 その一方で今、「ユースレベルで結果を残しても、上で活躍できない。ラ・マシア(バルサの下部組織の総称)は終わった」という意見も強まっている。
 
 今シーズン、バルサがパウリーニョ、ウスマンヌ・デンベレ、ネウソン・セメド、フィリッペ・コウチーニョという外国人選手に支払った移籍金は、約500億円にも達している。外国人選手への依存を強めているのは間違いない。
 
 かたや、マルク・バルトラ、ジェラール・デウロフェウ、ラフィーニャなど、生え抜きを次々に放出。さらに今シーズン限りでアンドレス・イニエスタの退団が決定的になるなど、ラ・マシアの色は薄まる一方だ。
 
 現在、「ラ・マシア組」で最も年少の選手は、26歳のセルジ・ロベルト。トップチームがラ・マシア組を吸い上げられなくなったことで、アップデートが停滞している。その一方で、アルダ・トゥラン、トーマス・ヴェルメーレン、パコ・アルカセルのようなほとんど稼働しない選手に大金をつぎ込んでいる……。
 
 こういった点から、ラ・マシアが危機的状況にあるのは事実だろう。今、その存在意義が問われている。
 
※UEFAユースリーグ決勝は4月23日(現地時間)に行なわれ、バルサはチェルシーを3-0で下して、2013-14シーズン(第1回大会)以来2度目の優勝を飾っている。
 ヨハン・クライフが方向性を決めて以来、ラ・マシアはボールプレーを追求し、コンビネーションを洗練してきた。その積み重ねのおかげで、トップチームを彩る選手たちを輩出している。グアルディオラが背負っていた背番号4はその後、シャビ、イニエスタなどがつけ、ひとつの系譜となった。
 
 ところが、最近のラ・マシアは現代サッカーに合わせ、変化も見られる。フィジカルプレーも重視し、そういうタイプの選手も入るようになったのだ。
 
 例えば、18歳のFWアベル・ルイスは、今までのラ・マシアにはいなかったタイプである。大柄でヘディングも強く、走力にも長け、個の力で打開する能力を持っているストライカーだ。
 
 確かに、ラ・マシアは変化しつつある。とはいえ、「終わった」というのは言い過ぎだろう。その表現は、さすがに敬意を欠いている。
 
 ラ・マシアの頂点でもあるバルサBは現在、2部リーグに在籍している。リーガ・エスパニョーラのクラブで、でセカンドチームが2部にいるのはバルサだけ。ユースリーグで決勝に進出したように、今もラ・マシアのポテンシャルの高さは変わらないのだ。
 
 バルサの抱えるジレンマは、はっきりしている。
 
 いかにユースリーグで覇を競い、バルサBが2部で健闘しても、トップで求められるのは絶対的強さ……。チームを牽引する選手を下部組織から生み出すのは簡単ではない。ラ・マシアの象徴であるリオネル・メッシは数十年に一度の選手であり、毎年のように生み出せるわけではないのだ。
 
「周りの人は勝手なことを言います。しかし、私たちは上手くいっているように見える時も、そうでないように見える時も、同じように仕事をしています。ラ・マシアの信念を信じていますから」
 
 かつて取材したラ・マシアの関係者の言葉は、今も耳に残っている。どの国であっても、育成には長い時間がかかるものなのだろう。
 
文:小宮 良之
 
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。