2018年4月13日、自民党総務部会終了後、記者団の質問に答える小泉進次郎筆頭副幹事長。世論調査では「次の総裁」としても名前があがる。(写真=時事通信フォト)

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■現状は「疑惑のもぐらたたき」

自民党幹部が「結党以来最大の危機」と苦虫をかみつぶすように語る。

それぐらい、今の安倍政権は悲惨な状況に直面している。昨年からくすぶり続きながら一向に収束に向かわない「森友」「加計」問題に加え、財務次官によるセクハラ問題。立憲民主党の辻元清美国対委員長は現状を「疑惑のもぐらたたき」と言いあてている。

安倍政権と自民党にとって最悪の時期が続いているが、にもかかわらず6月の国会会期末に「衆院解散・総選挙」説が出始めている。はた目から見たら負けることは確実と思われる衆院解散論。どうして出るのか。

■「3割を割れば危険水域」と言われる

最近、内閣支持率は右肩下がりで急落している。20、21日に行われた毎日新聞の世論調査では30%。20〜22日に行った読売新聞のデータが39%。13日から15日の間に行われたNNNの調査は26.7%だった。「3割を割れば危険水域」と言われる。

実際、これまでの政界では、3割を割り込んだところで政権内部から退陣論が出てきたものだ。2006年に誕生した第1次安倍政権でも07年になって「消えた年金」問題などが浮上して支持が3割前後になってから、再浮上はかなわなかった。

今の内閣支持率は当時と単純比較できない面がある。従来の世論調査は、家庭にある固定電話のみを対象としてきた。しかし、生活習慣が変わり携帯電話のみで生活する人が増えたことを考慮。昨年あたりから固定電話だけでなく携帯電話も調査対象とする社が増えている。

■「自爆テロだ」と悲痛な叫び

今、若者の保守化が指摘されており、20代、30代は自民党支持層が多い。「携帯だけ」で生活する人は若い世代が多いので、必然的に自民党支持層が高めに出る傾向がある。言い換えれば、昨年までの「固定電話のみ」で調査していたら、内閣支持率はもっと低かったことになる。20%台前半の数字が続出していたかもしれない。

そういう意味では安倍晋三首相は調査方法の変化で救われていることになるが、現状が深刻であることに変わりない。

それなのに、衆院解散論である。常識的には自殺行為。自民党若手議員からは「自爆テロだ」と悲痛な叫びが聞こえてくる。

■解散説の出どころは2カ所

今のところ衆院解散風は首相周辺、そして野党から出ている。「首相周辺」の代表格は飯島勲内閣官房参与だ。4月17日、BSテレビ番組に出演した飯島氏は「早く衆院解散し、安倍内閣が重要課題に向き合う姿勢を知らしめてほしい」と明言。「5月23日公示、6月3日投開票」「6月27日公示、7月8日投開票」など具体的日程をあげた。

同じ頃、希望の党の玉木雄一郎代表も衆院解散説を唱えている。

飯島氏ら首相周辺と玉木氏の発言の狙いは、全く異なっている。飯島氏は、森友、加計、日報、セクハラなどの政府・与党の不祥事で野党が徹底抗戦していることに業を煮やし「これ以上、抵抗すると解散するぞ」と野党側をけん制する狙いがあるようだ。

■自民党内の大勢は解散に反対

飯島氏といえばかつては元首相・小泉純一郎氏の秘書としてマスコミを縦横にあやつって政局の流れをつくってきた。郵政民営化関連法案が参院で否決されるやいなや、直ちに衆院解散に踏み切った時の判断も、飯島氏の助言があった。

解散をちらつかせて野党を黙らせようという手法は、しばしば用いられてきたが、他ならぬ飯島氏が言うと「ひょっとして……」と永田町がざわつくのだろう。

一方、玉木氏らの解散論は別の発想がにじむ。玉木氏が代表を務める希望の党と、民進党は今、合流・新党結成に向けて協議を進める。だが、双方の党内に異論は根強く、なかなか進まない。強行すれば造反者が多数出かねない。玉木氏はそういう状況を意識し「選挙が近い」という空気をあおり、野党結集・新党結成の起爆剤にしようと考えている。衆院選が近いと思えば「今のまま野党がばらばらでは勝てない」という機運が高まると踏んでいるのだ。

こうした解散を求める動きに対して、自民党内の大勢が反対なのは動かしようがない事実だ。支持率3割前後で勝つことは至難の業。しかも、昨年の衆院選から1年もたたない状況での選挙は、誰もが慎重になる。選挙で使った資金の「元が取れていない」のだ。

■「出されれば解散も内閣のひとつの選択肢だろう」

そうしたなかで、4月25日、自民党の森山裕国対委員長が、記者団から内閣不信任案への対応を聞かれ、「出されれば解散も内閣のひとつの選択肢だろう」と述べたことが、永田町に波紋を広げてもいる。衆院解散・総選挙の可能性に言及した、という見方ができるからだ。森山氏は「不信任案の提出は野党の権限。われわれがとやかく申し上げる立場にない」とクギを刺したが、「ひとつの選択肢」という言葉の意味は重い。

肝心の安倍首相は今のところ、解散に向けて明確な意思表示はしていない。彼が描く「9月の自民党総裁選で3選を果たし、悲願の憲法改正を実現して2020年の東京五輪・パラリンピックは首相として迎える」というシナリオ通りに進むのであれば、わざわざ解散に打って出ることはないだろう。

ただ、安倍首相が「3選が難しい」と判断したらどうなるか。最近マスコミが行う世論調査の「次の総裁にふさわしい人物は」との問いでは、安倍首相は石破茂元党幹事長、小泉進次郎党筆頭副幹事長の後塵を拝することが増えている。党内では「安倍氏は総裁選に出ず、不戦敗を目指すのではないか」という観測さえ日々高まっている。

今のままでは3選できない、と見切った時、安倍首相が伝家の宝刀を抜く可能性が出てくる。解散して多数を維持すれば、安倍政権が信任されたことになり、総裁選で無投票当選となる道筋が広がるのだ。

求心力を失った首相が衆院解散をすることなどできない、と一笑に付す向きもある。ただし、解散権を持つのは安倍首相1人であることも忘れてはならない。2005年の郵政解散の時も「解散などできるはずがない」が自民党内の大勢だった。しかし小泉氏は反対する閣僚を罷免して解散に踏み切った。同じドラマがことし繰り広げられる確率はゼロではないのである。

(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)