iPad(第6世代、セルラーモデル)とApple Pencil。身近な価格でペンシル操作を最大限に生かせる、スタンダードマシンといえる(筆者撮影)

アップルは3月27日にシカゴで開催したイベントで、新しいiPad(第6世代)を発表した。価格は廉価版として登場したiPad(第5世代)並みに据え置きながら、Apple Pencilへの対応とiPhone 7と同じA10 Fusionプロセッサーを搭載し、処理性能やグラフィックス性能を高めた9.7インチディスプレーのタブレットだ。

上位モデルのiPad Proと比較すると、スピーカーの数やディスプレーの品質とサイズ、カメラ、薄さなどで劣る廉価版iPadという位置づけだが、見方を変えれば「Apple Pencilに対応するタブレットがおよそ半額に値下げされた」ということになる。

価格は32GBモデルで3万7800円(税抜)。教育機関や学生、教職員向けには3万5800円(税抜)で販売される。

Apple Pencilをより身近にしたデバイス


Apple PencilをiPadで試す最も手軽なアプリは「メモ」。ペン先でタップするだけで、すぐにノートとして利用できる(筆者撮影)

これまでApple Pencilに対応するiPad Proは、クリエイティブ向け、あるいは軽快に持ち運べる高性能タブレット、という意味合いが強く、価格も6万9800円(税抜)だった。そのことを考えると、iPad(第6世代)がApple Pencilをより身近にしたデバイスであることがわかる。

Apple Pencil人口が増えることにより、今後ペンシルに対応したアプリが増加していくことが期待できる。ただ、現状でも、Apple Pencilを仕事に取り入れるだけの十分なメリットがある。

ノートやペンなどの文房具の利便性も内包した新しいiPadを仕事で活用すると、何ができるのか。その使用体験について、ご紹介していこう。


スクリーンショットにもApple Pencilですぐに書き込みができる。ウェブを見ていて相手に見せたい画像や商品にメモを添えて素早く共有できるのは便利だ(筆者撮影)

Apple Pencil活用の基本は、iOS 11に搭載された標準アプリでも十分便利に利用できる。

たとえば、ホームボタンと電源ボタンを同時に押してスクリーンショットを作成したり、ウェブブラウザ「Safari」で共有メニューから「PDFを作成」すると、その場でApple Pencilを使って書き込むことができる。

書き込んだ結果は画像として保存したり、そのままメールやメッセージ、Facebookなどのメッセンジャーアプリで送信することが可能だ。筆者も、雑誌の原稿の校正は、届いたメールからPDFを開いて書き込み、これをメールで返信する形でiPadだけで済ませている。わざわざ別のアプリを起動したりする必要はないのだ。

iOS 11に搭載された「メモ」アプリも、手描きメモをサポートしている。Apple Pencilで新規メモをタップすれば、すぐに手書きを始めることができる。一度スリープ状態になっても、ロック画面でペンをタッチすれば、すぐに直前の手描きメモに追記できる。このスピード感は、紙のノートとペンに匹敵する。

キレイな手描きスケッチも簡単にできる

手描きのノートは、文字だけでなく図形などもデジタルで自由に残せる。しかしApple Pencilに限らずデジタルでの素早いメモは、図形の線がゆがんだり、重なったりしてしまい、あとでプレゼンのスライド向けに清書しなければならない。

メモの段階でキレイな図形を描きたい場合に使いたいのが、無料アプリ「Paper」だ。このアプリは、iPhone、iPadで利用できるアイデアスケッチツールで、すでに2500万人が利用している。


「Paper」でのスケッチ。矩形や円などをスムーズでまっすぐな線にしてくれる機能や塗りつぶしツールは、素早くキレイなスケッチ作りに寄与する(筆者撮影)

このツールの中で活用したいのが、Diagramツールだ。ツールパレットのサインペンと定規をタップすると利用できる。このツールを使えば、直線や四角形、三角形、円、矢印などの基本図形を自動的にきれいに描画し、塗りつぶしてくれる。そのため、清書の必要がなく、そのままスライドなどにアイデアスケッチを貼り付けることができる。

また、ローラーの塗りつぶしツールは前述のDiagramツールで描画した図形をタップするだけで好きな色に塗りつぶせるだけでなく、簡単なグラフやべた塗りのイラストを素早く描くことも可能だ。とにかくこのアプリはスケッチができあがるまでのスピードが速く、筆者のように絵心がない者でもスケッチが億劫にならない点がポイントだ。


メールで送られてきたPDFは、ほかのアプリを使わなくてもすぐにApple Pencilで書き込み、そのまま返信メールに添付できる。文書の校正やコメントの書き込みなどは、ビジネスの現場で最も重宝するだろう(筆者撮影)

アップルはApple Pencilに対応するiPadを登場させた際、同社が無料で配布しているワープロアプリ「Pages」、表計算アプリ「Numbers」、スライドアプリ「Keynote」もApple Pencilに対応させた。新しいiPadを購入すると、あらかじめインストールされているため、すぐに利用できる。

これらのアプリではApple Pencilでタップすればすぐにペンでの手描きを始められるほか、スマート注釈機能によって、ペンでの校正作業も可能となった。

スマート注釈機能は、文章の一部にマーカーや取り消し線を引いて書き込んだあと、キーボードから文章を書き足しても、書き込んだ部分が文字列に連動して移動してくれる。そのため、手描きの注釈の位置がずれてしまう心配がなくなった。

Apple Pencilを最も生かせるアプリは…

そして、Apple Pencilを最も生かせるアプリは、スライド作成アプリ「Keynote」だろう。


スライド作成アプリKeynoteへのApple Pencilでの書き込みは、プレゼン以上に、チーム内でのカジュアルな資料共有に威力を発揮する。ファイルを共同編集すれば、メンバーが同時にペンで書き込んで資料を仕上げることも可能だ(筆者撮影)

スライドを手書きだけで作ることもできるし、写真や文章に手書きのアクセントを加えることも可能だ。手書きの部分は画質を損なわず自由に拡大縮小ができることから、書き込んだ後から位置やサイズを整えることもできる。

また、前述のアプリ「Paper」のスケッチをPDFとしてエキスポートしてKeynoteに貼り付け、高画質のスケッチをスライドに生かす連携も試してみたいところだ。

Apple Pencilに対応したiPadでまず試したい3つのアプリについてご紹介してきた。そのほかに筆者が活用しているiPadアプリを、有料版も含めていくつかピックアップしておきたい。

●Notability


有料メルマガ「松村太郎のシリコンバレー深層リポート」でもアップルの取り組みについて詳細なリポートをお届けしています。詳細はこちら

有料のデジタルメモアプリ。Apple Pencilでのメモやさまざまな種類のファイルの貼り付けに対応する。音声録音も可能であるため、新聞記者が取材に活用している様子も多く見られる。

●Adobe Acrobat Reader

業界標準のPDFリーダーのiPad版。PDFへの書き込みやコメント、署名などを行うことができる。

●Adobe Comp CC

Apple Pencilで素早く雑誌や画面のラフデザインやプロトタイピングが行える無料アプリ。Adobe Stockからロイヤルティフリーの画像を利用でき、仕上がったラフデザインはPhotoshopやIllustratorを利用するデザイナーにそのまま渡すこともできる。