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福田淳一財務次官、米山隆一新潟県知事といった偏差値エリートが相次いで辞任を表明した。原因はいずれも、女性スキャンダル。橋下徹氏は、両者ともに危機管理対応の初動を間違えなければ辞任する必要はなかったと言う。続投と辞任という生死の分かれ目は何か。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(4月24日配信)より、抜粋記事をお届けします――。

■「落選の達人」米山の演説はからっきし有権者の心を掴んでいなかった

森友学園問題に端を発して、公文書の改竄から、挙句の果てには財務省事務方トップの福田淳一事務次官のセクハラ疑惑まで、財務省はもうボロボロ状態。このセクハラ疑惑への対応の仕方も、教科書に出てくるような絶対にやってはいけないやり方の典型例。財務省と言えば、国家公務員一種試験を突破した偏差値の高いメンバーの中でも、さらに偏差値の高い者が集まる組織。その組織で出世した大幹部たちが頭を突き合わせて、あんな対応方法を考えたっていうんだから、偏差値の高さと危機状態における適切な対応方法の実行力は全く別物だということを痛感したよ。

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また新潟県知事の米山隆一の女性問題での知事辞任騒動も、米山の偏差値の高さが招いたものだろう。先に言っておくけど、僕は米山は嫌いだ。彼は東大医学部を卒業して医師資格を持ちながら、司法試験にも合格し弁護士資格も有している。灘高→東大へと進み、偏差値が高いことは間違いない。

こんなにお勉強では優秀な米山は、政治にも相当あこがれがあったらしく、何度も国政選挙に挑戦したが、落選し続けた。僕が立ち上げた大阪維新の会、維新の党からも立候補した。誰が選んだのか知れないけど、維新の選挙担当者が衆議院議員選挙の候補者として選んだようだ。

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最初の選挙応援は、雪が激しく降る激寒の日だった。どんなスケジュールだったのか詳細は忘れたけど、「今から新潟に行くの?」と感じるほど回り道をするスケジュールだったことだけは覚えている。

その日、新潟の街頭演説場所で初めて米山に会ったんだけど、米山の挨拶の仕方もマナーもなっていないな、と感じたことは覚えている。そして米山本人は演説する前に「ミカン箱の上からバック宙返りをします!」と宣言して、それするんだけど、うまくいかなくて、顔を地面に打ち付けていたな。確か顔から少し血を流していた。そのまま米山の演説。「こいつは、いったい何がしたいんだろ?」「偏差値が高い奴のやることは分からん」と僕の頭の中で「?」が100個くらい浮かんだよ(笑)

そのときの米山の演説は、からっきし有権者の心を掴んでいなかったことも覚えている。こりゃ典型的な選挙落選の達人だな、と感じたね。

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福田元財務事務次官も、米山も偏差値は高いんだろう。しかし自分に危機的事態が勃発した時の対処の仕方は、幼稚園児以下だね。僕は福田元次官も米山も、きちんとした初動対応をやっていれば辞任する必要はなかったと思っている。特に、米山はね。

でも両名とも結局、辞任に追い込まれた。福田さんは当初は辞任を否定していたし、米山も最初の記者会見では辞任を明確にしなかった。つまり、辞任しなくてもいいのであれば、辞任したくなかったんだろう。そうであれば、きっちりと危機管理対応をしておくべきなのに、それができなかった。

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■なぜ売買春当事者に罰則がないか? それが分かれば米山知事は辞めずに済んだ

米山は独身である。そして50歳。この年齢となれば女性と出会うきっかけを得るのも大変だろう。女性と出会うために出会い系SNSを使ったことは、そのことだけで知事を辞職するほどのことではない。もちろん出会い系SNSのイメージの悪さから、政治家として支持を失うことはあるかもしれないが、それは選挙で審判を受ければいいこと。出会い系SNSを使うかどうかは米山自身の判断で決めればいい。

問題は、お金を支払って、女性と肉体関係を結んだという点である。米山同様、週刊文春も大嫌いだけど、米山騒動を確認するために詳細に読んでしまったじゃねえか。

週刊文春の記事では、米山は、2人の女性と、お金を渡しての肉体関係があったようだ。これが買春にあたる可能性があるとして、米山は辞任した。

法律上は、女性が対価を得て、不特定多数の者と肉体関係を結ぶことを売春として、違法な行為としている。だから凡庸な弁護士コメンテーターたちは、米山の相手の女子大生は、不特定多数の男性を相手にしていたのか、米山だけを相手にしていたのか、不特定多数の男性を相手にしていたならそのことを米山は知っていたのかが問題になる、と解説しているが、そこはあまり問題ではない。

重要なポイントは、売買春の当事者は、売春防止法上は違法とされるが罰則はないということだ。女性に売春をさせる連中が刑罰を科せられて、売春の当事者である女性やお客(買春)には刑罰は科せられない。

では、なぜ売春の当事者に罰則が適用されないのか。それは男女の関係ほど複雑なものはないからだ。ここが米山騒動の本質なんだよね。米山も弁護士資格を持ちながら、この売買春の本質を理解できず、凡庸な弁護士コメンテーターと同じく、買春の違法性のところだけを恐れたようだ。

男女の恋愛のきっかけに、プレゼント、飲食さらにはお金を使うことは絶対にないのか? 当初は肉体関係だけを求めることは絶対にダメなのか? 独身の者が、複数の女性と付き合いながら、1人に決めていくというプロセスは絶対にダメなのか?

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米山の行為は決して褒められるものではないだろう。しかし50の男の恋愛パターンの一つとしてあのような行為をしたというのであれば、それは徹底的に謝罪して、公人の間は二度としないことを誓ってもそれは絶対に許されないことなのだろうか。

僕は、米山がこれまでのことを反省し、公人の間は今後は二度としないということを宣言し、有権者に徹底してお詫び・謝罪すれば、辞任まではする必要はなかったと思う。もちろん後は有権者の判断だから、次の選挙で審判を受けることになるけどね。

週刊文春の記事によると、米山はB子さんの方とは、条件として「お互いに固定の恋人とすること」、つまり他に彼氏彼女を作らないこと、というものを付けたらしい。米山が彼女を求めていたことは十分うかがえる。俺も米山のことで、ここまで週刊文春を読み込むとはね(笑)

■「自分の命運は他者に委ねてはならない。他者に自分の命運を委ねる者は滅びるのみ」

文春の記事が出る前に、米山は文春から取材を受けたことだけで慌てふためき、騒動となった。議会からは辞職を促されたけど、後援会関係者からは続投を強く言われたらしい。

米山はよっぽど知事をやり続けたかったんだろうね。そこで、米山は文春の記事を見てから判断しようとした。そこで騒動後、文春の記事が出る前に開いた会見は、何とも中途半端なものになった。当初は辞任会見のつもりが、文春の記事を見るまで辞任は明言しないという会見に切り替わっちゃったからね。

この中途半端な会見時では、文春記事の早刷りが出回る前だったので、米山は女性問題については何も答えなかった。

バカだな〜。

ここが知事続投と辞任の分かれ道だったね。文春記事が出る前に、先行して自分から事実を伝えていればよかったのに。50の男としては、女性と付き合うにはこれしか方法がなく、申し訳なかったと徹底して謝罪し、二度とこのようなことはしないと誓っていれば、辞任まではしなくてもよかったと思う。

米山は、文春の記事が買春性がそれほど強く出ていないものなら辞任せず、それが強く出ているなら辞任しようと、文春の記事の出方に、自らの出処進退を委ねた。

米山は、偏差値が高い割には、肝心のことを知らないな。「自分の命運は他者に委ねてはならない。他者に自分の命運を委ねる者は滅びるのみ」ということをね。これは今の北朝鮮をめぐる日本の外交にも言えることなんだけど、それは今後論じます。

文春の記事がどうであれ、米山は認めるところは認めて、謝罪するところは徹底謝罪し、その上で弁明をすべきだったんだよ。

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(ここまでリード文を除き約3100字、メールマガジン全文は約2万1000字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.101(4月24日配信)を一部抜粋し、修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【超実践・危機管理】財務次官、新潟知事……なぜ「偏差値高い系」は危機管理が下手なのか?》特集です!

(前大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=iStock.com)