※写真はイメージです(写真=iStock.com/itakayuki)

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看護師という職業が進化している。4年制の看護学部が増えているほか、東大や慶應、ハーバードには大学院もあり、国際的に活躍できる専門職と評価されている。しかも食うには困らない堅実な資格職だ。麻酔科医の筒井冨美氏は「いま看護師の妻と暮らす夫は、最強の『勝ち組』ではないか」という――。

■進化した看護学部は恐ろしく「お買い得」である

「ナース」と聞けば、「白衣の天使」「献身的」のイメージを思い浮かべる方もいるだろう。

しかし、その一方で、看護師に対して「医者の小間使い」「大学受験失敗組」「キツイ仕事の代表格」といったネガティブなイメージを持つ人もいる。たしかに私が制作協力した『ドクターX』など医療ドラマでは、「自分と交際していた医師が出世のために院長令嬢と結婚する運びとなり、哀れ振られてしまう看護師」のようなストーリーをしばしば見かける。

ご存じのようにかつて「看護婦(男性は看護士)」と呼ばれたが、現在では男女共通で「看護師」と名称変更されている。これは、2002年、保健師助産師看護師法の改正を受けたもの。

また、東京大学が1965年に4年制の医学部保健学科(現在の健康総合科学科)を開設したのをはじめ、2001年には慶應義塾大学が、2011年に上智大学が4年制の看護学部を開設している。

こうした流れの中で、看護師という職業は、かつての艱難辛苦の「おしん」的なイメージから、堅実な資格職、そして国際的にも活躍できる専門職として進化しつつある。医学部・歯学部・薬学部・獣医学部に関して考察した前回(※)に続き、今回は進化しつづける看護学部を紹介したい。※http://president.jp/articles/-/24757「Fラン歯・薬学部バカ高学費でも食えない」

看護師への道

看護師は、どういうルートで看護師となるのか。現在、最も多いパターンは「高校卒業後に3年制の看護短大もしくは看護専門校へ進学し、看護師国家試験を受験(合格)」というルートである。

かつては、「中学卒業後に働きながら准看護学校もしくは高校看護科→准看護師免許→働きながら看護専門校→正看護師」という、まさに「おしん」的なコースをたどる看護師も少なくなかった。現在でも、17歳から働くことは可能だが、10代の准看護師を見かけることはあまりなくなった。

准看護学校は現在も存在するが、もっぱら社会人転職者の職業訓練校として機能しており、子育てが一段落した中年女性に人気である。

■看護短大経由の「東大入学の裏ワザ」とは

▼大卒看護師への道

(1)コスパ最強、「看護短大+放送大学」

最近は、大卒看護師も増えている。大卒となるとコストがバカにならないと思うだろうが、コスパ最強の大卒資格取得法がある。それは、「親元から通える看護短大(もしくは専門校)→看護師として働きながら放送大学で単位を追加取得→大卒資格」というルートだ。

看護短大の総学費は公立校ならば0〜150万円、私立でも150〜300万円程度。さらに看護師業界には「ウチの病院で3年働けば返済免除」のようなヒモ付き奨学金が多数存在する。こうした奨学金を上手に利用しつつ、放送大学を活用して単位取得すれば(最短1年間、20万円程度)、トータル20万円で大卒資格が取得でき、看護師資格もついてくる。へたな文系Fラン大よりも、断然おすすめのコースである。

(2)看護短大から有名大3年次へ編入

「大学入試に失敗して看護学校」という看護学生は、現在でもそれなりに存在する。とはいえ、がっかりするのは早い。看護系大学の中には、看護短大卒業者のために3年次編入コースを有する大学がある。関東圏だと千葉大学・筑波大学、それ以外では北海道大学・京都大学・大阪大学・神戸大学などが3年次編入学を認めている。かつては、「看護短大→東大保健学科3年次編入」という「東大入学の裏ワザ」も存在した。現在フリーの山本舞衣子アナウンサーは、このコースで「看護短大→東大→ミス東大→日本テレビ女子アナ」となった。大学受験のリベンジを果たしただけでなく、花形職業にも就くことができたわけだ。ただ現在では、看護大学そのものが増加しているために、3年次編入コースは縮小傾向にある。

(3)ブランド追及なら、慶應か上智

ブランドとしての大学名を追及するならば、慶應義塾大看護医療学部が最強だろう。神奈川県の湘南藤沢キャンパス内に存在し、出席や実習が厳しいので、都会のキラキラ女子大生的なキャンパスライフは期待できないが、慶應大の他学部に比べ入試が易しいのも事実である。

学部開設が2001年と歴史は浅いが、ヘルスケアサービスをするケアプロの創業者・川添高志氏、衆議院議員の木村弥生氏など、看護師の枠を超えて活躍する人材が目立つ。近年では、看護師が経営者として訪問看護ステーションを独立開業することも可能になったので、今後ここの卒業者がさらに活躍する機会が増えるのではないかと、筆者は予想している。

なお、大学ブランドに加えて都会生活をエンジョイしたい場合は、上智大学(四谷および目白キャンパス)のほうがお勧めである。その他、北海道大学、東北大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学……と看護系の学部や学科を設置する大学は多いので、マメにホームページをチェックしておきたい。

(4)政界進出を目指すなら

日本国内の看護師を束ねるのは日本看護協会という巨大組織で、会員数は約72万人である。関連する政治団体として日本看護連盟があり、自民党に強い影響力を持っている。南野知恵子元法相など看護師出身の国会議員や地方議員を多数輩出している。

こういう政治的な出世コースを目指すならば、日本赤十字看護大学、聖路加国際大学、などの看護系大学として長い歴史をもち、同窓会組織のしっかりした大学がお勧めである。国公立では1975年創立の千葉大学看護学部が最古であり、こちらも推薦したい。

■ハーバード大学の公衆衛生大学院は簡単に修士号が取れる

(5)海外に羽ばたくなら

近年、海外で活躍する看護師が増えているのはご存じだろうか。

看護短大や看護系大学などを経て、青年海外協力隊のようなボランティア団体に看護師として参加したり、米国などの正看護師免許を取得して海外の病院に正規就職したりするケースだ。

日本国内での就職には、今のところ大卒看護師も専門校卒も給与などの待遇に大差はないが、海外での労働ビザ取得や就職活動には大卒看護師のほうが明らかに有利である。日本赤十字看護大学、聖路加国際大学は、海外ネットワークもしっかりしているので、国際派志向にはお勧めである。2011年開設の上智大学看護学科は国際看護学コースを設けている。

聖路加国際大学には、一般社会人向けの3年次編入コースがあり、2年で看護師免許を取得することが可能である。将来的に国際機関で働きたい人は、「国際関係学部修士卒、TOEFL100点」よりも「大卒看護師+実務2年、TOEFL90点」のほうが、ポストを得やすいはずだ。

(6)大学教授を目指す

日本中で、看護短大や専門校が大学に昇格する事例も増えている。それに伴い、これら看護系大学での教官ポストが公募されている。他分野のワーキングプアの博士号取得者やポスドク雇止め問題(※)をよそに、看護系大学だけは、バブルと言われるほど大学教員の求人が多い。「5年以上の看護師実務経験と博士号があれば、誰でも大学教員になれる」と言う声さえある。

※ポスドクとは、ポスト・ドクターの略。博士課程(ドクター)修了後、大学などで正規のポストに就けず、非正規の立場で研究活動を続けざるを得ない任期付き研究員を指す。

看護大学の教授職を目指すならば国立大、とりわけ東京大学、そして千葉大学看護学部が有利である。しかしながら、東京大学の総合健康科学科に入学するには、東大理科2類に合格する必要がある。「そんなのムリ……」とあきらめるのは早い。実は、他の看護大学から、東京大学医学研究科修士課程に進学するコースもある。直接、理科2類へ進学するより簡単であり、プロフィールに「東大院卒」と記載できるようになる。

(7)ハーバード院卒も夢じゃない

ハーバード大学やコロンビア大学など世界的名門大学にも、看護学部を発展させた公衆衛生大学院(MPH:Master of Public Health)が存在する。例えば、ハーバード大学の公衆衛生大学院は、医療関係の実務経験者ならば最短9カ月で修士号を取得できる。現地の経営大学院のような有名コースに比べて、入学も卒業も、ハーバードとしては比較的容易であり、履修期間が短いので留学費用も節約できる。ちなみに、昨年「このハゲ〜!」と秘書を罵倒して大騒動になった「東大法→ハーバード院卒」の元衆議院議員の豊田真由子氏は、ここの出身である。

■なぜ看護師の妻と暮らす夫は最強の「勝ち組」か

▼医師の妻になりやすいのは

看護師は医師と結婚する確率も高い。これは筆者の印象だが、若手男性医師の3〜4割は看護師と結婚している。よくあるパターンの医師・看護師カップルは、「医学部受験の勉強に没頭した高校生活送る男性が、医大に合格(入学)して親元を離れて開放感→看護師を目指す女性と出会って、恋愛→そのままゴールイン」というものである。

「医学生に早めにツバをつけられるキャンパス」としては、「医学部と看護学部が隣接」「片田舎で下宿生が多い」をお勧めしたい。関東圏だと、筑波大学・山梨大学・群馬大学などが該当する。一方、慶應大学など医学部と看護学部が全く別キャンパスの大学は、こういう目的にはあわない。出願にあたって、キャンパスの位置や周囲環境をチェックしておきたい。

余談だが、「医師妻を目指すなら薬学部」を進める者も少なくないが、医薬分業の進んだ現在では「医師と薬剤師の職場恋愛」は成立しにくい。医師妻狙いとしての薬科大進学は、筆者は全くお勧めしない。

▼これからの「勝ち組」カップルとは

経済学用語に「エンプロイアビリティ(Employability)」という単語がある。直訳すれば「雇用されやすさ」であり、「ある職場を解雇されても、すぐに次が見つかる能力」と説明される。そして看護師は、偏差値50程度から目指すことが可能な、エンプロイアビリティ最強の資格だと思う。

昭和末期の「勝ち組」と言えば、「夫:年収1200万円のエリートサラリーマン、妻:専業主婦」が典型例だった。しかし、日本航空、東京電力、東芝など、どんな大企業であっても、何が起きるかわからない。NHKや電通といったマスコミも高年収だが、過労死・過労自殺が報じられており、労働環境がいいとはいえない。

今後の日本では、「転勤+長時間労働+滅私奉公がセットの年収1200万円夫の片働き」では長く働き続けることが難しい。それよりも、「夫:年収600万円の中堅IT(在宅・フレックス勤務可能)、妻:年収400万円の看護師」のようなカップルのほうが、ストレスが少なく人生の満足度が高い「勝ち組」になってゆくのではないか。筆者はそう考えている。

(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美 写真=iStock.com)