@AUTOCAR

写真拡大 (全9枚)

もくじ

前編
ー 合算で2000psに迫る直接対決
ー 肉薄するドイツ勢に、異色のアメリカ車
ー 幅が広すぎるBMW、左ハンドルのキャデラック
ー 秀でた車内空間を持つドイツ勢
ー 大きな改善を遂げたメルセデスのエアサス

後編
ー 本物のサウンドを奏でるキャデラック
ー AMGやBMWほどの仕上がりは得られていない
ー 群を抜くBMW M5のハンドリング
ー ドライバーズカーの理想像
ー 番外編:英国でキャデラックCTS-Vを買える唯一の店
ー BMW M5のスペック
ー メルセデスAMG E63 S 4Matic+のスペック
ー キャデラックCTS-Vのスペック

合算で2000psに迫る直接対決

1861ps。思わず背筋がピンとするような数字ではないだろうか。

3台のスーパーサルーンが揃った。駆動輪を合わせると10本、最高出力は合計で1861psだから、あと少しで2000psに迫る勢い。まだ蒸気が上がるような舗装したての滑らかな路面は、英国西部のノースウェールズでは非常に珍しいことだが、今回の闘いに影響を及ぼしそうだ。

少し話が逸れるが、先週のこと。今回テストを行うスノードニアン・バレーの雪が溶け始めると、地元の評議員が掘削機やミキサー、ロードローラーを投入し、多くのひとが感じていた不満の解決、舗装工事のために動いてくれたのだ。英国の道路の場合、同様の課題は場所を選ばず存在することではあるけれど。

市民代表の責任として、素晴らしい対応をありがとう。グウィネズ評議員。

アスファルトはまだ硬化途中の段階で、白線も引かれたばかり。何とか準備が整った路面が、タイヤの下に真新しいカーペットのように広がっている。

今回は幸運にも、舗装工事の規制線が解除されるタイミングに合わせて、われわれは4輪駆動で612psのメルセデス-AMG E63 Sと、649psのキャデラックCTS-V、4輪駆動で599psのBMW M5の3台で道路に乗り入れる機会を得たのだ。

600psという王台と、0-100km/h加速を3.5秒以下でこなす最新のスーパーサルーンたち。もはや、この注目を集めるようなスペックは、スーパーカーの領域に到達しているといっても過言ではない。この世界的な評価を得るエグゼクティブ4ドアサルーンが、英国の道でどんな走りを一体見せてくれるのかという疑問は、ごく自然なものだと思う。

好奇心の延長ともいえるけれど。

一方で、無数に速度取締機が並ぶ英国の状況において、スーパーサルーンが高速で道路を自由に走れる時代は、とうの昔に終わってしまったということも、どこか示唆されている気もする。

肉薄するドイツ勢に、異色のアメリカ車

新しいBMW M5の真のライバルに該当するであろうクルマを集めて、できる限り容赦のない比較をしたいと考えて選んだのが今回の3台。類似するクルマのグループというより、個性的なパフォーマンスカーたちの御一行といった雰囲気になった。

その一角は、読者の皆さんも容易に候補としての想像がつくであろう、メルセデス-AMG E63 S 4Matic+。黒いホイールは、クローム処理されたリムが映える。最高出力も最大トルクもM5を上回る怪力の持ち主だが、エンジンは同じV8ツインターボ。4輪駆動システムを搭載しつつ、必要に応じて後輪駆動にできるのもM5と同じだ。0-100km/h加速も3.4秒と小数点以下まで横並びで、結果、価格も肉薄している。

そしてもう1台は意外かもしれないが、キャデラックCTS-V。ラグジュアリーさやプレミアム感では劣るように思えるし、技術的にも価格的にも、高いとはいえない。ドイツ車2台とは明らかに異なる。M5とE63は、いわゆる古典的なスーパーサルーンをつくる手法の延長上にあるといえるが、CTS-Vは、雷のような唸り声を発する、別の次元のクルマといえるだろう。

スーパーチャージャーで加給される2バルブのV8エンジンを持ち、後輪駆動。87.0kg-mのトルクと、649psのパワーを繰り出す。加えて、最高速度は320km/hに達する才能を持つ。スペック的には新しいM5との比較テストにも、場違いとは言えなさそうだ。

テスト実施日の朝、今回のメンバーと朝食を取りながら、今回のテストでの個人的な視点を伝えることができた。それは、今回のクルマはおそらく想像どおりの俊足だが、過激さや性格という点では大きく異なるだろう、ということ。

そして、ハイパフォーマンスモデルの中でも、スーパーサルーンというカテゴリーはやはり特別。比較する際に評価しておきたい、3つのポイントがある。

1点目は、日常利用の視点で、どれほど利便性が高く、快適で、実用的なクルマかどうか。2点目は、2018年の英国の道で、実際どれほどの俊足を披露してくれるのか。3点目は、クルマの奥行きがどれほどの深さを持っているのか。

これらを順を追って見ていきたい。さっそく始めよう。

幅が広すぎるBMW、左ハンドルのキャデラック

まずはじめにボディサイズ。

そもそも、ミドルサイズのエグゼクティブ・サルーンとして、今回の3台は適切な比較候補なのかどうか、という点は議論の余地があることは認める。さらに、M5のボディサイズは、ミドルとは呼びにくいものだったりする。

一般的に、ミドルサイズの4ドアサルーンを考えた場合、大人4人が快適に乗車できるクルマの好例としては、BMW M3やアルファ・ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオなどがあげられるだろう。これらのクルマは、運転席はもちろん、リアドアの開口部やリアシート、ラゲッジスペースも充分な大きさが確保されている。実用性の面でも、ボディサイズに不足はない。どちらのクルマを選んでも、得られるメリットにそれほど大きな差はないはず。

そして、今回の3台。E63は僅差で一番大きなラゲッジスペースを確保しており、車内空間もシートの快適性も最も優れているとはいえ、その違いはわずか。M5も極めて魅力的な内容を備えている。CTS-Vのラゲッジスペースは3台の中で1番小さいものの、単独で見る限りは充分大きく感じられるだろう。

ただし、車内が広いということは、その分、ボディサイズも大きいということ。最もその全幅を意識するクルマはM5で、ドアミラー間の全幅を見た場合、マクラーレン570Sよりも大きいのだ。多くのドライバーは、用心深く運転することが要求されるに違いない。E63とCTS-Vは、そこまでではないものの、英国の幅の狭い国道や地方道では、その大きさを実感せざるを得ない。

キャデラックは左ハンドルのみだから、それだけで不利。縁石やガードレールに近い位置で運転する機会は少ないから、それに慣れるまで、別の意味でボディサイズを意識してしまった。始めのうちは、中央分離帯のキャッツアイにタイヤが乗り上げる感覚を確かめながら、クルマを車線内に留める練習をすると良いかもしれない。

ちなみに、今回のキャデラックのテスト車両は、英国唯一の正規ディーラーとなるイアン・アラン・モータースから提供してもらったクルマとなる。その詳細は追って紹介しよう。

秀でた車内空間を持つドイツ勢

続いては、車内空間の品質。

キャデラックCTS-Vのインテリアの仕立てが、ドイツ製のライバルと比べて劣ることに関しては、特に驚かないことだと思う。しかしこの場合、キャデラックの質が悪いというよりも、M5やE63の質感の秀逸さを評価するほうが正しいように思える。

BMWのインテリアの隅々まで行き届いたラグジュアリーな雰囲気は、メルセデスと同様に、説得力のあるもの。むしろ、E63が質感を高めてリードしようと努めながらも、M5はそれ以上の完成度を得ている印象だ。

実はわたしは、Eクラスのほかのグレードでも、素材の上質さや高級感の部分ではBMW 5シリーズに及んでいないと以前から思っていた。

M5のダッシュボードはソフトメリノレザーで覆われた素晴らしい眺めだし、インストゥルメントパネルに収まるディスプレイも魅力的。エアコンには、アロマ機能まで備わっている。

ちなみに、AUTOCARの評論家たちは、鶏肉料理のようなものと、洗濯物の柔軟剤、加齢臭が交わったような香りで知られている。もちろん、このBMWからはもっと心地よい香りがする。クルマ酔いも抑えられるかもしれない。

大きな改善を遂げたメルセデスのエアサス

乗り心地の面ではどうだろう。

600psを持つクルマのオーナーにとって、自宅のガレージで所有する喜びに浸ることも悪くないが、その乗り味の繊細さを確かめることは、もっと楽しい作業だと思う。

ドライビングフィールの細かな部分を比較した場合、単に速いだけでなく、安定性とリラックスした雰囲気を持つクルマが好みなら、E63 Sがベストではないだろうか。

さかのぼると、昨年の夏に別のE63をテストした際の乗り心地は、ストレスを感じるほど硬さを感じられた。その後も何度か試乗しているが、AMGのエアサスペンション仕様の快適性は、驚くほど明確に改善している。今回のテスト車両も、前回とはまったく異なる乗り心地を提供してくれた。そのため、ほかの2台とは明確な差異を生んでいるのだ。

今回の3台ともに、設定を変化させられるドライビングモードが備わるが、E63のコンフォートモードは、その名の通り快適至極なもの。BMWよりも若干音質面では劣るものの、荒れた路面や舗装の剥がれなどに遭遇しても、振る舞いは落ち着いており、低速域での快適性も優れている。

BMW M5のサスペンションは、最もコンフォートな状態であってもE63より平静さに欠けており、どうしても細かな振動が常に気になってしまう。

キャデラックCTS-Vにはコンフォートモードの設定はないが、他の2台と比較して、明確に路面状況に左右されない乗り心地を得てはいる。しかし、アジリティの面では今ひとつで、路面が荒れていたりうねっていたりすると、ステアリングの反応が他のクルマの倍近く変化するし、常にストロークが足りていない印象がある。CTS-Vが、他の2台よりもシンプルに真っ直ぐ進むことが得意なクルマであることは明らかだ。

結果、運転に熱中したいと思っても、どこか中途半端さが付きまとってしまう。一方で、シンプルに真っ直ぐ進むことが得意ということは、アメリカ車らしい長所にもなり得る。

ただし、このグループでの比較となると、不満の残るものとなってしまった。

後半に続く。