スティーブン・スピルバーグ監督の最新作、映画『レディ・プレイヤー 1』が4 月20日(金)に公開されました。ダークな近未来世界で人々に唯一の希望をもたらし、誰でもなりたいものになれるVR(仮想現実)空間「オアシス」。その創設者の莫大な遺産をかけた争奪戦がスタート、勝利を手にするのは?「劇場がテーマパークになる」――果たしてそれは、ただの宣伝文句なのでしょうか?

『レディ・プレイヤー1 』(c)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTSRESERVED

『レディ・プレイヤー1 』
(配給:ワーナー・ブラザース映画)
●監督・製作:スティーブン・スピルバーグ ●脚本:ザック・ペン ●原作・脚本:アーネスト・クライン ●出演:タイ・シェリダン、オリビア・クック、ベン・メンデルゾーン、リナ・ウェイス、サイモン・ペッグ、マーク・ライランス、フィリップ・チャオ、森崎ウィン、ハナ・ジョン=カーメン 
●4月20日(金)全国ロードショー 3D/2D/IMAX3DR/4D
©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTSRESERVED

【あらすじ】196w
2045年、ゴーグルをつけるだけで誰もが飛び込めるVR空間「オアシス」。その創設者であるジェームズ・ハリー(マーク・ライランス)が亡くなる。彼の遺言は「オアシスに眠る3 つの謎を解いた者に全財産の56兆円(!)と、オアシスのすべてを与える」こと。全世界で激しい争奪戦がスタート。参加者のひとりである17歳のウェイド(タイ・シェリダン)は貧困街に住む、見た目も冴えないごくフツーの男子だった……。

絶望的に荒廃した近未来像がリアル

エンタメ映画として、これ以上に華やかな作品がある?――スピルバーグ監督の最新作『レディ・プレイヤー1』を観ながら、なんどもそう思いました。物語は2045年の荒廃した世界の描写に始まります。2018年の現在と地続きのように思えるけどそこここに27年分の科学の進歩を感じさせ、それと反比例するかのように、人びとの生活は今よりずっと暗くすさんでいる――まずはその描写だけで、「なんか格好いい……」と息をのみました。

主人公のウェイドが暮らす貧民街は壊れた自動車がそのまま放置されてサビついたまま転がっていたりして、まさに廃墟のような様相です。人びとは道端に置かれたドラム缶でモノを燃やして暖を取っていたりもする。そこにビルの骨組みがむき出しになったような塔が無数に建ち、その各階にトレーラーハウスが収まっています。「スタック(集合住宅)」と呼ばれるそれは、遠くから見たらまるで棚へ縦にミニカーを並べたような、積み上げ式のトレーラーパークです。なるほど人口過剰な近未来で、経済的に豊かではない人びとの住宅はこんなふうになるのかもしれない、と見たこともない未来像がリアルに思えてしびれます。それは『ブレードランナー』や『マッドマックス』が示した近未来ともぜんぜん違います。映画のほんの始まりのシーンから、早くもスピルバーグの術中にまんまとハマめられてしまうのです。

で、こんな世界観の中でどんな物語が始まるの?――観客はこれから始まる物語に、前のめりな戦闘態勢を取ることになります。

近未来の描写だけで、引き込まれます。

主人公はごくフツーの、冴えない17歳男子

主人公は特にイケメンでもない、ごくフツーの17歳であるウェイド。両親を亡くして叔母とトレーラーパークに暮らし、唯一の楽しみはオアシスで開催される「ハリデーの試練」で優勝することです。オアシスに入った人は、アバターとして無限の自由を手にします。誰になってもいいし、どんな乗り物に乗って、どこへ行ってもいい。そこでウェイドのアバターは、もちろんイケメン!なパーシヴァル。勇気があって賢く、自信に満ちた佇まいでウィットに富んでいる、まさにヒーローなヤツです。現実の世界ではパッとしないウェイドですが、いざオアシスに入ればパーシヴァルになれて、現実の世界で彼自身が本来持っている賢さを存分に発揮できるわけです。

でもそれって、そのまま現代に通じてしまう気もします。ネット上でなりたい自分をつくり上げ、世界中の人と一瞬で直接的に繋がれる。現実と現実的な折り合いがつけられず、ネットの世界にどっぷり浸かって、そこがすべてになってしまう――それはフィクションでもなんでもなく、すぐそこにある現実です。もっというと格差社会は加速し、都市は明らかに人口過剰で、政治家も学者も映画や小説などのつくり手も、いまだに誰もこの世界が描くことができるはずの犂望”というものの具体像を提示できていないようにも思えます。さきほど「現在と地続きのよう」と書いたのはそのためです。

この映画で描かれるウェイドが生きる現実世界の絶望的な状況は、2018年のこの現実と全然遠くない――主人公がごくフツーな少年であることと合わせて、物語がぐっと身近に思えます。

VRでは理想の自分になれる!

エンタメ作での、スピルバーグの高い演出力を再確認

なんだか前置きが長くなりました。いやいや!世界観とか主人公のキャラの話じゃなくて!そうです、これはスピルバーグの映画なのです。それも『シンドラーのリスト』みたいな泣きの人間ドラマでも、『プライベート・ライアン』みたいな壮絶な戦闘シーンに唖然とさせられた戦争映画でもない。ブサイクな宇宙人と少年との絆に心もほっこりな『E.T.』とか、冒険活劇というジャンルを完全に復活させた『インディ・ジョーンズ』とか、多くの亜流を生み続ける『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか、そっち系。映画はとにかくエンタメなの!さまざまな手練手管を使って、観客を楽しませなきゃダメなの!みたいなスピルバーグ印の作品群に、新しい1本が加わったのです。

映画が始まってすぐ、ウェイドがサッとゴーグルをつけてオアシスにIN。バーチャルなニューヨークの街を舞台にしたカーチェイスがスタートします。これがもうスゴイ。コンピューター・アニメーションで描かれているため、なんでもアリです。古くは『激突!』(1971年の映画って、本当に古いな!)、もう海水浴なんて行かないぞ!と心に誓わせた『JAWS/ジョーズ』と、スピルバーグの演出力は最初から完成していたように思えます。観客をその物語の只中に放り込む腕力、それはシンプルなストーリーであるときほど冴えるようでした。

息をのむ、カーチェイスシーン。

この映画を3Dで観る姿はまるで……

この映画も、実はストーリーそのものはシンプルです。現実の世界で冴えない17歳男子が、VR空間で友達を得てお宝を探す、それだけ。ここでいう「お宝」というのはいわゆるイースター・エッグのことで、TVゲームコンピュータのソフトにこっそり仕込まれたメッセージや隠れキャラです。創設者であるハリーがオアシスに仕込んだ謎=イースター・エッグを探す冒険モノというわけですね。ただ現実とオアシス、2つの世界が同時進行であるため、ややこしく思える瞬間もあるかもしれません。現実の世界はフィルムで、オアシスはデジタルと、両者の違いを際立たせてもいるという芸の細かさです。

それでやはりスピルバーグの演出力は、これでもか!というくらいに発揮されます。冒頭のカーチェイスでのスピード感と臨場感!観ている側のノリとしてはまさに実写を観るよう。のめり込み過ぎて、カーアクションが派手すぎて、頭がくらくらするかもしれません。

それでいて「なんでもアリ」はクルマやバイクの動きだけではありません。1つだけ例を挙げると、あのガンダムが登場します。ガンダムっぽいロボットではなく、ガンダムそのもの。スピルバーグの映画にガンダム!?それは『キングコング×ゴジラ』とは比べものにならない衝撃です。『エイリアンvsプレデター』よりずっと大きな破壊力の。しかも日本人にとっては驚きが倍増ですよね。そんな驚きがこの映画の中には惜しげもなく、ばんばん登場します。

こんなことはスピルバーグにしかできないでしょう。その1つ1つについて権利元を確認し、連絡をとり、交渉し、OKをもらわないともちろん映画に登場させることなんてできません。どれだけの手間と予算が割かれたのだろう……そう思うと気が遠くなります。だって映画は、あれ!まさか!マジで!?みたいなことの連続なのですから。

人気のキャラクターだけでなく、名作と呼ばれる映画のパロディーもあって、どれも解説したいところですが、正直いって全部はわかりません。それを自分で見つけることもこの映画のお楽しみ!というわけで、ゲームの要素が巧みに織り込まれているのです。

それでもしこれを3Dで観たとしたら?観客は当然3Dメガネをするわけで、その姿はそのまま、ゴーグルをかけてオアシスにINする人と重なります。オアシス内では子どもも大人も男も女も、名もなき高校生も大企業も横一列。同じようにこの映画は映画の知識があってもなくても、それぞれのレベルで楽しめるはずです。1年に1〜2本しか映画館で映画を観る機会なんてないよ――もし身近にそんな人がいたら、この映画を薦めるといいかもしれません。同時に映画が大好き!アニメとか怪獣映画とか、もうオタクのレベル!という人にも。

やはりこんな映画は、スピルバーグにしか撮れないでしょう。

大人も子供も楽しめる!

文・浅見祥子