集英社に3つの質問(画像は集英社のサイトから)

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漫画村を始めとする、著作物を違法に公開している海賊版サイトに対する接続を遮断する「ブロッキング」を政府が推奨すると発表したことを巡り、新たな動きがあった。

作家で個人投資家の山本一郎氏が「出版社や権利者が警察に被害届を出していない可能性がある」としてブロッキングへの疑問を表明したのに対し、集英社が名指しを避けつつも「誤情報」とするステートメントを発表。さらにこれを受ける形で、山本氏が「公開質問状」を発表する展開となっている。

山本氏は「緊急避難」条件を満たすか疑問視

内閣府知財本部は、2018年4月13日に海賊版サイトへのアクセスを遮断する「ブロッキング」を推奨する方針を発表し、それを受けて集英社、講談社、KADOKAWAといった大手出版社はブロッキングについての声明を出している。

内容は一様に、ブロッキングを海賊版対策の第一歩としてとらえ、効果に期待を寄せるものだった。

海賊版対策として期待が寄せられる一方で、漫画家のちばてつや氏や漫画家の団体「マンガジャパン」が表現の自由などの立場からもろ手を挙げての賛成とはいかない、という声明を出すなど、ブロッキングについては様々な意見が上がっている状況だ。

そんな中で、山本氏は、自身が発行するメルマガやYahoo!個人への寄稿記事の中で、独自に取材を進めた結果

「知財本部によるブロッキング問題に関する議論だけが先行して話題になっているものの、事件としては警視庁・警察庁は認知しておらず、所轄警察署などへの権利者からの被害届が出ていない可能性」

があるとし、政府が示した「緊急避難」の根拠を満たさないのではないかと指摘し、

「民間による海賊版ビジネスを支える収入に打撃を加えるプロセスと併せ、海賊版サイトに対する警察当局の捜査を行わせるのがあるべき対策だったわけですが、肝心の被害状況を知らせる被害届の提出が行われていなかったとなると、『被害届も出さずになぜブロッキングの議論だけ政府が先行させて無理筋のブロッキング依頼をISPに対して出させる検討をしたのか』という批判になるでしょう」

と、その上で行われるブロッキングへの違和感をつづった。

こうした記事を受けてか、具体的には言及を避けているものの、集英社は19日に公式サイト上で「出版社の海賊版サイトへの対応に関する誤情報流布について」という文書を公開し、

「海賊版サイトへの出版社の対応に関して、誤った情報の流布が見られます。当社では、悪質な著作権侵害事案に対し、捜査機関と協力して厳正に対応しております。ご理解のほどよろしくお願い申し上げます」

と、「誤情報」であると断じた。

集英社に対して「公開質問状」

そうした集英社の主張に対して山本氏は20日にツイッターで、

「さすがにこの程度の対処で憲法の違法阻却事由の緊急避難を申し立てるのはむつかしくないですか。踏み込んでおいたほうがいいんですかねえ」

と投稿し、その後、Yahoo!個人で集英社に対して「公開質問状」を発表し、回答を求めた。

質問状では、

「集英社のいう『厳正な対応』は著作権者の被害届提出や刑事告訴は含まれるのか」

という、被害届提出の有無といった「厳正な対応」の内容を改めて問うたのに加え、集英社を含む出版社側の自民党議員に対する「ロビイング」の実否などを尋ねている。特にロビイングについては、「適法な渉外活動」であるとしつつ、これにより「常識的に見て緊急避難とは到底言えない海賊版サイトのブロッキングという憲法違反の政府要請」を引き出したのではないか、としている。

山本氏は、結びの文章で、様々な要因によって日本のクリエイターが不利益を被っていることと海賊版対策の重要性に触れ、

「きちんと調査し、相手を特定して、捜査当局に情報を提供し、法的措置を行うことこそが、海賊版対策で求められている業界団体や大手事業者の動きであると考えます。政治家に働きかけて憲法問題を中央突破して通信事業者に法的リスクを負わせながら、実際にはVPNやタコ足サイトの乱立で海賊版対策はザルになるようでは誰も幸せになりません」

と意図を説明し、ネット時代のコンテンツ産業のあり方を再考するよう求めている。