多くの課題を抱えながらも、英国の経済状況はここ20年間右肩上がり。人口や資源において優位とは言えないはずのこの国が、なぜ国際社会においてこれほど高い地位を維持できるのでしょうか?

書籍『現役官僚の滞英日記』(PLANETS)の著者である現役官僚の橘宏樹氏が、自身が名門大学で過ごした2年間の滞英経験をもとに、英国社会の"性格"に迫ります。

第5回となる本記事は、少し変わったイギリスのテレビ番組事情について。

※前回の記事はこちら

東京とロンドン、「路上ライブ」の違い

テレビ受信料不払いは罰金?

まず、イギリスでテレビを見るには、30ポンド(約5,000円)くらいのアンテナを一緒に買って、年間受信料(カラーは145.50ポンド=約23,000円、白黒は49ポンド=約8,000円)を払わないといけません。

「白黒テレビの家なんて今時あるの?」という疑問がただちに浮かぶのですが、もしかしたらそういう家庭もちょっとありそうな気もするのがイギリス。ちなみに受信料の不払いは違法で、かなり高い罰金が課されます。

こちらの支払いを経て見られるチャンネルは、BBC1、BBC World、itv、 channel4などをはじめ、ざっと30チャンネル以上あります。BBC Oxfordのように、コンテンツの何割かをそれぞれの地方に合わせたチャンネルもあります。今週の見どころなどを紹介する「週刊TVガイド」のような雑誌も50ペンスくらい(約80円くらい)でスーパーやキオスクで売られています。日本よりかなり安いですよね。

そのほか、ラジオも5チャンネル以上をテレビで聞くことができますし、SKYなどの有料チャンネルもあります。プレミアリーグなど欧州サッカーはこうした有料チャンネルが独占。アラブ系のカフェやレストランではよくこうした有料チャンネルの欧州サッカーの試合を流しっぱなしにしているので、アラブ系の若い男たちが集まって観戦しています。まさに「テレビがある店に客が来る」という、昔の日本のようです。

ちなみにアラブ系の若者男性は、だいたいいつも5人くらいでつるんでいて、それぞれタバコを吸ったりスマホをいじったりしているのが定番。一緒にいること、今そこにいない仲間を呼び集めることが大事なようです。

日本でコンビニの駐車場に集まるヤンキーのようですが、目が合うとニコッとしてくれて、かなり人懐っこいです。話しかけられて日本人だと答えればだいたい笑顔で喜んでくれますし、危険な思いをしたことはただの一度もありません(昨今は、むしろ彼らの方が脅えているような状況だと思います)。そういうお店にひとりで紛れ込んで、彼らとサッカー談議をするのはなかなか楽しい時間でした。

深夜番組ではギャンブルを放映

まず、番組表を眺めたとき、ざっくりとですが、日本のテレビと似た構成をしているなと思います。

たとえば日曜の朝早くには現役政治家を招いた政治討論番組があったり、平日昼間にはドロドロな恋愛ドラマをやっていたりします。スペインかアルゼンチン系のものが多いです(ラテン系のドラマは、女同士が男をめぐって嫉妬と策略をめぐらせるところが醍醐味ですが、浮気しまくる渦中の男の人間性はなぜかあまり攻撃されませんし、描写されてもいないような気がします)。

アメリカの古いドラマの再放送も、白黒西部劇から『フルハウス』までたくさんやっています。日本でも人気のベネディクト・カンバーバッチが主演している現代版シャーロック・ホームズ“SHERLOCK”はイギリスでも大人気です。

やはりシャーロック・ホームズものは、絶対の安牌なようで、映画もドラマもよく新しい作品が作られます。また、ちょうど金曜ロードショーでジブリをやるような頻度で「007」シリーズをやっています。

そのほか、決まった時間のニュース、映画、旅番組、自然探検、社会派ドキュメンタリー、宇宙や自然などをテーマにしたサイエンス系、歴史もの、サスペンス、トークショー、歌番組、クイズ番組などがあります。どの時間にどういう人たちがテレビを見ているのか、ざっくりとしたところでは似ているのでしょう。

日本との大きな違いは、深夜はほとんどのチャンネルでギャンブルを放映していることです。スロットやルーレットが回って、数字と金額が繰り返しアナウンスされています。

日本ではだいたいテレビショッピングをやっていますよね。朦朧として判断力が鈍っているところを狙って直接お金を巻き上げようというところは同じなのかもしれません(笑)。

全体としては、コンテンツの主力はドラマと映画の再放送が多い気がします。一定の視聴者層が計算できて、スポンサーに説明しやすいからなのでしょうか。

「ひな壇芸人」も「素人いじり」も存在しない

僕は日本のお笑いは好きな方で、こちらでもインターネットの動画サイト等でかなり見ています。

イギリスでは、『The Big Bang Theory』や『Two and a half boys』といった、すべてのセリフがジョークになっていて、いちいち笑い声が挿入されているタイプのコメディドラマが大人気。しかし日本のように、ひな壇に芸人が並んでVTRを見てガヤガヤやっているようなバラエティ番組は見かけません。

ましてや、お笑い芸人の楽屋話や「おもろい後輩」の内輪エピソードを紹介するようなトーク番組だったり、熱湯風呂や苦い飲み物の「リアクション芸」を見せたり、白けた失笑をおもしろしとする「スベり芸」を披露する類のお笑い番組は、皆無かなと思います(コメディチャンネルはあるのですが有料なので観たことがありません……)。

一度だけ、素人ではなさそうな出演者が代わりばんこに「あるとき、ジョンが奥さんに〜されたと言ってうるさいから、俺は言ってやったんだ、〜ってね!」というような、短いジョークを連発で言っていくコーナーをクイズ番組の合間に見たことがあり、「なんだこれ?」と思いました。

意味はわかったけれど、本当にこれおもしろいか?と思うものばかりでしたが、笑い声が挿入音なので自分の感覚を信じるしかありません。

一方で、一般人参加のクイズ番組がかなり多いと感じます。数独のような知能を競う系や雑学早押し、クロスワードパズルをひねったような語彙を試すものなどです。ここでは「おもしろいことを言わなければならない」という空気は別にありません。

冒頭で「ジョセフ from バーミンガム!」程度の自己紹介をして、名物司会者がエレガントで軽妙なトークによって進行させていくなか、決着がつくとほぼ即座に番組終了という感じです。

日本で言えば『パネルクイズ アタック25』のような雰囲気でしょうか。『恋のから騒ぎ』や『有田とマツコと男と女』のような参加者のプライバシーやパーソナリティに踏み込む“素人いじり”をするような番組は今のところほとんど見かけていません。

『現役官僚の滞英日記』著:橘 宏樹(PLANETS)

欧州最古の名門総合大学「オックスフォード」、英語圏最高峰の社会科学研究機関「LSE」の両校に留学した若手官僚が英国社会のエートスをリアルタイムに分析。大英帝国が没落してなお、国際的地位と持続的成長を保ち続けるイギリスに “課題先進国" 日本再生のヒントをさぐる、刺激的な留学ドキュメンタリー。

橘 宏樹(たちばな ひろき)

官庁勤務。2014年夏より2年間、英国の名門校LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス)及びオックスフォード大学に留学。NPO法人ZESDA(http://zesda.jp/)等の活動にも参加。趣味はアニメ鑑賞、ピアノ、サッカー等。twitterアカウント:@H__Tachibana