田嶋幸三JFA会長が「パルプンテ」を唱えた【写真:松岡健三郎】

写真拡大 (全2枚)

ハリルホジッチを否定しなかった西野新監督

 ハリルホジッチ監督解任は狂気の沙汰である。ロシアワールドカップまで2ヶ月となったいま、なぜこのような事態に陥ったのか。誰しもが田嶋幸三会長の説明には納得できず、理解もできない。会長の独断による「パルプンテ」ではなかったのか。(取材・文:植田路生)

---

 これはまるでパルプンテだーー。

 あるサッカージャーナリストは言った。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の解任騒動についてである。言い得て妙だ。「パルプンテ」とは『ドラゴンクエスト』というゲームに登場する呪文の1つ。唱えると、敵が全滅するかもしれないし、逆に味方が全滅するかもしれない。何も起こらないこともあるし、その他些末なことが起こることもある。ようするに、何が起こるのか分からない、ある意味一発逆転の呪文なのである。

 普通であればパルプンテは使わない。その場面があるとすればにっちもさっちもいかない大ピンチのときである。上手くいけばそのままゲームは続行、失敗すればリセットすればいい。ゲームはリセット=やり直しができる。現実と違って。

 リセットできない現実で日本サッカー協会(JFA)の田嶋幸三会長はパルプンテを唱えた。ロシアワールドカップまで2ヶ月に迫ったいま、監督を解任するのは狂気の沙汰。そこに論理的な裏付けがあるならいいが、まったくない。やはりこれは田嶋会長によるパルプンテとしか考えられない。

 田嶋会長はいまの日本代表について「危機的状況」と分析している。だが、危機だと思っていたのは田嶋会長だけなのではないか。本来、ハリルホジッチ監督の評価を下す技術委員会は低い評価をしていない。「前」技術委員長で新監督に就任した西野朗氏は「(ハリルホジッチ監督が選手に求めていた)内容は非常に高度なもので、それを選手たちに強く要求していた。そのスタイルは、現状の日本サッカーにとって間違いなく必要なこと」とまで述べている。

 西野新監督はハリルホジッチ前監督を否定するようなことは一切なかった。むしろ高く評価していたのではないかとすら感じた。そう、田嶋会長と西野新監督の認識はズレているのである。なぜこのようなことが起こったのか。

田嶋会長が理解できなかった「仲が良くない」集団とハリルのサッカー

 田嶋会長は記者会見、そしてNHKに出演した際も解任理由についてはしきりに「選手との信頼関係」と語っていた。たしかに選手と監督との間に溝はあった。そこに嘘はない。だが、それは高いレベルのサッカーの世界では当たり前に起こり得る、想定内の衝突だったはずだ。

 ハリルホジッチ前監督は選手にワールドカップで勝つための高いレベルを要求していた。ついてこられない選手、意図を理解しきれない選手、意見に反対の選手から不満が出るのは当然で、選手たちもそのようなフラストレーションを抱えながらも前に進まないといけないことは理解していた。

 そのような一見すると仲が良いとは言えない集団を見て、田嶋会長は危機感を抱いてしまったのではないか。西野新監督が「代表は崩壊していない」と正反対の見解を持っているにもかかわらず。

 もう1つ考えられるのは、田嶋会長がハリルホジッチ前監督によるサッカーの本質を理解できなかった点だ。今回の解任を決断したのは会長である。技術委員会ではない。西野新監督の言葉を額面通り受け取るなら、技術委員会は前監督のサッカーに一定の評価をしていた。となると、評価していなかったのは会長ということだ。

 ハリルホジッチ前監督は、ワールドカップに向けて詳細なプランを練っていた。日本代表選手に関しては1人ひとりに改善点や本大会で何をすべきかを盛り込んだドキュメントを作成して渡す予定だったという。当然、対戦国の分析も深いレベルでしている。

 それは会長も知っていたはず(知らなければ逆に大問題)。知った上で、それでは勝てないと技術委員会を飛び越えるような形で解任を決断してしまったのは、理解に苦しむ。

ノー準備、ノープランで進む西野ジャパン

 日本においてサッカーは新しいスポーツで、世界トップレベルからは遅れている。それでも世界と戦わなければならないので、日本に足りない部分を世界基準を知る外国人指導者の知見を借りながら進んでいく。ハリルホジッチもその1人だった。

 つまり、残念ながら日本人スタッフと外国人監督との間にはレベル差があり、理解できない部分に関しては外国人監督を信じて「おまかせ」するしかなかったのである。だからハリルホジッチのサッカーが田嶋会長の理解の範疇を超えていたとしてもやむを得ない。

 問題は、そうした状況にもかかわらず、結果以外を見て大きなジャッジメントをしてしまったことである。結果が出ていないのならばともかく、ハリルホジッチ前監督はワールドカップ出場を決めている。次に結果が問われるのは本大会しかなかったのだが…。

 西野新監督は就任記者会見で何も話していないに等しい。のらりくらりとするのはある意味「西野調」ではあるが、そこからは日本代表の未来像は見えなかった。無理もない。西野「技術委員長」はハリルホジッチ監督を解任するつもりはなく、想定外の事態に準備も計画もする時間がなかったのである。

 ノー準備、ノープランで西野ジャパンはスタートせざるを得なくなった。田嶋会長の「こういうときこそ日本人は力を発揮できる」という謎理論のもと。

 田嶋会長のパルプンテによって失ったものは計り知れない。ワールドカップの結果がどうなろうと、4年間の検証をし、次のワールドカップにつなげることができなくなった。土壇場でちゃぶ台を返したら上手くいきました、いきませんでした。それだけがわかる。

 そしてまた上手くいかなくなったらパルプンテが発動される。世界に追いつこうとしても強制的に巻き戻されるアンチユートピアの世界ができあがり、必死に努力している人々に絶望感を与え続けるのである。

(取材・文:植田路生)

text by 植田路生