これまで様々な場所で幾度となく繰り広げられてきた「持ち家が得か、貸家が得か」という論争。どちらの論理展開にも頷けるところはあり判断に迷ってしまうのですが…、「持ち家のほうが得」と断言するのは、元国税調査官の大村大次郎さん。大村さんは自身のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』に、その納得の理由を記しています。

貸家と持ち家論争の真実

家は買った方がいいか、借りた方がいいか、という論争はたびたび起きます。昔から、経済誌や週刊誌などで、「持ち家が得か、貸家が得か」ということが論じられてきました。戦前の雑誌でも、すでにこういう特集はたびたび組まれているのです。そして、そういう記事では「すべての経費を考慮すれば、貸家の方が割安になる」という結論になることが多いようです。

確かに賃貸持ち家では、支出の面ではそれほど大きな差はないので、土地代の値下がりなどのリスクを考えた場合、「家を買ったほうが得」とはいえないかもしれません。しかし、この持ち家、貸家論争には、大きなポイントが二つ抜けています。

精神的な安定感資産価値

です。

またそもそも家賃というのは、家を買うよりも割高に設定されています。家賃というのは、次の数式で算出されます。

家の購入費+諸経費+大家の利益=家賃

一方、家を買った場合、必要とされるお金は次の通りです。

家の購入費+諸経費

つまり、大家の利益の分だけ、家を買った方が得なのです。家賃を払っているということは、大家の利益をもずっと払っているという事なのです。もし、大家に利益がないのなら、誰も大家なんかしません。でも、これだけ賃貸住宅があるということは、大家というのは、それだけ旨みがあるということなのです。そして、その旨みを提供しているのは、賃貸住宅に住んでいる人たちなのです。

持ち家と借家では、トータルの住居費はほとんど変わらない、というような主張をされることもあります。そして“持ち家と借家では住居費は変わらない論”では、「持ち家の場合は、購入費自体は家賃より安いけれど、固定資産税やメンテナンス費用を入れれば、そう変わらない額になる」というようなこういう主張がされます。

しかし、この論には大きな欠陥があります。確かに、家を買えば、固定資産税やメンテナンス費用が必要となります。しかし、それは実は借家でもおなじことなのです。借家にも、固定資産税やメンテナンス費用はかかります。借家の固定資産税やメンテナンス費用は大家が払っていますが、しかし、それは家賃に上乗せされるので、結局払っているのは借主なのです。つまり、家賃と言うのは、固定資産税やメンテナンス費用も含まれているのです。

が、同じような間取りでも、「家賃」と「家の購入費」がそう変わらない、というような計算結果が出たりすることもあります。しかし、これにもカラクリがあります。同じような間取りであっても、借家と分譲住宅では、家の設備等が全然違うのです。賃貸アパート、賃貸マンションなどの場合、分譲住宅よりもかなり格安な設計になっています。つまりは、ボロいということなのです。

賃貸住宅の家賃は、購入費よりも安い(もしくは同じくらいの)ように見えますが、実は、賃貸住宅の方がボロイだけなのです。

持ち家には「安心感」というメリットもある

しかも、持ち家のメリットはそれだけではありません。持ち家には、「安心感」というメリットもあります。というのも、持ち家があれば、家賃は払わなくていいからです。これは、不況が続く現代だからこそ、より意味の大きいことだと思われます。

昨今では、サラリーマンといえども、「将来安泰」とはいえなくなりました。会社が倒産したり、リストラされたりして、路頭に迷う可能性も多々あるのです。そんなとき、家を持っているのと持っていないのとでは、大きな違いがあるのです。

たとえば、50歳くらいでリストラもしくは肩たたきをされた人がいるとします。この人が、もし家を持っていたなら、そう慌てなくて済みます。ローンが残っていたとしても、退職金で何とかなるでしょう。後は食う分だけを稼いで、年金まで食いつなげばいいのです。食う分だけならば、アルバイトでも何とかなるはずです。だから、再就職の選択肢もぐんと広がるのです。

しかし、家を持っていなければ大変です。どんなに切りつめても、生活費はそれなりにかかります。アルバイトだけで生計を立てていくのは至難の技です。必然的に、再就職の幅は狭まります。50歳を過ぎた人を正社員として雇ってくれるところはなかなかないでしょう。家というのは、いざというときの拠り所になるわけです。

筆者は、ホームレスやネットカフェ難民などの取材をしたことがあります。ホームレスやネットカフェ難民が、放浪生活を余儀なくされる過程を見ていくと、「家賃」が重要なポイントになっていることがわかります。というのは、彼らのほとんどは、「家賃を払えなくなった時」が、放浪生活の始まりとなっているからです。

彼らの中には、若いころにちょっと手を伸ばしていれば、家を持てた人もかなりいると思われます。ホームレスやネットカフェ難民の方の中には、元エリート・サラリーマンなども時々います。彼らはサラリーマン時代、家を買う余裕はあったはずです。サラリーマン時代に家を買っておけば、彼らは路上生活に陥る可能性は低かったものと思われます。

またエリート・サラリーマンに限らず、元職人さんや、元労務者の方など、昔は羽振りを利かせていたような人もけっこういました。そういう方々も、ちょっと頑張れば、郊外の小さなマンションくらいは持てたはずなのです。

また“家”を持っている人と持っていない人では、心理的にも大きな違いがあります。“家”を持っている人は、収入が少なくても自分のことを貧乏だとは思わないでしょう。それは、人生を楽しく生きていくうえで非常に大きな要素ではないでしょうか?

持ち家の最大のメリットは、資産形成

持ち家のメリットはそれだけではありません。持家の最大のメリットは「資産形成」だといえます。家賃は払ったお金はすべて出ていくのに対し、持ち家の場合は、払った家の購入費(ローンなど)は、すべて「家」という資産を形成していくことになります。家賃は、何年払っても払いっぱなしですが、家のローンは全部払えば、家が自分のものになるのです。「持ち家と借家では、様々な諸経費を考慮すればそれほど変わらない」という主張には、この部分がすっぽり抜け落ちているのです。

家が自分の所有物であるということは、いざというときに非常に有利になります。人生というのは、いつまで続くかわかりません。平均寿命で死ぬ人というのは、全体の半分しかいないわけです。平均寿命より長く生きる人は、全体の半分いるわけです。つまり、あなたも平均寿命より長生きする確率が50%あるわけです。

で、借家の場合は、長生きすればするほど不利になります。借家の場合は、常に家賃を払っていないとならないので、住んでいる時間が長くなれば長くなるほど、住居費の総額は増えるからです。

しかし、持ち家の場合は、その逆です。長生きすればするほど有利になるのです。ローンを払い終われば、あとは固定資産税だけ払えばいいわけです。だから、老後の生活を考える上では、持ち家の方が圧倒的に有利なわけです。

また家が自分の所有だった場合、もし、不意に多額のお金が必要になった場合、持ち家を持っている人は、それを担保にして、お金を借りることもできるし、いざとなれば売り払ってお金を作ることもできます。

しかし、借家ならばそんなことは一切できません。つまり、借家の場合の住居費は、払いっぱなしで終わりですが、持ち家の場合の住居費は、蓄積されていくわけです。

持ち家の最大のデメリットは地価の値下がり

持ち家の最大のデメリットは、地価の値下がりです。バブル崩壊時のような地価の値下がりが起きれば、高い家を買った人は資産を大きく目減りさせられることになります。こういう事態が起きれば、さすがに、「持ち家は損」ということになります。

しかし、それも本当に損をするのは、一番高い時期に家を買った人だけです。しかも、本来、売るつもりで家を購入しているわけではないので、基本的には家の値段が下がったとしても、損にはなっていないのです。購入時に無理のないローンを組んでいれば、地価が下がったとしても、ほとんど影響を受けることはないのです。いざというときに売却するときに、売却代金が減るというだけの話なのです。

バブル崩壊時のような大幅な地価の下落は、そうそうあるものではないので、相対的に見れば、持ち家の方が断然、有利だといえるのです。

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