酒を日常的に飲み続けると、体のあちこちに影響が出る可能性がある(写真:polkadot / PIXTA)

新しい出会いに満ちたこの季節。新歓コンパをはじめ、飲酒の機会が増える社会人も多いだろう。夜ともなると、リクルートスーツをまとった男女が道端や駅ホームのベンチに寝転がっている姿もちらほら。

酒に酔って楽しい気分になるのも悪くないが、体調を崩してしまっては元も子もない。アルコールを摂取しすぎると、まず睡眠障害のリスクが増す。

アルコールは入眠を促進するが、睡眠中に目が覚める中途覚醒や、早朝に目が覚める早朝覚醒も多くなり、全体として睡眠の質が低下する。これは、アルコールが体内で分解されるときに発生するアセトアルデヒドが原因だ。

たとえば、ビール中びん1本もしくは日本酒1合のアルコールであれば、肝臓が代謝するには普通1時間かかるため、寝るまでに3時間ほど空けないと睡眠に影響が出る可能性がある。

アルコールによって睡眠時に無呼吸になるリスクも大きくなる。熟睡できなければ、体の疲れが取れず疲労がたまり、背中や肩や筋肉などのコリが取れず、慢性的に体が痛い状態が続いてしまう。

1週間にビール中びん6〜7本が限度

飲酒に伴うリスクを見積もり、飲酒量の目安を示す動きがある。イギリスでは、週に14ユニット以上のアルコール摂取を避けることが推奨されている。1ユニットは純アルコール8グラムを表すため、14ユニットでは112グラムになる。

ビール中びん1本(500ml)だと純アルコールが20グラムになり、6本飲むと14ユニットを超える。ワインボトル1本(750ml)だと72グラムになり、2本目を半分空けたところでほぼ14ユニットを超えてしまう。日本酒1合(180ml)だと22グラムとなり、5合飲めば14ユニットに達する。これ以上の量を習慣的に服用すると健康への害が無視できないという。

一方、日本のガイドライン(厚生労働省)では、「1日平均純アルコール20グラム程度」が節度ある飲酒量とされている。1週間で140グラムということは、ビール中びん7本、ワインボトル2本、日本酒7合が限度になる。

イギリスにせよ日本にせよ、この目安を知って内心ビクッとした方もいるのではないだろうか。もし体の調子が上がらないとしたら、それは飲酒が原因かもしれない。

酒を長期間、日常的に飲み続けると、他にも体のあちこちに影響が出る可能性がある。アルコールは神経に対する毒性があるため、足先や手先がしびれたり(末梢神経障害)、認知機能の障害を起こしたり(中枢神経障害)する場合がある。男性ホルモン(テストステロン)の分泌量を減らす作用もあり、性欲が減退するだけでなく、骨粗しょう症や筋肉量の減少、意欲の低下などを引き起こすこともある。

アルコールは体を痛める原因となるのだ。こうした持続した体の痛みは慢性疼痛とも呼ばれ、海外では「病気」とみなされている。

飲酒は腰や膝を痛める

さらに、アルコールは食欲を増進させるため、つい食べ過ぎてしまうことがある。食べ過ぎによる体重増加は、特に下半身への負担増となり、腰や膝が痛む原因にもなる。

筆者の元を訪れた60代の男性患者は腰と膝が痛いと訴えていた。男性は筆者の元を訪れる前、大学病院も含め多くの医療機関で検査を受けたが、特に大きな異常は見つからず、鎮痛薬や湿布を処方されただけだった。だが、ほとんど効果はなかったという。

こうした事情を聞いた筆者は、男性の状況を詳細に把握する必要を感じ、時間をかけて診察した。

この男性は海鮮料理を主としたレストランのオーナーシェフだった。毎朝6時頃に魚市場に出かけ、寝るのは夜11時頃という日々を送っていた。シェフだけに立ち仕事が多く、かなりの重労働を若い頃から続けてきたためか、年の割にガッシリした体つきで筋力も十分にあった。ただ、40代半ばから徐々に体重が増加し、筆者の元を訪れた頃には90キロを超えていた(身長175センチ)。

男性が太った原因――。それは彼の日課にあった。風呂上がりの就寝前、レストランの食事の余りものをつまみに、350mlのビールを2缶飲んでいたのだ。

習慣とは恐ろしいもので、仕事を終えて片づけが済んだ後、ほっと一息つくために始めたものの、気付けば休日も含めて毎日飲んでいたという。聞けば、アルコールが好きなわけではなく、気持ちを切り替えるために飲んでいるとのことだった。

そこで、仕事中に気分を切り替え、かつ体が固くなるのを防ぐために、簡単なストレッチング(1回3分程度)を1〜2時間ごとに行うことと、ビールをノンアルコールのものに替え、つまみも少なめにするように指導し、2カ月後に再診に来るよう伝えた。

再診に訪れた男性は診察室に入ってくるなり、満面の笑みを浮かべて開口一番こう言った。

「先生、とても楽になりました。膝や腰の痛みもそうなんですが、体中が楽になりました。朝起きたとき、こんなにすがすがしく感じられるのは久しぶりです!」

酒は…されど万病の元

男性はノンアルコールビールに替えて、つまみもほとんど食べなくなった。体重も2カ月間で7キロ減り、熟睡できるようになったという。男性自身には熟睡できていないという自覚はなかったが、熟睡できるようになった今では以前の眠りが浅かったと感じているそうだ。

健康に対する男性の意識は向上し、3回目の診察時には「もう少しやせたい」と希望した。筆者は漢方薬の処方以外は何もせず、男性はその後ほぼ完全に体が痛まなくなったという。

この男性に限らず、酒を減らしたりやめたりするだけで、「熟睡できるようになった」「全体的に体調が良くなった」と話す患者さんがたくさんいる。

「酒は百薬の長」とよく言われるが、その後に「されど万病の元」と続くのはあまり知られていないようだ。