これまで「仲良し」だった両首脳だが、すでに関係は変化している(写真:ロイター / Jonathan Earnst)

現地時間4月17日と18日に、フロリダ州にある大統領の別荘で再び会談を行う安倍晋三首相とドナルド・トランプ大統領。ここでは「共通の目的を持つ2人の旧友の再会」という印象を与えるべく、あらゆる努力が払われることになるだろう。しかし、実際は、両国間には貿易に始まって北朝鮮、ロシア、イランに至るまでの外交政策を含む重要な問題について、大きな亀裂が広がっている。

が、両首脳にとって、こうした緊急な課題にどう対処するかは、国内政治によって決まることになる。フロリダの日差しのなかで、両首脳ともに頭上に重く覆いかぶさる暗雲を抱えながらの会談となる。それは不祥事、憲政の危機、そして退陣の可能性、という暗雲だ。

シリア攻撃は注意をそらす手段

連邦検察官とロバート・ミューラー特別検察官が容赦なく詰め寄るなか、トランプ大統領にとって対シリア武力行使は、注意をそらすのにもってこいの手早い手段だった。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉の話をしたかと思うとすぐに日本との2国間貿易協定を要求する、というようにくるくる変化する大統領の貿易政策は、支持者からの相反する圧力を鎮めようとする試みを反映したものだ。

安倍首相も同じように自身の政治的苦境に頭を悩ませているところだ。いったん葬り去られたはずの森友・加計問題の再浮上である。もみ消しの罪を改めて問われ、首相が個人的に関与した案件であると官僚側が記録した複数の文書も新たに公開された。

急遽調整された17日の会談は、トランプ大統領が北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談を決めたことに端を発したものだったかもしれない。だが今では、安倍首相にとっては、米国との同盟関係を維持していることをなんとしてでも実証しなければならない、ほとんど切実ともいえる必要性に迫られたものとなっている。

「安倍首相は会談で何らかの成果を得なければならない」と、トランプ政権の高官は語る。 安倍首相の当面の目標は、最近発表された鉄鋼とアルミニウムに対する追加輸入関税の対象国から日本を除いてもらうこと、そして金委員長との会談の際に日本の拉致被害者問題を取り上げると約束させることだ。

安倍首相はまた、米国が北朝鮮と協定を結ぶことで日本が事実上の孤立状態になることを恐れている。北の長距離ミサイルを抑制させることに力を入れるあまり日本が中距離弾道ミサイル攻撃にさらされることにならないよう、再保証を求めている。

「鉄鋼・アルミ関税免除に成功して帰らなければ、安倍首相にとっては死の宣告と同じだ」と、前出の米政府高官は話す。「拉致問題については、トランプ大統領が、実際に北朝鮮側に話を持ち出すかどうかは疑わしいところだが、持ち出すとは言うだろう。しかし、北朝鮮に関してトランプ大統領が安倍首相に対して言うことは、すべてリップサービスとなるのではないか」。

FTA交渉を迫られる安倍首相

一方、トランプ大統領は、貿易不均衡に対して厳しい姿勢を示す必要がある。たとえそれが米金融業界を怒らせ、輸出農作物の生産などにかかわる支持者を失うリスクがあるとしても、だ。

共和党幹部の会合ではTPP再加入について話したトランプ大統領だが、その翌日には完全に再交渉されなければ参加はないとも表明している。また、日本については、「何年も私たちを貿易において苦しめてきた国」とツイッターに投稿しており、2国間貿易協定について協議される予定である。

安倍首相が鉄鋼・アルミ関税の免除を得たいのであれば、米国側のメッセージは明らかだ。「米国側には、日本が2国間貿易協定(FTA)に関して、一歩も譲ろうとしないという失望感が広がっている」と、前出の高官は話す。

安倍首相は現在、非常に難しい立場に立たされているが、安倍内閣の高官はこの可能性を拒否する声明を発表し、TPP11の交渉再開にも反対した。さらに重要なのは、自民党の重要な支持基盤のひとつである農村部が、2国間交渉に入ることに強く反対していることだ。交渉の焦点が、TPPですでに合意済みの事項を超えた日本の農産物の市場開放圧力にあることは確実だからだ。自動車もまた、米国の議題のトップに上ることは間違いない。

安倍首相は尻込みするかもしれないが、明確なタイムリミットを設けずに2国間FTA 交渉を行う意思があることは、口頭で示す必要があるかもしれない。TPPへの加入を再検討するというトランプ大統領の意思表明が少しはこの隠れみのとなってくれるかもしれないが、日本側はそれが大方無意味であることをすでに知っている。

それでも、トランプ政権に詳しい人物が話してくれたことによれば、「この会談の後でトランプ大統領に必要なのは、日本に新しい貿易交渉に入らせることを余儀なくさせた、と自慢することであり、結果ではない」。

安倍首相はその代わりに、韓国がトランプ大統領に提供したのと同じようなものを提供するかもしれない。すなわちFTA交渉を回避させるような、一度きりの名目上の譲歩だ。

「名ばかりの譲歩」をどこまでできるか

「FTAについて文句を言うことはできるが、それは安倍首相にとって優先事項ではないのではないか」と、元国務省高官およびホワイトハウス高官で、戦略国際問題研究所(CSIS)の国際政治経済担当部長であるマシュー・グッドマン氏は話す。

「市場アクセスに関しては名ばかりの譲歩となる可能性が高い。TPPの牛肉と豚肉の開放や、おそらくその他の何らかの(コメ以外の)農産物の開放に向かえるよう、何か手段を持っているかもしれない。自動車安全規制に関しても何か手を打てる可能性がある。これがトランプ大統領の不満の種なのだから」

トランプ大統領は、ほかにも2つの領域で安倍首相にプレッシャーをかける可能性がある。どちらも日本国内で反発を引き起こすことが予想されるが、以下のような要求だ。

トランプ大統領は長い間、日本や韓国といった国は米国に「守ってもらっている」のだから、貿易黒字の補償としてもっと米国に対してカネを支払うべきだと信じ、これを主張してきた。政府高官によると、トランプ大統領は、米軍基地に対し「ホスト国」としてより高いレベルの支援を求めてくるかもしれない。日本は土地賃料や基地で働く労働者にかかわる費用の約7割をすでに支払っているが、トランプ大統領はそれを100%に引き上げろと言ってくるかもしれない。

もうひとつが米国製兵器の購入だ。安倍首相はF-35戦闘機などの購入の加速や拡大を発表するよう圧力をかけられる可能性がある。これこそトランプ大統領が細心の注意を払い、同政権の経済的勝利として公表したい、と考えている分野だからだ。


昨年11月、都内での両首脳(写真:ロイター / Kiyoshi Ota)

会談では、北朝鮮問題についての発言も注目される。日本の政府関係者は、トランプ大統領が北朝鮮との協定を受け入れ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発計画をやめたとしても、日本を脅かす中距離ミサイルはそのまま残すことを危惧してきた。

新たな懸念もある。韓国政府主導の関係強化の動きを受け、金委員長と首脳会談を持つという驚きの合意が発表されたためだ。先週の米上院の指名公聴会で、次期国務長官に指名されたマイク・ポンペオ氏が、米国の脅威を終結させる政策目標を述べたことを、日本の政府関係者は聞きもらさなかった。

同盟国が不安になるときがやってきた

北朝鮮に長年かかわってきた元米高官からは、北朝鮮との協議に対する不安の声も少なくない。

「トランプ大統領にとって北朝鮮からの核の脅威は、同盟国やパートナーだけでなく、米国自体を守る極めて重要な問題といえる」と、国務省元当局者のエバンス・リビア氏は分析する。「あけすけの国家主義と『米国第一』を基本原則とする大統領が、これからほぼ米国に対する脅威のみに的を絞る可能性の大きさについて、過小評価すべきではない」。

「上院でのポンペオ氏の発言は、こうした考え方を明言したものといえなくもない。そうであれば、大統領が間近に迫った米朝首脳会談について、なぜあんなに楽観的なのか説明がつく。同時に、米国の同盟国が不安になるときがやってきた、ということだ」(リビア氏)。

こうしたなか、安倍首相がほしいのは、「日本の声は十分届いており、置き去りにするようなことはない」との口頭による確約であり、トランプ大統領にそれを求めることは間違いない。そして、その確約を得られる可能性も高い。国家安全保障アドバイザーとしてジョン・ボルトン氏が任命されたことも、ある程度の安心感につながる。

ボルトン氏の元同僚である国務省元高官によると、同氏は大変な親日家であり、同盟の重要性を固く信じている。また、安倍首相や日本の保守派の中国や台湾に対する見解も共有している。

ただし、米朝首脳会談が結果的に日本を深く孤立させることになるのではないか、との懸念が和らぐわけではない。安倍首相にとって、これは外交問題にとどまらない。これは国内の政治問題でもある。なぜなら日本の首相が誰であれ、米国政府と明らかに歩調の合わないような政治をするわけにはいかないからだ。

すでに魔法は消えてしまった

これに関連し、ほかにも2つの不気味な危機が迫っている。1つは、日本が強く支持しているイランの原子力開発協定からの離脱の可能性だ。もう1つは、直接的な衝突とまではいかずとも、ロシアとの緊張の増大である。今のところはシリア攻撃によってこれらの危機が回避されたようだが、危険性は去っていない。


安倍首相は日米首脳会談において指導者らしい姿をみせることができるだろうか(写真:ロイター / Issei Kato)

安倍首相はシリア攻撃を支持したが、ウラジミール・プーチン大統領との北方領土問題交渉の見込みがこじれるのを懸念する首相は、直接ロシアと対抗するような措置を支持しないようにも気をつけている。安倍首相は、ロシアが英国内で神経剤を使用して元二重スパイを襲った事件に対する米国と欧州の制裁措置にも積極的には参加しなかった。

フロリダの会談で何が起こるかはわからないが、日本側は、安倍首相とトランプ大統領の魔法がかかったかのような相性の良さはすでに消えてしまった、という認識を強めている。これは主に、大統領自身が泥沼にはまっていることによるものだ。

日本側は、今ではトランプ大統領の関心の焦点が自国の有権者にあることを理解している。したがってこの会議の主題は、北朝鮮ではなく貿易なのだ、ということも。こうした中で安倍首相は、日本の利益のためにはこの人が首相の座にとどまり続けるべき、と日本の有権者が思えるような、指導者らしい姿を示せるだろうか。