万能調味料「めんつゆ」がなぜ万能なのか?″めんつゆ警察″に知って欲しい、原点と歴史

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Rettyグルメニュースをお読みの皆様、こんにちは。「むむ先生」こと、杉村です。

ライター紹介

杉村啓
日本酒ライター、料理漫画研究家、醤油研究家。 日本酒の基本から歴史・造り方までを熱く語った『白熱日本酒教室』やタモリ倶楽部でも紹介された醤油の奥深さを書いた『醤油手帖』など、食に関する書籍を多数執筆。「むむ先生」として食のコラムや紹介を各メディアで担当。8月末には、グルメ漫画の半世紀を辿る新著『グルメ漫画50年史』を上梓。 ブログ

「むむ先生の"食"超解説シリーズ」の21回目のテーマは、「めんつゆって、作るのがどれぐらい大変なの?」です。

「めんつゆを料理に使うなんて(きちんと自分でダシをとって自作しないなんて)」みたいな炎上は、SNSで定期的に起きていたりします。

これはめんつゆを作るために、どれだけ多くの人が試行錯誤しているかを知らない人が発言しているのではないでしょうか。

今回は、めんつゆの歴史と、その作り方を見てみることにしましょう。なお、ちょっとややこしくなるので、ここでは「めんつゆ」と言った場合には、市販の「めんつゆ」のことを指すことにします。

めんつゆの原点は「そばつゆの作り方」にあった!

「めんつゆ」はその名の通り、うどんやそばの麺類につけるための調味料です。ということは、源流は蕎麦屋のつゆなどにあるのは間違いありません。

蕎麦屋のつゆ…いわゆる"そばつゆ"は、基本的に「かえし」と「ダシ」から作ります。

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「かえし」は醤油、みりん、砂糖から作るのですが、全く同じ材料や分量でも、作り方によって味わいが変わるのです。

ちょっと種類を簡単に紹介しましょう。ちなみに一番標準的な分量は、「1斗(醤油18リットル)・1升(みりん1.8リットル)・1貫目(砂糖3.75kg)」です。

次に、「かえし」の種類とその作り方を説明します。

本かえし

まず醤油を加熱し、砂糖を溶かします。その後にみりんを加えてアルコールが飛ぶまで煮きり、冷まします。

生かえし

少量の水に砂糖を溶かし、加熱します。別の鍋でみりんも加熱して煮きります(みりんで砂糖を溶かすものもあります)。この2つと加熱していない醤油を加え、よく混ぜます。

半生かえし

少量の醤油を加熱して、砂糖やみりんを加えて溶かします。その後に、残りの醤油を加えます。

こうしてできあがったものを、さらに1週間から2週間ほど(製法によって変わります)寝かせることで、醤油の角が取れ、よりまろやかになります。

そして、続いては「ダシ」です。「ダシ」は、主にかつお節を用います。これは、醤油の旨味成分であるグルタミン酸と、かつお節の旨味成分であるイノシン酸とが、相乗効果を起こすためです。

「かえし」の熟成が終わったら、「ダシ」を加えてそばつゆが完成します。

つゆの主役は醤油?ダシ?

では、そばつゆの味わいを決める、決定的な部分は「かえし(醤油)」と「ダシ」のどちらでしょうか?

市販されている「めんつゆ」では「かつおダシが決め手!」「本枯節」「一番ダシ」「削りたて」など、かつお節のダシに関する宣伝文句が一番多いことに気づきます。

また「昆布ダシの豊かな味わい」「飛び魚ダシ使用」などを見ても、ダシが主役のように思えます。

ですが、実際には門外不出と言われているのは「かえし」の方が多かったりします。ダシは弟子に引かせても、かえしは主人自らが作る・・・そんなことを耳にしたことありませんか?

ということは、味わいの主役は実は「かえし」にあると言えそうです。

従って、本格的なそばつゆを実際に作ってみようとすると、本かえし、生かえし、半生かえしとどれにすればいいのかも難しいですし、熟成させるのも大変…となるでしょう。もちろん、ダシを引くのも大変です。

そこでこういった、秘伝の味を家庭で手軽に味わえるよう生み出されたのが「めんつゆ」なのです。

すっかり普及した「めんつゆ」

めんつゆは、1952年に中京地方のメーカーがめんつゆ(つゆの素)を販売したのが最初と言われています。つまり、70年ぐらいの歴史があるのですね。

だんだんと売り上げを伸ばしていき、1994年にはとうとう購入金額で醤油を逆転。以後は、めんつゆの方が多く売られています。

めんつゆは大きく分けると、希釈して使う濃縮タイプと、そのまま使うストレートタイプがあります。

一番の違いは、中の塩分やアルコール濃度でしょう。5倍希釈つゆは、塩分が平均18%とかなり高く(普通の濃口醤油が16%ぐらいです)、ストレートタイプは約3.2%となっています。

アルコール濃度は5倍希釈つゆで3.5%、ストレートタイプで0.7%です。

これはどうしても、市販品として販売する上では、微生物が発生しないようにという面があります。塩分濃度とアルコール濃度が高いと、微生物が発生しにくく、腐りにくいというメリットがあるのです。

というわけで、保存性は5倍希釈の方が優れているのですね。

ただ、どうしても塩分濃度を高めるために醤油の割合が増えてしまうため、ダシなどがあまり多く加えられなく、風味としてはストレートタイプの方が上だと言われています。

市販のめんつゆはクオリティが高い!

確かに昔は、めんつゆを購入するのではなく、つゆも家庭で作るということが多くありました。

昭和の時代を舞台にしたマンガなどで、冷蔵庫に入っていた麦茶を飲もうとしたら自作のそばつゆだった、というネタを見たことがあったり、実際に経験したことがある人もいることでしょう。それぐらい、当たり前のことでもありました。

今ではそんなことはほとんど聞かなくなりましたし、ネタとしてもほとんど見ることはありません。これはやっぱり、つゆを作ることが大変であることと、市販のめんつゆのクオリティが高くなってきたからなのです。

醤油よりも多く消費されているのですから、その分さまざまなメーカーが参入し、日々試行錯誤をして新商品を送り出しているのですね。

自作しようとすると、「かえし」はどういう「かえし」がいいのか、「ダシ」はどういう素材を使えばいいのか、みりんはどうする、砂糖はどうする、醤油はどうする、と試行錯誤することになります。

それよりも、市販されているめんつゆの中から、自分の好みを探す方が簡単なのです。

めんつゆは、作り方から見てもわかるように醤油、砂糖、みりん、そしてダシが合わさった混合調味料です。

和食の味わいを決めるという、「さしすせそ」のうちの、「さ」「せ」がバランス良く入っている上に、ダシの旨味も加わっています。

ならば、普通に調味料として使っても、醤油よりも簡単に味がバシッと決まるのです。そうして今や、めんつゆは日本を代表する、万能調味料となりました。

もちろん自作することは悪いことではありませんし、それはそれで美味しいですし、否定する気はありません。

でも、めんつゆ作りはとても大変ですし、味をバシッと決めるのも、結構大変です。作れと強要するのは良くないということですね。

【むむ先生のイチオシ調味料〜めんつゆ編〜】

最近のお気に入りのめんつゆは、回転式そうめん流し、発祥の地である「唐船峡のめんつゆ」です。

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甘い醤油で有名な地域である鹿児島のものだけあってか、ストレートタイプの甘めのめんつゆです。

鰹ダシの風味も強く、香りも濃厚ですが、後味はかなりあっさりしています。このめんつゆでそうめんを食べると、いくらでも食べられちゃいそうです。

もちろん、他のさまざまな料理にも使えます。味が気に入ったら、ストレートタイプだけにあっという間に消費してしまうので、そういう方は1リットルタイプを買う方がいいかもしれません。