秋元祥治『20代に伝えたい50のこと』(ダイヤモンド社)

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自己啓発の世界では「夢に日付を入れる」とか「夢を手帳に書いていく」という手法が知られています。しかし岡崎ビジネスサポートセンター(OKa−Biz)で8000件以上の経営相談を受けてきた秋元祥治さんは「はっきりとした夢と目標(to do)を持たねばならない、という強迫観念のほうがよっぽど不健全」といいます。秋元さんの著書『20代に伝えたい50のこと』(ダイヤモンド社)から、その理由をご紹介します――。

■夢から目標から逆算する方法は重要だけど

正直に言うと、大学生の頃とか「将来の夢」ってありませんでした。いや、大学生の頃だけでなく、もしかすると今も「これを実現したい」という夢はないのかもしれません。

でも、はっきりした夢がなくてもいいんじゃないかと思っています、今。

20歳前後の僕は、将来の夢を聞かれることが嫌でした。何か「これ!」というものは自分の中にないのに、周囲のオトナに夢を語ることを期待される。そして、はっきりとした夢がないことに、どこかオトナからがっかりされてしまう、そんな風に感じていたのです。

これまでの自己啓発的な本だって「夢に日付を入れる」とか「夢を手帳に書いていく」とかといったものが多かったように思います。

■イチロー、本田圭佑、石川遼……

夢や目標から逆算していくことが、それを実現するために大事なことなんだと言われてきました。そして、イチロー選手の小学校の作文はあまりにも有名ですよね。

「僕の夢は、一流のプロ野球選手になること……」との書き出しからはじまり、逆算をしながら小学校の日々での野球への努力の仕方まで落とし込まれたもの。

明確にこれがやりたいのだ、ということがあるのであればこうして逆算をしていくということはとても大事なことだと思います。サッカー選手・本田圭佑さんやゴルフ選手・石川遼さんの小学校時代の作文も同じように、夢から逆算し具体的に描かれているものだと注目されました。本田選手は「Jリーグ、セリエA、そしてワールドカップの決勝でブラジルに2対1で勝つ」といった夢からブレイクダウンして描かれていました。そして、石川選手は「日本アマチュア選手権、日本オープン、そしてマスターズで二度優勝」といったところまで具体的な目標があり、そしてそこへの道筋として「みんなが一生懸命練習をしているなら、僕はその二倍、一生懸命練習をやらないとだめ」だと記しています。

■夢や目標を定めた逆算思考にも限りがある

確かに、夢や目標から逆算していくことはとても重要だし、できることなら、そうしたらいい。けれど、はっきりとした夢がなくても、別にいいんじゃないかと思うのです。はっきりとした夢と目標(to do)を持たねばならない、という強迫観念のほうがよっぽど不健全ではないでしょうか。

まして、遠く未来の夢や目標を定めても社会がどんどん変わっちゃう世の中です。前提とする社会が変わってしまうのだから、夢や目標を定めた逆算思考にも限りもあると思いますし。

10年前にはスマホはなく、20年前にはインターネットも一般的じゃなかった。30年前には携帯電話もごく限られた人のツールだった……今の中学生あたりには、信じられない話でしょう。鉄鋼や造船業に行くことが花形だった時代も、証券会社が勝ち組と言われた時代ももう昔となりました。そんな激しい変化の中で、一度決めた夢と、その道筋に固執することはもはや現実的ではないのではないでしょうか。

やりたいことを見つける方法として「目についたら行ってみる、誘われたら断らない」という考え方を紹介しました。様々な人や物事に出会う中で、自身が大切だと思うもの、ちょっと違うと感じるもの……様々なことを相対化することが大事だということ。そしてそんな中で、価値観が形成されるのだ、モノサシが少しずつ形作られていくと思うのです。

■「どうありたいか」があれば十分

社会も時代も変わっていく中で、でも自身がどうありたいか(to be)というモノサシがあれば、変わりゆく中でも判断できるのではないでしょうか。そして、自分らしくあるための意思決定と行動をしていけるのではないだろうかと思うのです。

決まった夢がないことに引け目を感じなくたっていい。大事なことは目の前のことに、真剣に取り組むこと。その中で、自身が大切にしたい価値観・モノサシを意識すること。

どうなりたいかなんてわからなくても、「どうありたいか」がおぼろげながらでもあればいい。モノサシを持って日々を過ごせば、自身の価値観に合致した環境や機会を呼び寄せるのだと思います。

夢や目標は描かない。価値観やモノサシは大切にする。

夢や目標は、常に変わりゆく「仮置きの存在」として、柔軟に見直していけばいいんです。大事なことは、日々の判断を支えるモノサシ。自身が大事にすること、どうありたいかが重要なのです。

■「10歳上の先輩の今」と「今の自分」を比べなくてもいい

師匠を持つことの大切さを、先にも書かせてもらいました。目指す人がいるからこそ、そこに向けての道筋を逆算して描くことができます。師匠や、憧れの先輩を持つことは自身の先々を思い描く上でとても重要なことです。

一方で、目指すべき師匠や先輩の存在と今の自分を比べると、とても大きな差があるように感じてあまりにも自身が無力なのではないかという気持ちにさいなまれることもまた、あります。

15年前、僕が21歳でG−netを始める時、憧れ、そして強く意識をしたのは、北海道のYOSAKOIソーラン祭りでした。大学生4人が言い出しっぺとなり始まったお祭りも、当時すでに200万人規模となっていて、その迫力に圧倒されました。創始者の長谷川岳さん(現・参議院議員)は19歳・大学2年の時に立ち上げたものです。

実際に当時長谷川さんにお会いし、自身とのあまりの差に衝撃をうけ、なんだか卑屈な感覚すら覚えました。ただ、その時、長谷川さんは30歳、僕は20歳。今の僕と、今の長谷川さんの間には圧倒的な差があるけれど、そこで落ち込んでもしようがない。大事なことは、10年後の自分自身が、今の長谷川さんと肩を並べるようになっていればいいんだ……と言い聞かせることにしました。

■「先輩との差」にガッカリする必要はない

今だってそうです。売上アップに特化した中小企業相談所の金字塔・富士市産業支援センターf−Bizの小出宗昭さんを師として、OKa−Bizセンター長を拝命し、はや4年。ある程度OKa−Bizでも成果を出すことができた……と思い、しかし比べてみればその差は歴然としていることに唖然とします。

小出さんが、中小企業支援の世界に足を踏み入れたのが2001年。僕がOKa−Bizを始めたのが2013年のことですから、12年の差。そりゃ冷静に考えれば12年分のキャリアの違いが成果に表れて当然。それでも悔しいし、もっと力をつけたい、と思う。だからこそ、12年後に今の小出さんのような力をつけられるように、と思うのです。そして、今の僕が比べるとすれば12年前の小出さんでしょうし。

入社をしてしばらくの時期は、とにかく何もできないし、新たな環境に慣れようと必死だったでしょう。そしてそれが一段落すると、あらためて先輩社員との力の差を感じる機会も多いのではないでしょうか。

たとえば10歳上の先輩と今の自身を比べて「自分、まだまだだなぁ」と思ったりして、なんだかしょんぼりしてしまうこともあるかもしれません。

でも、比べるべきはその先輩の10年前と、今の自分。あるいは、10年後の自分と、今のその先輩。そう思えば気持ちはすっと軽くなるのではないでしょうか。そして、その差を埋め、さらには追い抜いていくためにはどうしたらいいだろうかと考え、そして実際に行動していけばよいのです。

■ベンチマークする存在は「近道」と同じ

さらに、10年後の自分が、今のその先輩を追い抜いていくためのヒントは、その先輩にあるのです。どうしたら、その力を身につけることができるのか、聞けばいいのです。やり方だけでなく、考え方も、身の振る舞いも徹底的に真似ればいい。真似たつもりでも、絶対に自然と自分なりのやり方がまざるから全く同じにはなりません。

成長の仕方や成果の出し方を学び、自身に活かすことができれば、その先輩以上により速いスピードで成長を重ねていけるのではないかと思います。

目指す先輩の存在があるということは、そうなるための方法や道筋がわかる、ということなのです。だからこそ、10年後の自分が、今目の前の憧れの師匠や先輩と肩を並べ、そしてそれ以上のパフォーマンスをあげられるようになろう、と思い、そしてひとつずつ取り組めばいい。

焦る必要はないし、ベンチマークする存在がある分だけ近道を見つけたんだと思えばよいのです。

10歳上の先輩の今、と今の自分を比べなくてもいいのです。10歳上の先輩の10年前、と今の自分を比べて、成長していけばよいのです。

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秋元祥治(あきもと・しょうじ)
岡崎ビジネスサポートセンター(OKa−Biz)センター長、NPO法人G−net理事(創業者)
1979年生まれ。大学在学中の2001年、21歳で地域活性化に取り組みたいとG−netを創業。中小企業支援と若者をつなぐ長期実践型インターンシップ事業を立ち上げる。一方、2013年よりOKa−Bizセンター長に就任。4年間で8000件を超える相談を受け、売上アップをサポート。経済産業省「キャリア教育アワード」優秀賞、「ものづくり日本大賞」優秀賞などを受賞。早稲田大学社会連携研究所招聘研究員・内閣府地域活性化伝道師。

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(岡崎ビジネスサポートセンター(OKa−Biz)センター長 秋元 祥治 写真=iStock.com)