西田芳明・進和建設工業社長

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2代目として経営に集中していたところ、新聞に取り上げられて、全国から講演依頼が殺到。依頼に応えているうちに、経営が疎かになり、倒産危機に――。中堅ゼネコン・進和建設工業の西田芳明社長は、「そのとき稲盛和夫先生のアメーバ経営に出会って、仕事のやり方をすべて変えた」と振り返ります。危機を救った経営改革の中身とは――。

※本稿は、西田芳明『高収益事業で、無借金経営!中堅建設会社が実践する「家計簿経営」』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■年商43億円の中堅ゼネコンに

私は35歳で2代目社長に就任して以来30年の間、1年365日休まず経営の仕事をしています。私は就任した際に、ある誓いを立てました。

「社長として最優先すべきは絶対に会社は潰さない、社員を幸せにする。次にお客さまと取引先を大事にする」という誓いでした。この誓いがあるため、私は30年にわたり、働き続けることができました。私腹を肥やすためだけならば、とてもこんなには働けません。

後に、この誓いを50字で表しました。「会社の成長発展と社員の物心両面の幸せのため、顧客満足を追求すると同時に社会に役立つ立派な人間をつくる」私が経営する進和建設工業の「基本理念」です。

この会社は父、西田貞雄が1968年(昭和43年)に創業しました。大阪は堺市中百舌鳥地区に本社があります。現在、賃貸マンションおよび住宅の設計・施工、不動産コンサルタント・管理の事業を、関連会社4社を抱え展開しています。私の代で事業拡大をはかり年商43億円の会社になりました。

私は社長就任以来、父から言われた「手形は切らない」という決めごとを守り、加えて「自己資本の3倍までしか工事は受注しない」など、経営数字の決めごとをつくりました。こうした経営における原理原則をつくることで、高収益会社になり、無借金経営を続けています。

■講演で飛び回るうちに、売上高が3分の1に

京セラの創業者で、近年ではJALの再生に尽力した稲盛和夫先生から伝わってくる生きる姿勢は、「謙虚におごらず」ではないでしょうか。

私は「盛和塾」の塾生です。「盛和塾」とは、稲盛先生を塾長に仰ぎ、日々、経営者である塾生たちが経営について学び合い研鑽に努める私塾です。「盛和塾」には現在、全国で約1万人の塾生が集まっています。私も入塾して早いもので20数年がたちます。

私と稲盛先生との出会いですが、社長に就任して10年ほどたった頃、私の中に生まれ始めた慢心がきっかけでした。

ベストな建築システムを確立すべく勉強を重ねていき、「建築費を20%下げ、グレードを10%アップさせれば、他のマンションと比べて3割の差をつけることができる」というローコスト・ハイクオリティマンションの開発によって、会社の収益は増え、かつてのように資金繰りに苦労することもめっきりと少なくなり、経営は軌道に乗っていきました。

この時期、ローコスト・ハイクオリティマンションが、『日本経済新聞』に取り上げられ、この記事を読んだ全国の経営者から講演依頼が殺到。「私の経験を語ることでみなさんの役に立つのなら」と思い、講演活動に力を入れました。

ところが私が講演講師として全国を飛び回っている間に、進和建設工業にはいくつか派閥が生まれ、会社の結束力は格段に低下しました。社員の離職率が高くなり、年々伸びていた売上も下降線をたどり、最終的にはピーク時の売上の3分の1に激減してしまいました。人さまのお役に立ちたいと思って始めた講演活動も、いつの間にか天狗になって話していました。

そして、慢心が知らず知らずに広がっていきました。「このままではあかん……」と焦りを抱えていたときに、稲盛先生が書かれた『心を高める、経営を伸ばす』(PHP研究所・1989年)という書籍に出合いました。

この書籍ですが、最初に読んだときには、あまり理解できませんでした。しかし、2度、3度と読み返すうちに、自分の中で腹落ちするものが少しずつ増えていきました。「もっと稲盛先生に教えを請いたい」と思い、稲盛先生が主宰する「盛和塾」に入塾したのです。

■稲盛経営3つのキーワードと進和の「3種の神器」

先ほどの稲盛先生の書籍ですが、この20年で10回以上読んでいます。読むたびに、言葉の意味を理解できるようになりました。ある機会に、そのことを、稲盛先生に尋ねてみました。
すると、「西田さん、それは西田さんの心が高まり、すべてを受け入れることができるようになったからです。すべてを自分のこととして、主体的に捉えることができるようになってきたからです」と答えていただきました。

たとえて言うならば、今までは1リットルしか入らなかった器が、5リットルぐらいの器になったということなのです。すると視座が高くなり、問題も見えてくるようになります。問題が出たら格闘するようになるわけです。

さて、稲盛経営について簡単に触れますと、3つのキーワードから成り立っています。企業風土・文化である<心のフィールド>、トップの経営哲学である<経営理念>、そして経営管理システムである<アメーバ経営>です。この3つのキーワードが連結し、相互作用を繰り返す中で、企業は成長するのです。

いっぽう、進和建設工業では、経営の「3種の神器」というものがあります。それは、「理念」「事業発展計画書」「家計簿経営」の3つのツールです。

「理念」は、稲盛経営の3つのキーワードの1つである<経営理念>と同じです。さらに、毎年作成している「事業発展計画書」ですが、戦略の方向性や戦術などについて具体的に書くものです。

事業を成長させるためには、現在のお客さまをよく守り、新しいお客さまを加えることです。さらに、現在の事業や商品に新しい事業や商品を付け加えて、輝ける明日を積極的につくることです。そのためには、自社でないとできない特色や売り物を持ち、他社からお客さまを守り、他社と差別化して自社へご依頼いただくことも大切になってきます。

つまり、長期にわたり事業を継続するためには、次々に商品の柱を創造し、お客さまを開拓していくことが必要です。そのために創造力を磨き、多くの革命的なものを捉える才能を育むことです。会社の繁栄とは、お客さま、社会から強く必要とされる商品やサービスをつくり出すことでしか実現できないのです。

■「家計簿経営」の実践で社員に経営者意識を

先ほどの稲盛経営の3つ目のキーワードである<アメーバ経営>ですが、広く知られた経営手法です。稲盛先生が京セラの経営理念を実現するためにつくり出した独自の経営管理手法です。会社の組織をアメーバと呼ぶ小集団に分け、その小集団を独立採算で運営しようと考えたものでした。

アメーバ経営では、各アメーバのリーダーが中心となり、自らの計画を立て、メンバー全員が知恵を絞って努力することで、目標を達成していきます。この経営手法の徹底化によって、現場の社員一人ひとりが主役となり、自主的に経営に参加する「全員参加経営」を実現しています。

この経営手法は京セラをはじめ、稲盛先生が創業したKDDIや再建に携わったJALなど約600社に導入されています。

この「アメーバ経営」を参考にして、中小企業において活用しやすくするためのツールが、「家計簿経営」です。「家計簿経営」の活用によって、「理念」で謳っている事業経営の目的を、売上目標、粗利目標、利益目標、資金計画など具体的な数値で表せるようになりました。

その目的とするところは、「全員が経営者意識を持つ!」ということです。

「家計簿経営」もまた、各部署を「アメーバ」と呼ばれる小集団としてくくり、その月の「売上利益÷労働時間」を算出。時間当たり採算性の最大化を目指します。

この経営手法を採り入れて、2018年で6年目になります。それぞれのアメーバでは、メンバー全員が経営に参加し、自分の意見を述べなければいけない決まりがあります。意見を述べて話し合う場として、毎月開催され、全社員が参加している「家計簿経営業績検討会議」を行っています。

会議後、それぞれのアメーバリーダーは、ディスカッションで出た意見をもとに、問題があればその改善策を講じる必要があります。また、来月に向けての売上増加、時間短縮、時間当たりの採算性を上げるための行動を実行し、目標達成を目指さなくてはなりません。

進和建設工業は2017年で創業50年を迎えましたが、永続的に繁栄する会社であるために、強い財務力で収益力を高めること、強い経営力と組織力を育んでいく中で、経営者意識を持った社員の育成が大事になってきます。

結果、「家計簿経営」を導入してから、利益は確実に伸びました。有効な経営システムは、数字の成果を残しているのです。導入して6年目になると社員の意識が大きく変わり、全員が責任感を持って、目標に向かって走り始めています。

この手法によって、社員の経営者意識はどんどん養われています。将来的に分社の社長として任せることができる社員をたくさん育てることが、今の私の願いです。

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西田芳明(にしだ・よしあき)
進和建設工業 代表取締役社長
1951年、大阪府堺市生まれ。1987年4月に2代目進和建設工業代表取締役社長に就任。「地域密着」で建設事業と資産コンサルティング事業を展開し、これまでに455棟以上の賃貸マンションなどを建築。現在でも入居率95%以上を維持するとともに、さらなるマンションの開発、技術の向上、低コスト化などにも力を注いでいる。著書に『行列ができるマンション経営』(しののめ出版)、『トップは志(ひと)をつくりなさい』(現代書林)、『土地活用の成功学』(クロスメディアパブリッシング)、『頭が勝手に働き出す思考法』(現代書林)がある。

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(進和建設工業 代表取締役社長 西田 芳明)