スタイラーが提供するネット上の新しいショッピングスタイルとは?(写真はイメージ)


「ネットで買うのは低価格の日用品が中心。特に洋服は実際に見て着てみないと分からないからファストファッション以外、ネットでは買わない」──そういう世間の“常識”を打破するO2O(オンライン・トゥー・オフライン)サービスを開発し、国内外から注目される人物がいる。スタイラーの創業経営者・小関翼氏(35)だ。

 従来のように、ネットでキーワード検索をかけるのではなく、同社のスマホアプリに、たとえ拙い表現であっても、「〜のシーンで着る洋服がほしい」とか「・・・なスニーカーがほしい」と言った要望を投稿すれば、首都圏を中心に日本各地の実店舗から、具体的な商品の提案を受けることができる。何回かのやり取りの後、気に入ればそのまま購入することも、実店舗に出向いて試着することも自由だ。また、最初のやり取りは他のユーザーも見ることができるので、自分の購買行動の参考にしているケースが多いという。

 日本のアパレル業界は、長引く低迷ですっかり“守り”の姿勢に入ってしまい、ユーザーが自分の好きなブランドの実店舗に行っても、「買いたいと思えるような商品がない」状況が続いていた。しかし、スタイラーのサービスが出現したことで、ネットを通じて“未知のブランドや未知のデザインと出逢えるワクワク感”を味わえる可能性が出てきた。もちろん、不振にあえぐアパレル業界にとっても新たな売上機会出現の意味は大きい。

 とはいえ、同社の行く末は盤石なのだろうか? そして、同社が進めるアジア戦略にはどのような勝機があるのか?

◎(前編)元銀行マンが開発した、かつてない“洋服の買い方”
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52712

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言語コミュニケーションの壁に挑む

 ユーザーと実店舗の間のコミュニケーションはスマホアプリ「FACY(フェイシー)」のメッセージ機能を使って行われる。そこに投稿されるのは基本的に短文で、しかも時として稚拙な文章である。そこからユーザーのニーズを的確に把握するのは容易ではない。

「メラービアンの法則」では、言語メッセージで伝わるのは7%で、音声の特徴が38%、表情55%とされる。実店舗での服選びでは、店員の“提案”に対して、客が「いいですね! これ好きかも!」と口で言っていても、その口調や表情などから「好きだし、買ってもいいんだけれど、他にもっといい服があるかも・・・」というユーザーの感情の揺れ、一瞬の躊躇を読み取って、店員がすかさず別の提案をするケースがよくある。

 ところが、ネット上のメッセージのやり取りでは、そこまで“察する”ことは難しいだろう。

 だが、ニーズを読み切れていない“提案”は、ユーザーに「ネットショッピングって、所詮こんなものだよね」という失望感を与えかねない。よって、コミュニケーションをいかに的確に行うかは、スタイラーにとって生命線と言っても過言ではない。「まさにその点が重要なのです。実店舗側からも、“ユーザー情報をもっとほしい”と要望されています」と小関氏も認める。

 それに対する小関氏の対応は明確だ。

「私たちは、ユーザーの閲覧履歴・購入履歴の蓄積を進めているほか、ユーザーの位置情報も把握しています。ですので、ユーザーが、たとえば都内の女子高校生であれば、都内のどういうエリアの高校に通い、放課後や休日はどこに行き、どんなファッションに興味をもっているかということを把握できるのです。そうした情報を通して、彼女のライフスタイルの概要を知ることができると考えています。情報の量が増えることで、“提案”の精度はどんどん高くなっています」

FACYの画面の例。女性ユーザーからの「年齢相応の大人の女性に見える春のジャケットかコートがほしい」という相談メッセージ(左)。それに対する神戸のショップからの提案アイテム(中)とコメント(右)


日本よりも進化しているアジア諸国に勝機

 スタイラーはベトナムにソフト開発チームを置くほか、今年(2017年)、台湾進出を果たし、日本同様のサービスを開始した。来年は中国への進出を予定するなど、アジア戦略に注力している。その背景・狙いについて小関氏はこう語る。

「限られた経営資源の中で海外進出をするのなら、市場が成長を続けているアジアが良いというのが、まずあります。また、アジア諸国における売買のあり方が日本より進んでいて面白いのです。アジア諸国では、パソコンを持つ前にいきなりスマホを使いこなすようになった人が大勢います。また、分からないことを調べる時は検索エンジンを使うのではなく、企業や実店舗などに直接メッセージを送ります。買うまでにお店に何度もチャットで問い合わせる直接的なコミュニケーションが売買のベースになっているのです」

 なるほど、そういう点は、スタイラーのビジネスモデルとの親和性を感じさせる。また、小関氏はアジア諸国の人々の日本観にも言及する。

「アジア諸国には親日的な国が多いですし、今なお日本製品の品質への信頼度は高いのです。それに加えて日本製品を通じて、日本ならではの“豊かさを実感できるライフスタイル”を手に入れたいという想いがあります。そういう意味では、日本と政治的な軋轢を抱える中国や韓国ですら、欧米よりもビジネスをしやすいと私は感じます」

 これは、日本と英国のメガバンクに勤務し、アマゾンで働いた経験のある小関氏ならではの確信だろう。

スタイラーの創業経営者・小関翼氏(写真提供:スタイラー)


 小関氏は、アジア市場において中長期的には、アパレルだけではない、より多面的な展開を目指していると言う。

「もともとは、“eコマースで賄えないとされていたものを賄えるようにしたい”と考えていました。アパレル、不動産(引越し)、転職などのいわゆる“ライフスタイル系”のサービスがそれに該当します。しかし、引越しや転職は季節性もあるし、いったん動いてしまうと、その後しばらくは動きません。その点、アパレルは1年を通じてユーザーとの接触がしやすく情報を蓄積させやすい。そこでまずはアパレルで事業をスタートさせたという経緯があります」

 台湾に橋頭保を構築して、当面は、アパレル分野で事業の成長発展を図っていく。ゆくゆくは不動産賃貸などにも順次進出していきたい意向だ。

小関氏が自社をSWOT分析すると?

 小関氏の事業は、これまで実現不能とされてきたことを実現させたという点でイノベーティブである。同時に、企業とユーザー双方の困りごとを解決しながら自社の利益を確保するという点では、優れてソーシャルなビジネスと言えよう。

 小関氏は最後にスタイラーのSWOT(スウォット)分析を披露してくれた。

「強み(Strengths)は、“独自のビジネスモデルを通じたユーザー情報や流通情報の集約・蓄積”という点で他の追随を許さない点です。

 それに対して、弱み(Weaknesses)は、ファッションアパレルという旧来型産業にタッチしており、弊社のサービスに参画してもらうために膨大なエネルギーを要する点です。

 機会(Opportunities)は、弊社の強みであるeコマースとコミュニケーションの融合で勝負する分野に関し、アジア諸国全体に商機が広がってきつつあること。

 一方、脅威(Threats)は、アジア諸国に競合プラットフォーマーが出現して実店舗の獲得コスト(=参画してもらうためのコスト)が上がることです」

「彼を知り己を知る」小関氏。アジア市場の成長活力を取り込み自社の成長発展へと結びつけて行けるだろうか? 要注目である。

スタイラーの小関翼社長(前列中央)と社員たち


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筆者:嶋田 淑之