親会社、子会社における同一労働同一賃金の推進は難しい(写真:freeangle / PIXTA)

「同一労働同一賃金」が話題にのぼる機会が増えました。背景にあるのは、OECD(経済協力開発機構)が日本は賃金に関する考え方が遅れていると勧告したこと。それから10年近くが経過して(やっと)取り組みが本格化してきました。


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時間的にかかりすぎのような気もしますが、日本政府が働き方改革の一環として押していることもあり、企業が本気で取り組むようになってきました。

厚生労働省が提示した「同一労働同一賃金ガイドライン案」を受け、6割以上の企業が「対応の必要がある」と回答しています。

ただ、意欲はあっても、現実的には部分的な取り組みが始まっただけ。見逃されているテーマがたくさんあります。今回の記事ではそうしたテーマの1つに注目してみたいと思います。

同一労働同一賃金とは

そもそも、同一労働同一賃金とは、仕事ぶりや能力が適正に評価され、意欲をもって働けるよう、仕事内容が同等の労働者は同じ待遇であるべき、格差をつけてはいけないという考え方のこと。

ところが雇用形態、国籍・信条・身分などによって“格差”は生まれています。その代表的なものとして注目度が高いのが、正規社員と非正規社員(パート・派遣)。現在の日本で正規の賃金を100とすれば、同じ仕事をしている非正規社員のそれは60にも達していません。

たとえば、正規社員と非正規社員(契約社員)が混在する営業部門を取材したときの話です。格差は相当にある様子でした。そもそも、その営業部では営業目標や担当する取引先の社数に正規or非正規社員で差がありません。経験が豊富な契約社員で、高いレベルの仕事を任されている人もいました。ところが、待遇には厳然とした差がありました。正社員は将来的に管理職への道も開かれており、営業職としても高い報酬が約束されています。対する契約社員の報酬は正社員の2/3以下。正社員への登用も少なく、管理職になることは皆無。さらに

「正社員と比べて、われわれは放置されているような状態」

取材した契約社員はそう認識していました。その契約社員の方曰く、管理職は正社員ばかりをケアしている。契約社員は難易度が高い取引先ばかりを担当させられ、責任を取らされると感じているとのこと。

日頃の不満から被害者意識的なものもあり、多少は誤解もあった可能性ありますが、管理職が報酬以上の仕事を契約社員に強いているのは間違いない様子でした。職場では正社員と契約社員の対立が起きつつあり、雰囲気もよくないように見受けられました。

こうした、そもそも報酬が違う正規社員と非正規社員に同じミッション(役割)を管理職が求めており、同一労働同一賃金が実現できない、格差のある職場はたくさんあるのではないでしょうか。

これまで正規社員の働き方を基準にし、管理職が無意識に、それに非正規社員を合わせることが長く容認されがちでした。本当は非正規社員の報酬に合わせて仕事を任せなければいけないのに、きわめてざっくりとしたマネジメントがされてきたのです。

ただし今の時代、職場における非正規社員の比率は各社でかなり高くなっています。十把一絡げのマネジメントでは許されない時代になってきたのです。

さらに非正規社員はみな正規社員になりたいはず……という発想もずれたものになりつつあります。非正規社員のままで専門性を高め、キャリアアップを目指す人も増えています。

ところが、格差の改善が進まない職場がいまだに多数見受けられる状態。なので、同一労働同一賃金が、政府を巻き込んだ大掛かりな取り組みとなってきたのです。現在では前述した同一労働同一賃金ガイドライン案が作られ、安倍晋三首相は「わが国から非正規という言葉を一掃することを目指す」と言っています。今後は同一労働同一賃金の実現に向けて、法改正の動きが本格化していく見通しです。

子会社社員と親会社社員との給与格差

ただ、格差の対立軸は正規・非正規だけではありません。その1つが子会社社員と親会社社員が同じ仕事をしていながら格差が生じているケース。

筆者が勤務していた職場でも子会社・親会社で給与に差がありながら同じ(ないしは低いレベルの)仕事をしている社員がたくさんいました。たとえば、本社から出向してきた社員が子会社で補助的な仕事に従事。ところが、給与は子会社の社員の誰よりも高いベースで支給されていました。その事実を知った子会社の社員たちは「高い給与もらっているのだから、自分で考えて仕事に取り組んでください」とキツイ言葉を投げかけ、険悪になる場面に遭遇したことがありました。

このように、仕事がデキる子会社社員が親会社の社員以上の仕事をしているのに、給与は低いままという職場にいる方から、不満の声を聞く機会が多くあります。

格差を埋める意思がある会社はほぼない

取材した専門商社では、正社員と契約社員が同じ営業部でほぼ同じような役割、目標で仕事をしていました。ところが給与は契約社員が正社員の8割程度。正社員は将来の幹部候補と考えて、管理職の指導も手厚く行われている様子。同一労働同一賃金の時代、その格差は埋めるべきといいたいところですが、その格差があって経営が成り立ってきたという経緯があります。

たとえば、製造業の親会社が販売やメンテナンスの子会社を設立。各子会社で採用をするものの、双方で出向が行われることがあります。そこで勤務している営業職や管理職で給与が違うのに同じ役割を担い、格差が生まれます。

さらに出向する社員がさまざまな理由から増えてくると、その格差が目立つようになり、不満が増幅されます。たとえば、管理職にもかかわらず、営業社員の指導ができない、本社からの出向社員。同じような仕事をしているのに給与が相当に違うなど、格差が不満を生むのです。

ならば、格差をなくすように是正すればいいと考えたいところですが、経営者の視点に立てば難しいのは明らか。企業は子会社をつくり、その子会社で低い賃金制度を導入することでグループ全体としての収益を確保してきました。子会社に勤務している社員の市場価値に対する対応ともいえますが、この格差を埋める意思がある会社はほぼないと思われます。

企業に聞いてみても親会社と子会社の同一労働同一賃金を検討しているという話を聞いたことがないのです。親会社、子会社における同一労働同一賃金の推進はかなり難しいと感じます。

今後おそらく、日本全体で正規・非正規における格差是正は進むことでしょうが、こうした格差が残る以上、それで同一労働同一賃金の推進ができたとは考えないようにしたいものです。

子会社に入社して、親会社社員との給与格差で大きな不満を抱える人が大量にいるのは事実。親会社から出向してくる部長は仕事ができなくても、高い給与がもらえる。あるいは親会社に出向して仕事で成果を出しても、親会社の社員のような給与はもらえない。頑張ったところで見返りがないので、出向などしたくない……といった不満をたくさん聞くことがあります。この対策をどのようにしていくべきなのか? 今後、考えていくべき課題かもしれません。