トランプ大統領は議会や産業界、市場からも見放されつつある(写真:REUTERS)

相変わらず米国株式市場は、ドナルド・トランプ大統領の「不規則発言」に振り回されている。対中輸入に対する懲罰的な関税対象額の積み増しを表明したかと思えば、後述のように習近平国家主席の講演を称賛。シリアにすぐにミサイルを撃ちこむようなことを言ったかと思えば、その後「いつ攻撃すると言ったことはない」と述べた(結果的には13日夜に攻撃を開始した)。

また、もう1つの株式市場の懸念要因であった、フェイスブックの情報漏えいなどを受けた、新興企業株の株価下落については、マーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)の議会証言で材料として峠を越した感が広がっただけに、かえって「トランプ要因」が目立ったように感じられる。

シリアへの攻撃については後で触れるとして、このところ市場に影を落としていた米中貿易摩擦の主導権は、完全に中国が握っているように考えられる。まず、当初、米国が中国からの500億ドルに相当する輸入(後日、1500億ドルに拡大する旨を公表)に対し、25%の関税を設定する旨を表明したことを受けて、中国側も報復のための追加関税リストを発表した。

対象品目は、自動車、化学製品、大豆、トウモロコシなどで、これは従来型の製造業と農作物だ。これらの産業が盛んな地域は、共和党ないしトランプ政権を支持する層が多い州と重なる。このため、そうした州から選出された共和党議員や州知事の間で、動揺が広がっているもようだ。中国は共和党内の不協和音を引き起こすことに成功していると言える。

グローバル化への努力を世界に示した中国

その後、4月8日(日)〜11日(水)の間、中国海南省ボアオで開催された、ボアオ・アジア・フォーラムでは、10日(火)に、習主席が講演を行なった。そのポイントは次の2点だろう。

(1)自動車輸入に対する関税引き下げや、金融業などに対する外資の投資制限の緩和など、開放経済の姿勢を打ち出した。

(2)保護主義的な姿勢を一般論的に批判したが、「米国」とも「トランプ」とも、ひとことも言っていない。

(1)は、中国はグローバル化に向けて努力していることを示すことで、グローバル化に背を向ける米国への批判を、国際社会で強めよう、という狙いだろう。これまでも中国は、米国をWTO(世界貿易機関)に提訴する旨を表明するなど、「米国対中国」ではなく、「米国対他のすべての国(国際社会)」という図式に持ち込もうとしてきた。

(2)は、やんわりとした批判にとどめ、中国が大人の対応を示すことで、ただ叫ぶだけのトランプ政権との「格の違い」をみせるという意図だと推察される。

この習主席の演説を受け、直後にトランプ大統領は、演説を称賛するような旨を表明した。これはもちろん、演説を本当に評価しているわけではなく、「中国がそうしたソフトな対応に出てきたのは、自分が強烈な圧力を中国に与えたからであって、全て自分の手柄だ、俺は素晴らしい、この素晴らしい俺が、中国はよくやったと称えてやろう」という、強がった姿勢だと言えるだろう。

中国側は、トランプ大統領が、全て自分の手柄であるように吹聴することを当然読んでいるだろう。結果として、トランプ大統領は「俺はすごい、俺バンザイ」と言いつつ、「まあ、このくらいで勘弁しておいてやろう」と、結局は大した対中制裁はできないのではないだろうか。中国は、「名」はトランプ大統領に与えても、「実」がとれればよいはずだ。つまりトランプ政権は中国の手のひらの上で踊らされるにとどまると見込む。

とすれば、米中貿易戦争が過熱し、世界経済・世界貿易に悪影響が生じる、という懸念は、いずれ解消されるだろう。

述べたように、対中輸入関税の対象範囲は、当初の500億ドルから、1000億ドル追加されたわけだが、この経緯も注目される。

火消しに走る閣僚とブチ壊すトランプ

まず、米中貿易戦争懸念から米国株式市場が動揺すると、主要閣僚から火消し発言が行なわれた。具体的には、4日(水)に、ラリー・クドローNEC(国家経済会議)委員長は「最終的に関税の発動を見送る可能性はある」、また、ウィルバー・ロス商務長官は「武力戦争でも最後は交渉で終わる」と語った。

しかし、その直後の5日(木)には、トランプ大統領は対象を1000億ドル分積み増しするという「ぶち壊し発言」を行い、再度市場に波乱が生じた。この発言は、上記の両氏の発言の余りにも直後であるため、「俺は中国を叩いて、英雄になろうとしているのに、なぜお前たちは俺に逆らうのだ」と、大統領が激怒したものと推察している。

これまでトランプ政権では、「何でも俺の言う通りにしろ、トランプ大統領様バンザイと、俺に従え」という姿勢を示してきた。

7日(土)付のウォール・ストリート・ジャーナルでは、トランプ大統領のアマゾン叩きの根拠とされている、「アマゾンは税支払いを回避している、もしくはUSPS(米郵政公社)の運賃を不当に下げさせている」、という点が事実ではないとして、ゲーリー・コーン前NEC委員長がデータに裏打ちされた説明用資料を用いて大統領に進言したが、大統領は全く聞く耳を持たなかった、と報じている。同紙は、ある人物の発言として、大統領がコーン氏の話を一顧だにしなかったのは、大統領が「求めていた説明とは違った」からだ、とも述べている。つまり、誤りでも自分の主張に沿うものは喜び、事実でも自説に沿わないものは聞かない、というのが「トランプ流」なのだろう。

こうして、国益を真剣に考え、事実に基づいた進言をしても、大統領が聞こうとしないので、コーン氏のようにトランプ政権を見捨てて去って行った閣僚もいるし、大統領に疎んじられて解任された閣僚もいる。つまり、沈みゆく船から、閣僚が次々と去っているわけだ。

また議会共和党も政権との距離を広げている。中国の制裁リストが共和党内に動揺を広げたことは述べたが、先月のペンシルバニア州での下院補欠選挙では、共和党有利との事前観測を覆して、民主党が勝利した。11月の中間選挙での敗北が実現性を増すにつれて、議会からもトランプ大統領は見放されつつある。11日(水)には、ポール・ライアン下院議長が引退する旨を表明したが、トランプ大統領が暴走し、それに対する議会共和党内の調整を始終押し付けられたため、ライアン氏も愛想を尽かしたのかもしれない。

もちろん産業界も、通商面での保護主義の強化で、海外からこれまでより高い価格で調達することを余儀なくされる展開が懸念され、不満が強まっている。さらに最近のアマゾンを筆頭とする新興企業叩きも加わり、トランプ政権から離反する動きが強まりそうだ。

投資家も、このところ「株価を上げる習近平VS株価を下げるトランプ」という図式が強まり、市場も次第にトランプ政権を見放すのではないか。

こうした動きが少しは圧力となったのか、トランプ政権はTPP(環太平洋経済連携協定)への復帰を検討すると表明した。TPP11のリーダー格となっている日本としては、「そんなに復帰したいのなら、TPP11で定まった条件を丸呑みするのであれば、入れてやってもいい」という姿勢に徹するべきだ。ただ、それでは米政権が受け入れるはずがないので、トランプ大統領が「シンゾウにこの俺がたっぷりと圧力をかけてやったので、米国はこんなにすごい成果を得た、やっぱり俺はすごい、俺バンザイ」とは吹聴できるが、実質的には中身がからっぽな「おみやげ」を用意してあげる必要はあるだろうが。

シリア情勢不透明だが、国内企業は堅調

前述のように13日(金)には、米国は英仏とともにシリアの化学兵器施設への攻撃を実施した。こうしたピンポイントの攻撃は、2017年4月にも実施されており、そのときは世界市場に大きな動揺は生じなかった。また、このところは地政学的なリスクの高まりや米国株式市場の波乱があっても、いわゆる「リスク回避のための円高」はほとんど生じていない。今回も、心理面から内外株価や外貨相場の短期の小幅下振れはあっても、週明けの世界市場を大きく揺らすことにはなりにくいと予想する。

海外の懸念要因が小康状態だとすれば、国内株式市場の目は、日本の企業収益に向かいそうだ。これまでの2月本決算企業の収益は、総じて堅調な内容だった。小売り・外食などの3月の月次売上高も、好調なものが目に付いた。円相場がこれから大きく円高に振れれば別だが、おおむね現状水準で落ち着いて推移すれば(ましてや円安方向に向かうことがあれば)、企業収益への期待は崩れることはないだろう。

こうした明るい流れの中で、今週の日経平均株価については、2万1500〜2万2200円を予想する。