2020年の東京五輪後にさまざまな課題が表面化しそうだ(撮影:今井 康一)

森友問題で紛糾したものの、3月28日夜に参院本会議で2018年度の予算案が政府・与党の原案どおり可決された。一般会計の総額は、6年連続で過去最大となる97兆7128億円に達した。あと2兆円ちょっとで100兆円に達しそうだ。おそらく、このまま安倍晋三政権が続けばあと数年で予算案の総額は節目となる100兆円の大台を突破することになるだろう。

もっとも、予算案ではなく実際の一般会計歳出では、2009年の101兆円をピークに超えており、とっくに“一線”を超えている。過去30年にわたって、自民党政権はひたすら財政出動による景気刺激策を取り続けてきたわけだが、こうした経済政策はいったいいつまで維持できるのか。

新規国債の発行は8年連続で減らし、麻生太郎財務大臣も「財政健全化は着実に進んでいる」と胸を張る。2018年度予算では、1980年代のバブル期以来、27年ぶりの「税収増」を想定しており59兆0790億円を見込んでいる。

その一方で、日本経済の再生には不可欠な「財政再建」に対する意識が、最近の財政政策からは消えてしまったようだ。2019年10月に実施される予定の消費増税も本当に実施されるのか不透明だ。

中央銀行を巻き込み、さらには財政再建を一貫して主張する財務省に森友問題の責任を押し付けて、さらなる財政刺激策を図ろうとする安倍政権が続くかぎり、財政再建の道は見えてこない。2018年度予算が示唆する未来の日本の姿を想定してみたい。

プライマリーバランス黒字化は本当に可能なのか?

財務省が発表している「2018年度予算のポイント」を見ると、経済再生と財政健全化を両立する予算として次の3つを挙げている。

➀人づくり革命

保育の受け皿拡大、保育士の処遇改善、幼児教育の段階的無償化、給付型奨学金の拡充等を掲げ、「社会保障制度を全世代型社会保障への転換」を図る。年寄り中心の社会保障から、若者にも目を向けた予算づくりをしていることをアピールしている。

ただし、その予算の大半は、2019年10月の消費増税の財源を頼りに組んでいる。たとえば、人づくり政策の目玉ともいえる「教育無償化」は約2兆円の予算を組んでいるのだが、その大半は消費増税による増収分を充てている。ほかの部分を削って、その浮いた分で新しい政策を始めようという意思はないようだ。

➁生産性革命

いわゆる人手不足や進まない賃上げに対応した政策だが、持続的な賃金上昇とデフレからの脱却につなげることを目指す「生産性向上」のための政策として「税制上の措置」や「設備・人材への投資の促進」「研究開発支援」「インフラ整備」など、生産性向上のための予算を組んでいる。正直言って、こんなことをするより以前に、官庁のペーパーレス化やデジタル化を推進したほうが、よほど民間ビジネスの生産性向上につながるし、国民も無駄な労力を使わずに済む。

フィンテックやAI(人工知能)を官庁が率先して推進させる、そんな発想が残念ながら日本政府にはないようだ。

財政健全化

2018年度予算では、一般会計のプライマリーバランス(以下PB)も改善していると主張している。プライマリーバランスというのは「基礎的財政収支」のことで、歳入総額から国債などの借金による収入を差し引いた金額と、歳出総額から国債費等を差し引いた金額の収支を見たもので、簡単に言えば国債の償還や借り換えのための借金を除き、新しい借金をしないで財政運営ができればPBの黒字化となる。

当初は2020年までにPBの黒字化を実現させると公約していたものの、2022年にまで延長されている。2017年度のPBはマイナス10.8兆円、2018年度はマイナス10.4兆円とわずかに改善している。とはいえ、公債依存度は2018年度で34.5%程度(2017年度は当初35.3%)。しかも、日銀が国の借金(国債発行残高)の4割を負担している状況は、財政再建が進んでいるとは到底言えない。

財務省を敵視しているリフレ派の中には、このPB黒字化の制限こそが日本のデフレ脱却を妨げている、と主張する人もいるが、無制限な財政歳出がどんな結果をもたらすのかを説明しないで、一方的な財政歳出拡大論を推し進めるのも無理がある。

見通しの甘さが目立つ

財政削減といえば、民主党政権時代の「事業仕分け」を連想する人も多いだろう。安倍政権になってからも、2014年度の予算編成から省庁の壁を除外した「行政事業レビュー」として継続しており、非効率な事業や民間に委託するほうがベターなものについては、公開の場でヒヤリングを実施して、無駄な予算を廃止する仕組みを作っている。

ところが、2018年度予算案でカットできた無駄は993億円にとどまっており、2014年度以降最低の水準となった。やはり、自民党政権では財政再建はできないということかもしれない。

実際、この3月29日に開催された「経済財政諮問会議」でも、安倍政権の下で進めてきた「経済・財政一体改革」の中間報告が行われたが、2018年度予算の段階でPBが2015年度に想定したものよりも、6兆9000億円程度悪化することが報告された。

一般会計の赤字幅は3兆9000億円ほど縮小したものの、税収の伸び悩みで4兆3000億円、消費税増税の延期で4兆1000億円、補正予算の拡大で2兆5000億円の拡大となった。「赤字幅が減少したならいいじゃないか」と思われがちだが、補正予算の拡大を差し引くと1兆4000億円しか減らしていない。

税収の伸びに対する概算も大きく外しており、見通しの甘さが目立つ。とても、世界一の財政赤字を抱える国の政権とは思えない。

団塊世代が75歳になる時は150兆円のコストがかかる?

今回の2018年度予算は、簡単に言えばこれまでとそう大きな変化はない。財政再建という言葉は、つねに目立つところに掲げてはいるものの、本気でやろうという意思を感じるのが難しい。

昔から言われていることだが、一度ついてしまった予算を「ゼロ」にするのは、日本政府の場合は大変困難なようだ。たとえば、ほぼ実現するメドが立っていないと言われる「フリーゲージトレイン(軌道可変電車、新幹線と在来線の軌道を自由に選択できる電車のこと)」の開発費として、2018年度も約9億円をつけている。JR九州が採用を拒否していることから、少なくとも日本国内で実用化されるメドは立たなくなった。

耐雪、耐寒化に関する技術開発など耐久性の技術開発を同時に行う、としているが一度得た既得権を断ち切るだけの決断力が日本の行政にはないのかもしれない。

その一方で、2018年度予算の中でも政府が自画自賛しているのが社会保障費の伸びを5000億円に抑えたことだ。10年前の2008年の一般会計歳出の社会保障給付費は約22兆円。2018年度には33兆円に達している。この10年で1.5倍に伸びたことになる。2018年度も自然に増加する社会保障費6300億円を負担する必要があったのだが、それを5000億円に抑えた、というわけだ。

ところが、その中身をよく見ると圧縮できた分は、ほぼすべてが「薬価の引き下げ」によるものだ。薬価改定によって削減できた国費は1456億円。もともと2018年度は、診療報酬と介護報酬を6年ぶりに同時に改定する時期に当たっている。言い換えれば、今後も爆発的に増加することが予想されている社会保障費に、抜本的な改革を断行するチャンスだったわけだ。

にもかかわらず、薬価の引き下げだけで社会保障費抑制という課題を乗り切ってしまった。医師会と自民党という政治の力が働いたのではないかとも言われているが、こうした場当たり的な予算編成を、日本政府は延々と続けている。

こうした事態を繰り返していたら、どんなことになるのか。たとえば、2025年には「団塊世代」が全員75歳の「後期高齢者」になる。現在(2015年度)の社会保障給付費の合計は約115兆円だが、2025年度には150兆円になると予想されている。いわゆる「収入」に当たる健康保険料や介護保険料は、2025年度までに大きく伸びるはずはないから、不足する分は結局、国の財政に依存することになる。

しかも、2025年度といえばあと7年後だ。遠い未来の話ではない。早急に、準備をする必要がある。にもかかわらず安倍政権は、税金で景気を刺激して景気を良くし、税収入を増やすことで解決できる、といまだに本気で考えているようだ。

7年後には到底間に合わない「人づくり革命」に資金と時間をかけている暇はないはずだ。もともと人づくり革命といったたぐいの政策は、規制緩和を徹底し、企業献金や役人の天下りを禁止すれば自然に実現するようなものばかりだ。深刻な人手不足を解消するのに、これから人を育てていても間に合わない。

東京五輪後の景気後退をどう乗り切るのか?

さらに、気になるのが2020年度には東京オリンピックがあることだ。過去のケースから考えてオリンピックの直後は、大半の国が景気を減速させる。それまでのオリンピック準備が景気刺激策となり、景気は必要以上に良くなり、わずかな期間のオリンピックが終わった段階で景気は大きく減速することになる。

オリンピックのために建てた施設や整備したインフラなどが、負の遺産となって景気拡大を妨げるわけだ。実際に、過去のケースで言えば、景気後退を防げた国はほとんどなく、最大で成長率1%程度の落ち込みを見せている。

さらに、注目したいのはオリンピックによって財政を悪化させた国がほとんどだということだ。ギリシャ、スペインの財政赤字は、オリンピックをきっかけに悪化し、欧州危機の原因のひとつにもなった。

韓国やオーストラリアのように、結果的に改善した国もあることはある。しかし、財政規律を意識した英国(ロンドンオリンピック)のようなケースは稀と言える。欧州危機のさなかという事情もあるが、意識的に財政規律を堅持して、オリンピックを乗り切った。日本の2018年度予算案が、オリンピックを見据えて財政規律を重視したとは到底思えない。

オリンピック後は、景気後退に陥る可能性が高い。最悪の場合は、財政も悪化する。日本政府は、好むと好まざるとにかかわらず2020年度以降は、何らかの形で景気刺激策を意識した一般会計歳出予算を組まなければならない、かもしれないということだ。

すでに、この2018年3月期の「日銀短観」では大企業・製造業の業況判断指数(DI)がプラス24となり、前回調査より2ポイント悪化した。DIの悪化は2016年3月期以来、2年ぶりで、円高、保護貿易主義、人手不足といった悪材料が出たと分析されている。これらの悪材料は、今後も長く続く可能性が高いファクターばかりだ。

アベノミクスの御旗のもとに、フルスロットルで財政刺激策をしてきた安倍政権だが、今後訪れる東京五輪後の景気後退をどう乗り切るのか。円高、保護貿易主義の台頭、人手不足に加えて「金利高」が襲ったとき、日本政府はどんな予算を組むのか。日銀は、さらなる財政ファイナンスを採れるのか……。

東京オリンピックをうまく乗り切れても、その後の団塊世代の後期高齢者化による社会保障費の拡大を乗り切れるのか……。世界情勢同様、日本国内の情勢も大きな曲がり角に差し掛かっている。