金正恩氏と韓国芸術団(2018年4月2日付朝鮮中央通信より)

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かつて北朝鮮を脱出する人々は、「貧困や餓死から逃れるため」という切実な動機を抱えているケースがほとんどだった。ところが、今では「よりよい未来のために韓国で大学に通いたい」という留学型脱北や、「韓流で見た憧れの地で暮らしたい」という韓流型脱北が増えていると言われている。

たとえば昨年6月に軍事境界線を越えて韓国に亡命した朝鮮人民軍(北朝鮮軍)兵士は、韓国当局による事情聴取に対し、「韓流ドラマと映画で韓国社会の姿を見た、豊かな韓国社会に憧れていた」と答えた。

一方、「(韓流アイドルの)少女時代が好きで脱北した」と語る、韓国で人気の脱北ユーチューバーが当地のラジオ番組に出演し、北朝鮮ではどのように韓流が広がっていくのかについて語った。

北朝鮮の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)出身の女性ユーチューバー、ハン・ソンイさんは最近、韓国TBS-FMの時事番組「キム・オジュンのニュース工場」に出演した。

韓国にやってきて5年になるハンさんは、今月1日と3日に平壌で開催された韓国芸術団の公演の後に、恵山に住む友人からかかってきた電話の内容について語った。商売人である友人女性との会話内容は、韓流や韓国芸術団の話ではなく、為替レートのことばかりだったという。その理由について次のように説明した。

「北朝鮮にも為替レートがあります。しかし、北朝鮮のレートは韓国のようにネットで確認できるわけではなく、カネ持ちがリアルタイムで中国から連絡を受けて決めます。為替取引で大儲けすることもあれば、大損することもあります」(ハンさん)

しかし、商売をしていない北朝鮮の若者からかかってくる電話では「韓国で本当に人気がある俳優は誰か?クォン・サンウは本当に人気があるのか」などと聞かれるという。韓国SBSが2003年に制作したドラマ「天国の階段」は、北朝鮮で大ヒットし、主演を務めたクォン・サンウとチェ・ジウはかなりの人気のようだ。

このような韓流ドラマのソフトはいかにして北朝鮮に流入するのか。ハンさんはその流れを詳しく説明した。

まず、北朝鮮と中国を行き来する密輸業者に「何か面白いものはないか」と尋ねる。すると業者は、違法ダウンロードサイトで韓流ドラマや映画、K-POPの曲やミュージックビデオを見繕い、ファイルをダウンロードし、USBメモリやCD-Rにコピーして北朝鮮に持ち込む。

受け取ったソフトはごく親しい友人の間だけで貸し借りするが、「これは人気が出る」と思った人が、コピーして販売に乗り出すと、徐々に広がっていくという流れだ。

(参考記事:北朝鮮の少年少女が恐れる「少年院送り」…それでも止められない遊びとは

北朝鮮で流通している韓流ドラマや映画のソフトには、中国で売られている正規品と、違法ダウンロードサイトからコピーした海賊版があるが、正規品の方が高く売られている。

正規品は編集されていないため、ドラマも映画もまるまる見ることができるが、海賊版は編集されているため、内容が欠落していることがあるというのが、値段差の理由だ。少しでも経済的に余裕のある人は正規品を購入するが、おカネのない人は海賊版を買い求めるという。

ソフトのコピー、流通には主にUSBメモリが使われる。これは2005年ごろから一般化し、今では北朝鮮の人々の生活に欠かせないものになった。

韓国芸術団の公演についてハンさんは、そもそも地方の住民は平壌に行くことすらかなわないが、見に行けなくても、公演内容を見るための「システム」があるため、地方でも拡散しつつあるようだと語った。

ハンさんはこのシステムについて詳細を語らなかったが、ケーブルテレビのようなものと思われる。