格安航空「ピーチ」が狙う空のSNS活用ビジネスとは?

コタビでは、検索画面で性別や年齢層、同行者など自分の属性や趣味に近そうな人物写真を選ぶ。移動した画面では、選んだ人物が写真を交えて体験に基づく旅プランを紹介しており、旅に利用した移動手段や宿泊、アクティビティー(体験)が提示されている。利用者は好みに応じて自らの旅行計画に採用し、航空券やホテルなどを予約できる仕組みだ。
コタビを利用して旅行した人は、旅行後に自らも旅プランの提案者になれる。さまざまな人の価値観によって旅が再生産されていく過程を通じ、知名度の低い地域の観光資源などに光が当たる機会も期待できそうだ。
「追体験の旅」
井上CEOは「人から入る旅、ライフスタイルから入る旅がある」と話す。コタビが狙うのは「追体験の旅」という市場の創造だ。誕生の背景には、個人が自ら発信できる会員制交流サイト(SNS)などソーシャルメディアの台頭がある。
ピーチの利用客は日常的にSNSを使う20―30代女性が多い。電車のように気軽に飛行機を使ってもらおうと「空飛ぶ電車」をコンセプトに掲げ、これまで飛行機移動に、なじみがなかった同層に訴求してきた。
17年春には写真共有サイトのインスタグラムを使ったキャンペーンを実施。多くの読者を抱える投稿者「インスタグラマー」3人に31日間、毎日異なる旅先の写真を投稿してもらった。写真を見た多数の読者が“同じ体験をしたい”とピーチの予約に動いた。わずかな投資で航空券販売額は前年同月比2・4倍となる成果を得た。
これには親会社のANAHD首脳も舌を巻く。マスメディアによる発信を中心にしてきた大手航空会社には難しい発想だ。井上CEOも「SNS(の影響)は想像を超えていた」と驚きを隠さない。コタビの構想は、この成功体験が出発だった。
多くの企業は今、SNSを通じて顧客と、どうつながるべきかとの課題に直面する。ソーシャルメディアを使ったマーケティングで影響力の強い個人「インフルエンサー」は無視できない存在だ。宣伝であることを隠したステルスマーケティングの危険性などリスクもはらむ。井上CEOは「自然に淘汰(とうた)されるはずだ」と楽観視する。
(文・小林広幸)