就業不能保険(「ライフネット生命 HP」より)

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 インターネット専業の保険会社、ライフネット生命保険は3月22日、取締役会を開き、取締役執行役員営業本部長の森亮介氏が社長に就く人事を決めた。6月24日の株主総会で正式に就任する。同社の立ち上げに携わった岩瀬大輔社長は代表権のない会長に退く。

 同社は2006年に設立し、08年に営業を開始した。営業職員を抱えない新しいビジネスモデルで、一時は「時代の寵児」ともてはやされたが、今、大きな転機を迎えている。その最中でのトップ交代となった。

 創業者の出口治明氏は京都大学法学部を卒業後、日本生命保険に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを歴任。同社を退社後、東京大学総長室アドバイザーを経てネット専業の保険会社、ネットライフ企画(現ライフネット生命)を立ち上げ、社長に就いた。12年、東証マザーズへの上場を機に会長に退いた。さらに会長退任後、18年1月に立命館アジア太平洋大学第4代学長に転じた。

 共同創業者である岩瀬氏が13年に社長を継いだ。岩瀬氏は1998年、東京大学法学部を卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。その後、リップルウッド・ホールディングスを経て、「日本ではできないことをやりたい」としてハーバード・ビジネス・スクールに留学してMBA(経営学修士)を取得。帰国後、ゼロから新しい生命保険会社をつくるため、出口氏とライフネット生命を立ち上げた。

 ライフネット生命は、上場したものの赤字経営が続いた。生保レディーを軸に対面販売が中心の生保業界で、インターネットによる非対面販売が特徴だった。だが、大手生保がネット販売を強化したため苦境に陥った。

 15年にKDDIと資本提携。携帯電話の販売店を通じて対面販売を始めた。17年11月、KDDIは三井物産から株式を買い取り、出資比率を15.6%から25.0%に引き上げ、持ち分適用会社に組み入れた。KDDIは16年から新しい金融サービス「auのほけん・ローン」を開始し、保険やローンに参入。金融部門の強化に乗り出した。

●収益確保狙い、がん保険に参入

 ライフネット生命は17年8月から「がん保険」の販売を始めた。これは「岩瀬氏の転向」と皮肉られた。というのも、岩瀬氏は副社長時代の12年に出した著書『がん保険のカラクリ』(文藝春秋)のなかで、既存の保険会社が扱うがん保険が補償する内容について痛烈に批判していたからだ。ところが、収益を上げるために、がん保険を扱うことにした。

 そのがん保険を担当したのが森氏だ。同氏は京都大学法学部を卒業後、07年にゴールドマン・サックス証券に入社。資金調達やM&A(合併・買収)が専門で、主要顧客が保険会社だった。12年、ライフネット生命に入社後、29歳で企画部長に就任。経営戦略本部長を経て17年4月、がん保険へ参入するため営業本部長に就任。同年6月、取締役に昇進した。

 がん保険はすでに過当競争状態だったため、新規参入するには特徴を出さねばならない。そこでライフネット生命は就業不能保険を10年に売り出した。同保険は長期にわたって入院したり自宅で療養が必要になって就業できなくなった場合、所定の給付金が支払われる。つまり、働けなくなった人に対して給与を補填する保険だ。

 就業不能保険の支払い理由の約6割は、がんと判明。ライフネット生命はここに目をつけ、仕事ができなくなった場合に収入を補償する就業不能保険をセットにした、がん保険の販売を開始した。がん保険をテコに収益を引き上げることを期待され、森氏は34歳の若さで社長に抜擢された。

 18年3月期の売上高に当たる経常収益は前期比8.9%増の110億円の見込み。就業不能保険とセットのがん保険の販売が好調だ。それでも当期純損益は3億円の赤字の見込みで、開業以来、赤字経営から抜け出せないでいる。19年3月期での黒字転換が、新社長が達成しなければならない喫緊の課題だ。

 ネット販売の草分けであるライフネット生命は、そのビジネスモデルの転換が必要になっているのかもしれない。

 一方で「社長交代を株式市場が好感している」(アナリスト)との見方が浮上している。マザーズ市場に上場しているライフネット生命の株価は4月9日、一時566円(61円高)と年初来の高値を更新した。社長交代発表前は400円前後だった株価が500円超で推移している。

「岩瀬氏は正直な物言いで、たびたびネット上で炎上していた。森氏はそういうことはないだろうとみられている」(前出アナリスト)

 3月期決算の発表は5月15日の予想。中期経営計画で目標に掲げる19年3月期の黒字化について、新社長がどのような発言をするかに関心が集まっている。
(文=編集部)