「サイトブロッキング」によって何が変わるのだろうか?(写真:Graphs / PIXTA)

コミックスの海賊版サイト問題、いわゆる「漫画村問題」(参照:ヤバすぎ「漫画村」がそう簡単に消えない事情)は4月12日になると漫画村の"移転"(管理者が同一かどうかは不明だが、同じシステムを用いた別名称のサイトが登場している)が伝えられはじめた。ただし13日の夕刻時点では極めてアクセスしにくい状況で、海賊版サイトとしては事実上、機能していない。

また、ネット上での話題は「漫画村のような海賊版サイトにどのように対応していくべきか?」に焦点が移ってきている。政府が13日の閣議決定後、知的財産戦略本部会合・犯罪対策閣僚会議で「漫画村」「AniTube! 」「MioMio」など3種の海賊版サイトおよび、その類似サイトに対するサイトブロッキングをインターネット接続業者が「自主的に実施することを促す」決定をしたためだ。

サイトブロッキングは有効なのか?

漫画村や類似する漫画海賊版の閲覧サイトの利用者は30万人にのぼるとされ、著作権者に対する深刻なダメージを与えていると推察される。しかし、性急なサイトブロッキングに関しては、その是非に関する議論に加え、そもそもの有効性に関しては疑問符がつく。

そもそも、サイトブロッキングとはどのような措置なのか。

日本におけるサイトブロッキングは、これまで児童ポルノへのアクセス制限に限り、緊急避難的に行われてきた経緯がある。児童の人格権侵害という重大な問題にどのように対応していくかを数年に渡って検討し、最終的に2011年から実施されているものだ。

「緊急避難的」と断っているように、サイトブロッキングは根本的な問題解決の手法ではない。

しかし、「問題の重大性を鑑みて施されている措置」であることは理解する必要があるだろう。また政府だけの判断でアクセスを遮断したのではなく、人権保護団体やインターネット接続業者など、複数のステークホルダーや関係者が長い時間をかけて話し合った結果として「遮断するべき」との結論に至った経緯がある。

それに対し、今回は、政府だけの判断で決めたことだ。そのため、”緊急避難的措置”を行うべき事案なのかどうか、政府による事前検閲にあたるのではないかといった批判が、正式決定の前から噴出していた。誰がどのようにして、遮断すべきサイトを決めるのか、何ら判断基準や法的裏付けもなく政府が特定サイトのアクセスを遮断する例は、少なくとも先進国では見られないものだからだ。

前例を作ってしまうと後に禍根を残す

内閣府知財本部は「数ある海賊版の中でも特にアクセス数や被害額が大きいと見られることから、刑法上の緊急避難を適用してサイトブロッキングしていいという方針となった」と説明している。しかし、被害額などは推定アクセス数に正規価格を掛け合わせた非現実的な数字しか話題にのぼっていない。実際の被害額は想定しにくいといえる。

しかし、筆者はそれ以前にサイトブロッキングの効果そのものが限定的であり、立法プロセスを省略してまで特定サイトをブロックしても、その効果はかなり限定的である、と考えている。むしろ、人権侵害などの重大な被害が起きてない中で閣議決定のみでブロックできるという前例を作るほうが後に禍根を残すのではないだろうか。

確かに児童ポルノではサイトブロッキングが運用されているが、当時と現在ではインターネットコンテンツの利用実態も変化しており、技術的にも抜け穴が多いため簡単にサイトブロッキングを抜けることができる。

サイトブロッキングは、インターネットの戸籍謄本ともいえるDNS(名前解決サーバー)への名前参照(URLに相当するIPアドレスの参照)を制限することで実施される。

インターネット上に海賊版コミックスを配信するサーバが設置されたとしよう。そのサーバーのIPアドレス(固有のコンピュータを示す数字)に対して、文字(URL)からIPアドレスを参照できないようにすれば、リンク先をクリック/タップしてもサーバーにたどり着けなくなる。

DNSは一般的にはインターネット接続業者が提供しているため、接続業者がブロッキング対象サイトのURLに接続することを拒否して、閲覧者が容易に接続できないように細工する。これがサイトブロッキングだ。

その気になれば海外業者のDNSも使える

しかし、重要な点はDNSから海賊版サイトが消えてなくなるわけではないことだ。協力を依頼した接続業者が用意したDNSでの名前解決処理を行えないにすぎない。

DNSは必ずしも接続業者だけが提供しているものではなく、その気になれば海外業者のDNSを利用することだって可能だ。さらに専用アプリなどを用いるなどさまざまな回避方法も考えられるなため、効果はきわめて限定的なのである。

政府は新たな海賊版サイトへのアクセスを遮断するために、官民の協議体を設置して適用基準などを検討するという。その上でサイトブロッキングの法制化を目指す。

菅義偉官房長官は会見で「あくまで臨時的かつ、緊急的な措置」と強調している。なぜ臨時的かつ、緊急的な措置が必要だと判断したのか、具体的な判断材料の開示が必要だろう。誰もが納得できるような客観データに乏しいようであれば、強権的ともいえる今回の措置には批判の声が集まる可能性もある。

長期的な戦略としては、前回のコラム(ヤバすぎ「漫画村」がそう簡単に消えない事情)で指摘したように”有料で正規のコンテンツを楽しむ”コストと”無料で海賊版コンテンツを楽しむ”コストで、正規版を選ぶ方が良いと思えるよう工夫をしていかねばならないだろう。

しかし、それ以前に緊急の対策を行うのであれば、並行して著作権侵害の幇助に関して、より幅広い解釈が行えるよう法整備を進めるほうがいいのではないだろうか。

著作権を侵害しているコンテンツへリンクを張っても罪には問われないが、侵害を承知した上でリンクを張り続けると、著作権侵害の幇助と判断される可能性があることは、前回の記事で指摘した。善意の第三者とは言えなくなるためだ。

広告サービスの提供元を罰したらどうか

一方、海賊版サイトの運営者はネット広告などを主な収益源にしていた考えられる。多くの場合、それらはサイト運営者が自由に自サイト内に埋め込むことができる。このため基本的には善意の第三者と認められるだろうが、今回のような極めて悪質な権利侵害を引き起こしていると明らかになった後、サイトに対して広告サービスを提供することを”幇助”とみなすよう、法改正なども視野に入れた運用は行えないだろうか。

その上で著作権侵害、侵害の幇助に関して、権利保有者がより簡単に侵害の申し立てを行えるよう手続きを簡素化し、侵害が認められた場合には直ちに関係サービス事業者に連絡した上で、著作権侵害の幇助をやめるよう通知するといった運用を可能にする法改正をしていく方が、実効性のある対策となるだろう。

”幇助”の形はさまざまだ。海外のインターネット広告事業者などからは協力が得にくい可能性もあるが、サイトを直接潰していくのには限界がある。同時に収益源を断っていくほうが効果的だろう。兵糧攻めが効き始めれば、閉鎖・移転を繰り返していくコスト負担が重くなり、それによって海賊版サイト運営を困難にできる。こうした多様なアプローチが必要だろう。