音楽ストリーミングのSpotify(スポティファイ)は新規株式公開(IPO)後、広告ビジネスへの注力を強めると広告バイヤーたちは見ている。

広告がSpotifyの強みだったことはこれまでない。むしろ、広告を回避できるプレミアム登録の説得力が最大の強みだ。プレミアム登録者は2017年末時点で月間アクティブユーザー1億5900万人の約45%で、前年から29%増加している。Spotifyは、広告ではなくサブスクリプションが資金源なのだ。

しかし、IPO後、万が一のときに代わりとなる収益の選択肢をSpotifyが求めるのならば、ビジネスモデルのなかでもっとも収益性が高いサブスクリプションに加えて、広告ビジネスも考えていかなければならない。テクノロジー企業にはよくあることだが、Spotifyは10年前の立ち上げ以降、収益拡大のために利益を犠牲にしてきた。しかし、IPOを実施する2018年に入り、Spotifyはオーディエンス規模の恩恵がある広告プラットフォームを整備した。

Spotifyの広告戦略



2017年のはじめ、広告ビジネスを拡充するため、広告バイイングの手練れであるマルコ・ベルトッツィ氏がSpotifyに加わり、欧州担当のバイスプレジデントに就任した。ベルトッツィ氏は数カ月後、アドテクのベテランであるズザンナ・ガイアリンスカ氏を欧州のプログラマティックの責任者に採用した。この2人の就任にあいだに、大西洋の両側でさらに営業幹部が加わり、Spotifyの広告ビジネスは具体化がはじまった。9月になると、Spotifyはオーディオ広告のためのセルフサービスのプラットフォームをひそかに展開した。プライベートマーケットプレイス(PMP)や直接購入で稼ごうとしたそれまでの試みで捕り逃していた、プログラマティックの予算を取りにいこうという意欲を示すものだった。

Spotifyのセラーたちは、消費されている音楽ジャンルに基づいたムードコンテクスチャル広告(mood-contextual advertising)という概念を打ち出している。音楽はムード(気分)を形成する極めて感情的な体験なので、可能性の高いムードに基づいてリスナーをターゲティングできるようになれば、いささか硬直的なSpotifyのプログラマティックは、まだ画像や動画が支配的なデジタル広告市場における大きな差別化要因になるかもしれない。いまのところ、ムードの指標となるSpotifyのプレイリストを直接購入でターゲティングすることしかできない。

それでもオーディオ広告には「クリエイティブの自由」があると語ったのは、デジタルエージェンシーのジェリーフィッシュ(Jellyfish)でペイドメディアの責任者を務めるダニエル・ウィルキンソン氏だ。同氏はまた、Spotifyの広告は「動画広告よりお金がかからないのは明らか」としたうえで、退屈せずに許容する広告の量が多いので、頻度とリーチは「通常、大幅に上回る」と語った。

Spotify広告の懸念点



しかし、ブランドセーフティが高い広告、クロスデバイスのターゲティング、オーディエンスデータの豊富さなどが広告幹部のあいだで評判がいいSpotifyをもってしても、オーディオ広告を売るのはなかなか大変だ。メディアコンサルティング企業のアペルト・ワン(Aperto One)の創業者で、ピュブリシス(Publicis)やハバス(Havas)でメディアバイヤーを務めたスコット・ムーアヘッド氏は、「Spotifyはどうすればいいのかまったくわからなかった」と語った。デジタルオーディオ広告は安くはないため、メディアプランに加えるのは簡単ではないのだという。デジタルオーディオ広告の平均CPMは、ムーアヘッド氏がSpotifyの広告を買った2016年当時の13ドル(約1400円)からはかなり下がっている。しかし、インフェクシャス・メディア(Infectious Media)でグローバル戦略パートナーシップのディレクターを務めるダン・ラーデン氏によると、デジタルラジオと比べるとまだ「インパクトがある」。ただ、その価格に見合う恩恵はあるとラーデン氏は指摘する。

「(Spotifyの広告は)スキップできないので、少なくとも聞かれていることははっきりしている。加えて、 ビュースルーレートから完全に追跡可能で、この点はいま買えるほかのデジタルオーディオ広告と異なる」とラーデン氏。

米DIGIDAYが話を聞いたメディアバイヤー5名によると、Spotifyの広告購入で問題になるのはクッキーがない点だ。広告主の測定ソリューションがモバイルデバイスIDを採用していない場合、測定にクッキーを使うプログラマティックディスプレイ広告キャンペーン全般にSpotifyを加えることができない。また、データの精度に不満の声がある。エージェンシーのトータルメディア(Total Media)でメディア先物の責任者を務めるジェイムズ・ダフィー氏によると、Spotifyの広告は、たとえば作曲者やサブジャンルによるターゲティングができない。

全収益の20%が目標



Spotifyのセールス幹部たちは広告を売る際、通勤、リラックス、トレーニング、料理など、1日のさまざまなときにどんな曲が聴かれるのかを示すデータを強調する。プレミアムメンバーと無料メンバーの両方に関して、豊富なファーストパーティのオーディエンスデータを提供しているのはSpotifyの大変な強みだ。しかも、2018年はサードパーティのデータに対する風当たりが強まると広告主たちは見ている。

メディアの幹部からすると、Spotifyは広告を出すことよりもそのデータのほうが大きいのではないかとダフィー氏はいう。エージェンシーがSpotifyのオーディエンスデータを使ってウォールドガーデンの外でターゲティングできるようにできれば、それは「大きなチャンス」になるかもしれない。ブランドがオーディオ広告をターゲティングするための固有のユーザーIDをエージェンシーが購入し、ディスプレイ広告やネイティブ広告を続けて打てるようになれば、「広告の種類のバリエーションと購入モデルの興味深いテスト」になるかもしれないと同氏は語った。

Facebookとケンブリッジ・ アナリティカ(Cambridge Analytica)のスキャンダルのなか、Spotifyがそこまでやるつもりなのかはまだはっきりしない。IPO前に戦略の概要を示した際も、広告ビジネスの見通しは悲喜こもごもだったと伝えられている。Spotifyの収益のうち広告は10%でしかないが、ロイター(Reuters)によると、Spotifyの最高財務責任者であるバリー・マッカーシー氏は、この数字が20%になれば「大喜びだ」と語ったという(ただ、同氏はその実現には疑念を表明した)。

イノベーションの機会



マッカーシー氏の疑念はさておき、SpotifyがIPOに先立ち規制当局に提出した書類によると、2014年には、プレミアム新規登録の60%が、広告による無料プランがもたらしたものだった。広告プランからプレミアム登録へのコンバージョンは続けたいところだが、いずれ成長が鈍化し、サブスクリプション収益はピークを迎える。だとすると、広告は重要な収益拡大策であり、結局、投資家たちが求めるものでもある。

Spotifyは巨大な有料登録オーディエンスを構築しているが、いまの主要市場の裕福な音楽ファンはやがて上限に達すると、デジタルエージェンシーのアナログフォーク(AnalogFolk)で戦略的サービスのディレクターを務めるダグ・バーカー氏は語る。Spotifyが成長が見込まれるほかの市場に進出しても、そうした国々で有料ユーザーの割合が同じようなものになる可能性は低い。「なので、Spotifyは広告モデルへの依存がどんどん高まるだろう」とバーカー氏。「しかし、オーディオ広告にはFacebookのような視覚主導のプラットフォームにはない、イノベージョンの大きなチャンスが広がっている」と同氏は語った。

Seb Joseph (原文 / 訳:ガリレオ)