ソフトバンクCM【学割先生】「白戸家白熱の授業参観」篇

あなたのお気に入りCMは、何位にランクインしているだろうか?
CM総合研究所が毎月2回実施しているCM好感度調査は、東京キー5局でオンエアされたすべてのCMを対象として、関東在住の男女モニターが、好きなCM・印象に残ったCMをヒントなしに思い出して回答するものだ。
最新の2018年3月後期(2018年3月5日〜 2018年3月19日)調査結果から、作品別CM好感度ランキングTOP30を発表。その中から、CM総研が注目するCMをピックアップして、ヒットの理由に迫る。

auのCMが作品別1位に

今回はKDDI『au』の「三太郎」シリーズの新作「習字の愛と着信音」篇がCM好感度の作品別1位となった。

寺子屋の生徒たちが習字で“愛”の文字を練習していると、『iPhone』の着信音が鳴り響く。教室の左側に座る桃太郎(松田翔太)は「え? 何この音」と動揺するが、浦島太郎(桐谷健太)はそれをよそにすくと立ち上がるやロボットダンスを踊りだす。続いて浦島太郎と同じく教室の右半分にいた金太郎(濱田岳)たちも一斉に踊りはじめる。

教室内の“半分”だけを踊らせることで、対象の機種代金が最大“半額”となる有料プログラムをアピールした。一糸乱れぬダンスとひとり戸惑う桃太郎の対比もさることながら、視聴者の関心を集めたのは着信音のユニークな使い方だ。

これまでも『iPhone』の最新機種の発売告知CMでは着信音が活用されている。三太郎たちの住む「昔話」の世界に「現代」の端末を登場させるわけにはいかない。そこであの特徴的な着信音を流すことで、形は見せずとも視聴者に何のCMなのか気付かせる妙案だ。今回は、ダンスと組み合わせることでさらに着信音の存在感を前面に押し出している。

その結果、CMに好感を示した要因として「音楽・サウンド」を挙げた人数は全3203作品中のトップに。調査モニターの感想には「着信来たと思った」「お母さんの携帯が鳴っていると思ってしまう」「あの音が鳴ると自分のと同じなのでビクッ!とする」など、テレビから流れる音に反応した人も多かったようだ。

2位以下には学割を訴求したCMが並び、auとSoftBankはどちらも“親子”をモチーフにしながらもアプローチは対照的だった。今回2位となったau「鬼ちゃんの親心」篇は、鈴木福演じる息子の下校を隠れて見守り、あまりの過保護ぶりに息子の怒りを買った鬼(菅田将暉)が「反抗期来たー!」とむしろ成長を喜ぶというストーリー。

これまでも、進路についてお互いを思い合ったり、入学式で親バカぶりを発揮したりと、「親子で笑おう」というキャッチコピーそのままの素直で温かい家族像を描き、視聴者の心を和ませている。

高嶋ちさ子の演技がハマり役に

一方、竹内涼真演じる“学割先生”ことリョウマを主人公に展開する『SoftBank』のCMでは、「白戸家」の前に“モンスターペアレント”が登場。キーパーソンとなるこの役には、世界的バイオリニストの高嶋ちさ子を抜擢した。

ルールを守らなかった我が子のゲーム機を壊したり、怒りのあまり宿題を破ってしまったりと、実生活でも子育てにおける厳格さで知られる。CMでは高嶋が息子役の志尊淳、担任であるリョウマとの三者面談中に「毎日授業見に来ます」と宣言。すると白戸家の面々が「ウチ家族で来ちゃいますから!」と対抗意識を燃やし、一触即発の雰囲気に。それぞれの家族によるセルフ授業参観が開催され、両家族の行きすぎた応援ぶりにリョウマと志尊がやりにくさを覚えるという内容だ。

モニターの感想を見ると、「高嶋ちさ子がハマリ役」「親役がかなりいい!」などこのキャスティングが高評価だ。さらに「こんな親じゃなくて良かったと思った」「バイオリニストのあのお母さんはリアルだともっと怖いらしいので、CMは演技ではないと言っていたので、ますますおもしろい」という演技とも素ともつかない高嶋の怪演が効いている。

とはいえ、教育現場で実際に起こっている問題を題材に扱うのは十分な配慮が必要だ。あまりにリアルすぎると不快な印象を与え、企業の倫理観を疑われかねない。ヒートアップする家族に困惑したリョウマと志尊が「やりづらいな」と苦笑いを見せ、双眼鏡で様子を見ていた学校の先生(壇蜜)が「ありがたいけど迷惑ね」とさらりと言ってのけるあたりが、SoftBankのバランス感覚の良さだろう。

1994年には『タカラcanチューハイ』のCMで宮沢りえが発したセリフ「すったもんだがありました」がその年の流行語になった。婚約解消という深刻な事態、何より彼女がいちばん傷ついたはずの騒動を逆手にとり、軽妙に語るフレーズが大ヒットしたのだ。

同商品のCMはその後も注目を浴び、パワフルなステージママがいることでも有名だった彼女が「私がここまでこれたのも、み〜んなママのおかげよ」とごまをすった作品は、1995年3月度にCM好感度でトップに上り詰めた。

ネガティブなエピソードを逆手にとったキャスティングは、それだけで世の中の注目を集める。近年では、『カップヌードル』の「OBAKA’s UNIVERSITY」が記憶に新しい。矢口真里を「危機管理の権威」として“心理学部 准教授”役に、「才能はシェアする時代へ」として新垣隆を“芸術協力学部 教授”役にあてるなど、かつての騒動を連想させる設定が大きな話題となった。

本来の意図は「時代を変えるには周りにクレイジーだと思われても自分を貫くようなパワーが必要」という若者へ向けたエールであり、そのためには唯一無二の配役ではあったものの、騒動の内容に意識が集まり結果的にCMは放送取り止め、日清食品は謝罪文を公表するに至った。

国民的関心を下地に描き出された草磲剛の今 

リアリティのある設定は、多くの注目を集める分、視聴者の倫理観・価値観と少しでもずれると批判される可能性もはらんでいる。今回は共感を得た事例としてサントリー食品インターナショナル『伊右衛門』のCMに注目してみたい。

CMは、“こころのざわつき”を抱えたまま江戸時代にタイムスリップした草磲剛が伊右衛門夫妻(本木雅弘・宮沢りえ)の営む茶屋を訪れ、新しくなった商品を飲んで心を軽くするストーリー。

2016年末にSMAPが解散して以降、草磲が出演したCMはアサヒグループ食品『1本満足バー』のみで、今年3月に入ってようやく本作と、瞬間オフライン翻訳機『イリー』のCMが始まったところだ。

サントリー緑茶 伊右衛門CM『こころの茶屋 ティザー/歌』篇

SMAP解散までのいきさつは日本国民の関心事となり、一挙手一投足が注目の的となった。知名度も人気も圧倒的な彼らだが、タレント人気のバロメーターのひとつとも言えるCMではなかなか元気な姿を見ることができない。CMのテーマさながらに草磲自身も、日本中の心もざわついていた時期は間違いなくあっただろう。

そこに今回のCMでの「大変ですよね。生きるって。傷つけたり傷ついたり」という吐露したかのようなセリフである。新CM発表会では「新しいスタートを切ったので、不安で心がざわついていましたが、そういうのも楽しんで新しい気持ちになれました」「今回のエピソードが僕の人生に重なっているCMになったと思います」と明かした草磲。

実際、CMでの草磲の言葉に「セリフなのかアドリブなのかわからない感じ、リアルでいい」と感じるモニターの声もあった。

草磲の動向を見守ってきた視聴者から多くの共感

ただ、それ以上に「草磲さんがお茶を飲んで一息ついている姿にホッとします」「香取さん、稲垣さんに続いて草磲さんもサントリーのCMに出てうれしかった」と安堵感をあらわにしたコメントが目立った。草磲の現在地を示し、新たな門出を祝福するような今回のキャスティングとストーリーは、動向を見守ってきた人々の気持ちに寄り添った内容で、多くの共感を得ることに成功した。

2月には稲垣吾郎と香取慎吾がサントリービール『オールフリー』のCMで「生きてるっ!」と意気揚々と叫び、今回は伊右衛門夫妻との交流によって草磲が新たな決意で未来を向いた。 

CMにおいて「誰に、いつ、何を語らせるか」はメッセージの伝達深度を左右する大切な要素である反面、その判断は非常に難しい。今回取り上げた『SoftBank』の高嶋ちさ子、『伊右衛門』の草磲剛の起用は、消費者を包んでいるムードを的確にとらえ、このうえないタイミングとキャスティングで発信された好事例と言えよう。