2017年10月から発売していた「味噌ラーメン」(税込520円)(ファミリーマートのプレスリリースより)

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コンビニの「ラーメン」にどんな印象を持っているだろうか。ファミリーマートは2015年にラーメンを大幅にリニューアルし、前年比売上3.5倍、1日最大10万食を超える大ヒット商品に育てた。当時の商品本部長として開発を指揮した本多利範氏は「業界の常識をすべてひっくり返すことから始まった」と振り返る。大ヒットの秘密とは――。

※本稿は、本多利範『売れる化』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■日本人のソウルフード、ラーメンを制すには

春夏に人気の商品が冷やし中華だとすると、秋冬になると売れる商品にラーメンがあります。

日本人はとてもラーメンが好きな国民です。ラーメン店がない街など、ほとんど存在しないのではないでしょうか。また醤油、味噌、塩、豚骨などの汁の種類から麺の硬さや縮れ具合まで、人それぞれ好みがうるさい料理と言えるでしょう。

コンビニ各社も、いかにおいしいラーメンを提供できるか、日々努力を重ねています。私たちもスープ、チャーシュー、麺など、あらゆる角度から大々的にリニューアルすべく研究しました。

社内で「どういうラーメンをつくるか」を議論していく中で、よく出てきた意見は以下のようなものでした。

「やはりコンビニラーメンはワンコイン(500円)以上では売れません」
「味噌は、やはり札幌ラーメンでないと」
「豚骨は福岡です」
「喜多方ラーメンがおすすめです」

このように実にいろいろ意見が飛び交いました。日本にはいくつもの有名ラーメンブランドがあり、それぞれファンは一家言を持っています。

そのどれを採用するかで、社員たちは侃々諤々討論を重ねているのです。

■けんちん汁にも「醤油派と塩派」がいる

しかし私の意見では、実のところそんなブランドは一切関係ないと思っています。博多だろうが、喜多方だろうが、札幌だろうが関係なく、「ここのラーメンはおいしい!」と言ってもらえるラーメンをつくればいいのです。

むしろ「○○なら、ここのブランドが最高」という杓子定規的な情報は、自由な発想、自由な商品開発の可能性をつまんでしまいます。例えばけんちん汁にも、醤油味や塩味などがあります。議論すると、必ず「醤油がいい」「いや、絶対塩だ」と意見が分かれるところです。しかし、どちらが本当のところおいしいのか、それが問題ではないのです。

塩派の人も、醤油派の人も、どちらも「おいしい」と感じられるけんちん汁をつくればいい話なのですから。

■「〜でなくては」という発想を捨てる

AかBかCかという狭い枠でのマーケティングでものを考えると、どうしても小さなリニューアルしかできなくなります。

すでにある選択肢から一度離れ、「とにかくおいしいものをつくろう」というシンプルな発想から商品はつくるものだと思っています。

コンビニの商品には、その土地の味覚に対応した地域対応商品が複数存在しています。例えば、おでんやそばやうどんの汁などです。私たちも現在、おでんのつゆを地域別に七種類に分けて提供しています。

例えば関東は、基本のかつおと昆布だしつゆを用意しています。北海道を含めた東北地域はこの基本つゆをベースに貝や煮干しだしをプラスし、中部は牛すじのうまみを加えています。また中国・四国は煮干しだしに鶏だしを加え、九州はアゴだし、鶏だし、シイタケのだしなど、その地域の人々になじみのあるつゆで勝負をかけているのです。そばも同様で、こちらは3種類の汁で対応しています。

これらのだしの味は、もはやその地域に住む人々の血となり肉となり体を構成しています。一口飲んで、ホッと息をつける。

「懐かしい味だな」と感じてもらえる、その安心感が大切なのです。関西の人に、無理やり関東のだしを押し付け「これがおいしいはずだから」というのは、それはちょっと違うだろうと思うのです。

■地域性をあえて持たせず、全国勝負

しかしその一方で、あらゆる商品に対して「地域性」を前面に出して商品開発をすればいいかというと、それも少し違うのではないかと思っています。「地域性を大切にする」ということは、響きはいいですが、全国区で勝負できる自信がないということにもつながります。

地域性を超えてもおいしいものはやはりおいしいのであり、日本人として普遍的なおいしさを求めた一本勝負をすべき場合もあるのではないでしょうか。

そのような思いから、ラーメンに関しては地域性をあえて持たせず、全国勝負をしています。

醤油ラーメン、味噌ラーメン、豚骨ラーメンの三大ラーメンに加え、「昔ながらの醤油ラーメン」「ちゃんぽん」など、その時々でテーマを持たせた商品を開発していますが、基本的に全国展開で皆さまに味わっていただきたいと思っているのです。

さて、もう少し具体的な話をしますと、コンビニやスーパーなどに置いてあるチルドラーメンには課題がいくつかあります。

これまでどうしても専門店に並ぶような味や食感が実現できていなかったのは、やはり調理から実際に食べるまでのタイムラグが大きいという事情があったからです。

ラーメン専門店で食べる場合、茹でたての麺をすぐに汁に入れてお客さまに提供できます。しかしチルドラーメンだと、麺を茹でてから食べるまで、どうしても時間がかかってしまうのが問題です。これはラーメンをはじめ、麺類にとっては致命的な弱点です。

どれほどおいしい麺を開発でき、どれほど完璧なスープができても、時間のたった麺を投入するのではどうしても間の抜けた食感になってしまいます。そこが長年の研究のポイントでした。

■10万食を超える大ヒットラーメン誕生

現在では、お客さまが店で買ったラーメンをレンジで温めたその瞬間にこそ、もっともおいしい麺、もっともおいしいスープ、もっともおいしいチャーシューを味わえるよう、すべての工程を逆算してつくりあげています。

醤油ラーメンや味噌ラーメンは、食べた時にもちもちの食感を楽しめるよう三層仕立てに、豚骨ラーメンなら食べるその時にちょうどいい「バリカタ」になっているよう、工夫を凝らしたのです。

スープも問題でした。チルドラーメンの場合は、スープをゼラチンで固める必要が出てきますが、純粋なスープの味がゼラチンの雑味で損なわれないよう、ゼラチンの微妙な味までこだわらなくてはならないのです。

さまざまな試行錯誤の結果、現時点で満足のいくラーメンができあがりました。おかげさまで1日最大で10万食を超える大ヒットとなり、刷新前に比べると、店舗におけるラーメンの売り上げは、平均して3.5倍近くの伸びを記録しました。

しかし、まだまだ改善の余地はあります。ヒット商品が生まれても、そこがゴールではなく、むしろそこからがスタートです。ある商品がヒットするということは、お客さまの基準値もアップするということです。商品開発をすればするほど、お客さまの水準、期待値もアップしていく。これこそが商品開発に関わる者にとって大変な面であり、また醍醐味であると言えるでしょう。

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本多利範(ほんだ・としのり)
本多コンサルティング代表
1949年生まれ。大和証券を経て、1977年セブン‐イレブン・ジャパン入社。同社の最年少取締役に就任。後に渡韓し、ロッテグループ専務として韓国セブン‐イレブンの再建に従事。帰国後、スギ薬局専務、ラオックス社長、エーエム・ピーエム・ジャパン社長を経て、2010年よりファミリーマート常務。2015年より取締役専務執行役員・商品本部長として、おにぎりや弁当など多くの商品の全面改革に取り組む。2018年、株式会社本多コンサルティングを設立。著書に『おにぎりの本多さん とっても美味しい「市場創造」物語』(プレジデント社)がある。

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(本多コンサルティング代表 本多 利範)